表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/51

第22話 実は伝説の傭兵だった日


「……なるほどな。それでは君たちはこことは別の銀河から、技術試験的な亜空間航行による偶発的な事故で、この銀河へと飛ばされてきた凄腕傭兵だったという訳か」

「そうです」

「それで、帰る術もないと」

「そうかな? そうかも」

「なぜ疑問形なんだ……」


 何食わぬ顔で真っ赤な嘘を並び立てる俺と、なんだか良く分からないけどアニキが言うなら全部正しいぜ、とばかりに頷くニア。

 出自を誤魔化すつもりが無いといえば嘘になるが、これで信じちゃうエリシーナ少佐にも問題はあると思います。


 いや、決して責任転嫁している訳ではないんだけどね? 

 ただこう、一般論としてもうちょっと他人を疑うことを覚えたほうがいいかなと、親切心から思っただけであって。


 え、白々しい?

 ははは、これが大人という生き物さ。

 生きるための知恵と言って欲しいね。


「ふうむ、まあいいだろう。信じがたいが、嘘をついているようには見えないしな。何よりこの状況を説明する手段が他にないのもある」

「そうですよね」

「アニキが言うならそうだぜ!」

「うむ」


 うーん、純粋無垢なニアの返事でおっさんの汚い心が浄化されそうだ。

 この子はこのまま、清く正しい心ですくすくと成長して欲しいものである。


 ああでも、エリシーナ少佐のように育ってもらっては困るな、これでは悪い人間に簡単に騙されてしまう。

 子育てとは、なかなかに悩ましいものだなあ。


「分かった。銀河連邦での身分はサンダリオン家が保証しよう。先日の戦いで信用も十分にあるしな。父上も娘の私が命を救われたとあれば、無下にはしないはずだ」

「はは~、ありがたき幸せ」

「ありがたき幸せ~、だぜ!」

「ふふふっ。二人は信頼し合っているのだな。暖かい家族でなによりだ」


 俺の真似をして頭を下げるニアを見て、思わずと言った様子で笑いを零すエリシーナ少佐。

 どうやら俺たちの事情がある程度理解できたことで、メタル・ブラックドラゴンという戦力を保有した不審者から、ちょっと不思議な漂流者へとランクアップしたらしい。


 こちらを受け入れる姿勢が最初とは全然違う。


 ちなみに、現在の俺たちはコロニーでの激戦を終えてからしばらく。

 不明機体とその搭乗者の身柄を確保し取り調べするという名目で、サンダリオン侯爵領の領都惑星まで巨大な旗艦で運ばれている最中だった。


 そのついでにエリシーナ少佐から尋問も受けていたが、まあその結果は見ての通りだ。

 この人は相当なお人好しだったようで、こちらの言い分はすんなりと受け入れられ、侯爵家が保証する身分と後ろ盾をゲットすることが出来た。


 なお、俺が搭乗していた機体であるメタル・ブラックドラゴンもこの旗艦内部のドックに収容されている。

 領都惑星まではあと二日の亜空間航行で到着するらしいが、コロニーでの激戦を終えた戦士達のウェポンアーマーも含め、ある程度はその二日間に旗艦の内部で修理ができるらしい。


 その大きさはさすがSF世界の宇宙船といった風格。

 全長を教えてもらったところ、なんと三十キロメートルほどもあるという。


 最初にこの話を聞いた時、お偉いさんであるエリシーナ少佐が乗っているため見栄を張っているのかと思ったが、そうでもないらしい。

 この旗艦を護衛する周囲の宇宙戦艦でさえ、十キロメートルほどの巨大戦艦だ。


 どうやらこの大きさが宇宙に出るときの標準的な艦隊サイズらしい。

 といってもあまりの大きさ故に惑星の重力圏内やコロニー内部には降りられず、艦隊は周囲のステーションに滞在して、大気圏内を移動する時は小型船で行き来するのだとか。


 すごいな遠未来の銀河文明。

 恒星系間をワープで移動することと言い、船のデカさと言い。

 本当にスケールがとんでもない。


 そりゃあ二十メートル級の巨大ロボットが、歩兵としてぽこぽこ湧いてくるはずである。

 俺とニアが遭遇したコロニー戦争など、帝国軍と連邦からすれば、ほんの小競り合いだったというわけだ。


 といっても、歩兵としてはあの帝国軍のウェポンアーマーは、それなりに最新型らしいんだけどね。

 辺境にあるコロニーの一つとはいえ、視察に訪れていたらしい侯爵令嬢のエリシーナ少佐が命の危険に晒されたんだ。


 護衛騎士や兵士である味方の軍はボコボコにやられていたし、暗殺に使うには案外驚異的な戦力だったのかもしれない。


「しかし君たちの乗っていた機体は凄まじい科学力の結晶だな。ドックの技術班から報告を受けているが、メンテナンスの方法どころか、動かし方すら分からないらしいぞ?」


 それはそう。

 あれは厳密にはロボットでもマシンでもないしな。

 俺の能力で直接動かしているだけのスーパー操り人形でしかない。


 それこそこちらの文明ではオーパーツとも言える、意味不明なことわりを用いた謎の異物だろう。

 俺にとっては現実改変しただけの元オモチャでも、こちらではその価値は計り知れない。


 ……ん?

 待てよ?

 ……ということは。


「え~と、つかぬ事を聞きますが」

「ん? なんだ? なんでも聞いてくれ。軍事機密までは話せないが、君たちは我が侯爵家の恩人だ。それなりの便宜は図ろう」

「それでは遠慮なく」


 便宜を図ってくれるらしいので、俺はたった今思い付いた取引を忖度なしに告げる。

 内容は英雄的な活躍をした機体であるメタル・ブラックドラゴンの提供と、それに見合うだけの高性能AIと通貨の取引。


 そもそもこの黒龍の元手なんて、一万円ちょっとの値段で売られていた、ホビーショップにいくらでもある量産型のフィギュアだ。

 どこで失っても痛くも痒くもないため、目的である高性能AIと取引できるなら俺に損はない。


 それに向こうだってメンテナンスすら不可能なオーパーツが手に入るのである、損はあるまい。

 もちろん取引に応じてもらえるなら、この銀河の人にも動かせるようにするところまで付け加えて、俺は要求を投げつけた。


「なに? それはこちらとしても有難い話だが……。しかし、あれほどの機体ともなれば、傭兵を生業とするハセガワにとっても切り札であるはずだ。本当にいいのか?」


 いえいえ、切り札どころかオモチャなんですよとは言わず、俺はあたかも深い事情があるかのような雰囲気を醸し出した。


「もちろんです。もともと傭兵稼業なんていつまでも続けられるものではない。それにこの子のこともある。こちらの銀河に来たのも何かの縁なのでしょう。……たまたま今日、足を洗う時がきたってだけですよ」


 そう言ってニアの頭をわしゃわしゃと撫でると、アニキ~と言って甘えてくる。

 その様子を見たエリシーナ少佐はまるで、この銀河で最も尊い家族の絆を見たといわんばかりに感動し、涙を見せて震えていた。


 それも顔中をぐちゃぐちゃにするタイプの号泣である。

 ……なんかちょっと、泣き過ぎじゃない?


「うぅ、ぐすっ……。本当に守る者を得た歴戦の英雄が、そこまで言うのか。きっとお前にとって、この銀河に飛ばされてきたことは一つの救いだったのだろう。……ああ、お前のその子に対する想いは分かった。任せておけ」


 何やらエリシーナ少佐に分かられちゃったらしい。

 わざとらしく演出した俺が言うのもなんだが、なんかめちゃくちゃ勘違いされている気がする。


 台詞から推測するに。

 たぶん、見知らぬ銀河でニアを守り続けた伝説の傭兵が、戦いの果てついにこちら銀河で安息の地を得た……。

 なんていうストーリーが展開されているのだろう。


 もちろんそんな訳ないが、そう思ってくれるのであればわざわざ訂正はしない。

 すまんな銀河文明、これも全て地球を面白くするための活動なんだ。

 メタル・ブラックドラゴンの提供で貢献はするので、許してほしいところである。


 そんな感じで話はまとまり、二日後。

 亜空間航行の間、第八世代型とかいう軍用AIをドラゴンに融合し、自律行動を可能にさせ。

 おまけの現実改変で自動修復もといメンテナンスができるように改造した俺は、ついにサンダリオン侯爵家の領都惑星に到着するのであった。


 なお領都惑星に到着後、号泣しながら娘の帰りを待っていたサンダリオン侯爵にはえらく感謝され、身分証の件はすんなりと通った。


 なんでも帝国軍に暗殺されかけたこともそうだが、娘のエリシーナから俺の事情を聴いて思いっきり事情に共感したらしい。

 別銀河を駆け抜けた伝説の傭兵が、守る者のため武力を脱ぎ捨て安住の地を求めたことに対し、同じ父親として尊敬いたしますなんて言われたよ。


 いやほんと、何を父親に喋ったんだこの侯爵令嬢は。

 どんどん話に尾ひれがついて、設定が盛られていく未来しか予想できないんだけども。


 まあ、それはさておき。

 身分証を得たことで無事に取引は完了し、銀河連邦で使用できるデジタル通貨を手に入れることができた。


 民間用ではあるが最新式のAIも提供されていて、腕輪型のデバイスに内蔵されたAIがホログラムとなって出現するタイプの、コミュニケーション特化型だ。

 まあコミュニケーション特化といっても、地球にあるなんちゃってAIなんかとは、全分野において比べ物にならない性能だけども。


 余談だが、ニア曰く見どころのある舎弟妖精が増えたくらいの認識なので、どんな技術が使われているのか理解できない俺も、舎弟妖精として扱おうと決めた。

 今日からこいつの名前は手下、ではなくミニオン、もといミニコだ。


「さて、やることもだいたい終わって自由の身になったし。そろそろ帰るか?」

「帰るかー!」

「もうご住宅がお決まりなのでしょうか? もしよろしければ、有能な最新AIであるミニコの方で、連邦内の全物件を余裕で検索いたしますが……」


 ちなみに、最後の台詞はミニコのものである。

 こいつの性格はこちらで設定可能なのだが、所有者の相性診断とやらでニアが受け答えした結果、なぜかめちゃくちゃクセが強い性格になってしまった。


 実際、ニアとミニコの性格はかなり相性がいいので、さすが未来世界の相性診断であると言わざるを得ない。


 また、サンダリオン侯爵からはぜひうちの賓客として、いつまでも滞在していってくれと言われているが、当然断っている。

 俺がいま、いつどこで何をしているかなんて探られたくないからな。

 特に転移能力は秘匿しておきたい。


 なので活躍に見合った金だけもらい、当分の間は地道に仕事を探しますよと言って逃げてきたのである。

 こちらは侯爵家の後ろ盾が出来て、いつでも顔パスでつなぎが取れるだけで十分だ。


「じゃあ、転移!」

「いえーい! 転移!」

「……!? 警告! 警告! 警告! 未知の空間湾曲現象を確認! 警告! 警告!」


 直後、見知らぬ惑星に転移したミニコが動揺し、アラートをまき散らしながら暴走した。


 いや、ニアが自然に適応してるから油断していた。

 普通はこうなるよな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ