第21話 コロニーの戦争に介入した日
「いたぞ! 連邦の残党だ!」
「撃ち殺せぇーー!」
「このコロニーから一人たりとも逃すな!」
「くそがぁーーーー! この残虐非道な帝国軍め!」
えー、こちらルンルン気分でSF世界に転移した直後の地球人、もとい現実改変おっさんの俺と異世界人のニアです。
とてもタイミングが悪いことに、ちょっと治安の悪いコロニーに転移したつもりが、ちょうど帝国軍と連邦とやらの戦場に巻き込まれる形になってしまいました。
詳しい事情は全く分からないが、周囲の話を聞くにこのコロニーは連邦所有の領土であり、その領土に侵略してきたのが今襲い掛かっている帝国軍とやらのようである。
なお戦力差は明らかで、帝国軍はもれなく巨大ロボット兵器に搭乗した兵士達で構成されており、巨大な光線銃を持ちバビュンバビュンと連邦の兵士達を焼き殺していく。
連邦側も全員がやられっぱなしでもないみたいだけどね。
ちょこちょこ帝国とはデザインの違う巨大ロボットに搭乗した兵士が、なけなしの抵抗をしているからだ。
「くそぉ! 数が、数が違いすぎる!」
「ハッハァー! 別れの挨拶は済んだか連邦の兵士! 数だけじゃねぇ、もともとウェポンアーマーの質が違ぇ!!」
「がぁーーーーー!?」
もはや阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
今もまた一人、ウェポンアーマーなる巨大ロボットの光線銃に貫かれ、連邦側の兵士が命を散らした。
う、うーん……。
どうしようか、これ?
「なんだか賑やかだなアニキ! どうする? どうする!?」
「そうだなぁ。ニアはどうしたいと思う?」
「あのでっかい魔物、全部倒したい!」
一旦地球に戻って出直すっていうのも手だが、なんかニアが妙にやる気満々なんだよね。
やる気っていうか、殺る気?
とにかく、戦いたくてうずうずしているらしい。
まあぱっと見、巨大ロボットなんていう概念を知らないニアからすれば、襲い掛かってくる帝国軍とやらは全員魔物と大差ないのだろう。
だがまあ確かに。
今もコロニーの民間人を襲いまくってるし、国家間の戦争かもしれないとはいえ、やってることは魔物と変わらんな。
よし、いっちょここは連邦とやらに味方してやるとしますか。
ちなみに俺がニアを連れてこんな余裕の態度で居られるのは、この世界の光線銃すらも目視で回避が可能であると分かったからである。
確かに兵器の威力はそれなりだが、着弾スピードはそれほどでもないらしい。
それに当たったとしても、ダンジョン攻略による成長と能力付与で魔改造されたニアや、あらゆる能力でガチガチに固めてある俺の装甲を抜くほどではない。
見た感じ、ちょっと暖めすぎたお茶で口を火傷すれば良い方、くらいの威力だろうか。
つまり命の危険はほぼゼロである。
なんならピンチになったら転移で逃げてポーション飲めば元通りだ。
そこまで考えた俺は、安全マージンが十分に取れていることを理解してニアを暴れさせてやることにした。
それに俺も巨大ロボット兵器には憧れがあったんだ。
「まあいいぞ。やるか、ニア」
「やるぞー!」
「でも俺からは離れちゃダメだぞ? 何事も万が一があるからな」
「わかったぜアニキ」
聞き分けの良い子でなにより。
といっても、このままではコロニーを自由に飛び回るウェポンアーマーなる巨大ロボットに射程が届かない。
持ち込んだ護身用のレーザー銃では火力不足だろうし、プリズムステッキの爆殺ビームも、もうちょっと近づかないと避けられてしまうだろう。
というわけで、こちらも大型決戦兵器に乗り込むことにする。
用意するのはホビーショップで購入したオモチャ。
いずれ異世界で使おうと思っていたメタリックな黒龍フィギュアだ。
なんでも最近流行のカードゲームで人気のエースモンスターらしい。
で、これを現実改変で体長五十メートルほどのメタル・ブラックドラゴンに変貌させ、その背中に乗り込んだ。
付与する能力は頑丈なボディに熱耐性、それと重力操作による飛行能力でいいだろうか?
まあ、必要になったらその都度能力を追加すればいいか。
そして俺の指示に合わせて黒龍の翼がはばたき、空を舞う。
「うおーーーーー!? すっげー!」
「はっはっは! そうだろうそうだろう」
なんたってドラゴンに乗って空を飛ぶのは、人類共通のロマンだからな。
ニアがラブリー・シュートを撃ちやすいように改造したドラゴンの背中で、椅子のような突起にすっぽり収まりながら大喜びしている。
喜んでもらえたようでなによりだよ。
俺はニアが大人として大成できるよう、子供のうちに貴重な経験を多く積ませてやりたいと思っているので、今後もこういうサプライズは積極的に続けていくつもりだ。
ちなみに戦場の兵士達の方は、唐突に現れたメタル・ブラックドラゴンを目撃してしまい、完全に静まり返っている。
それはもう、帝国軍も連邦兵士も、すべからく全員がお通夜状態だ。
見たところウェポンアーマーなる巨大ロボは、一番大きい機体でもせいぜい二十メートルだからな。
サイズが違うのだよ、サイズが。
「な、なんだ、あのバケモノは……?」
「まさか連邦のコロニーにこんな決戦兵器が眠っていたなんて……」
「く、くそ、連邦のウェポンアーマーはバケモノか!」
コロニーを襲っていた帝国の兵士が動揺し、俺達から距離を取るように後退していく。
いやいや、悪いけど逃がさんよ。
どんな理由があるのかは知らないが、コロニーの民間人にも武器を向けたのは個人的にはナシだ。
そんなことが許されるなら、異世界からの旅行者である俺とニアがいつ襲われてもおかしくないからな。
帝国軍とやらはいまのところ、完全に敵である。
せいぜいニアのラブリー・シュートの糧になってくれ。
せめてもの情けとしてコックピットではなく動力部を狙わせてもらうが、まあ死んでも心は痛まない。
恨まないでくれよ。
「ニア、あの魔物の光っている部分が見えるか? あれが弱点だぞ。存分に撃て」
「よっしゃー! ラブリー・シュート!」
そして始まった、ニアによる愛の爆殺ビーム無双。
メタル・ブラックドラゴンの背中から放たれた爆殺ビームは、的確に近くのウェポンアーマーから動力部を奪っていく。
近づいて殲滅、近づいて殲滅、時々ヤケクソ気味に反撃してくるので旋回して避けつつ、殲滅。
相手の巨大ロボに比べると機動力が違い過ぎて、まともに戦いにならないな。
まあでも、苦戦するよりはいいだろ。
「お、おおおお! あのバケモノが帝国軍を駆逐していくぞ!?」
「どこだ、どこの部隊所属のウェポンアーマーだ!?」
「知らん! 少なくともうちの隊ではない! だが味方なのは確かだ!」
その様子を見ていた連邦側も、ここぞとばかりに勢いづく。
たぶん、なんだか知らないが味方なら共闘しとこ、みたいなノリなんだろうな。
まさに今、生きるか死ぬかの中でほぼ負け確実なくらい劣勢だったんだ。
急に現れた兵器の謎を解明するよりも、とりあえず勝つことが第一目標になるのは分からなくもないね。
俺でもそうする。
そうしてメタル・ブラックドラゴンと共闘し始めた連邦側は、コロニーに襲い掛かってきた帝国軍へ次々と逆襲していき、殲滅もしくはコロニー外部へと追い出すことに成功した。
そんな感じで奇跡的な勝利を掴んだ連邦ではあるが、俺としてはこれだけの猛攻の中、逃げ出せたウェポンアーマーも居たことに驚きである。
腐っても襲い掛かってくるだけの準備をしていた軍隊、ってことなんだろうね。
ちゃんと万が一の退路も確保して作戦に挑んでいたようだ。
そうしてニアの大活躍により平和が訪れたコロニーであるが、戦闘終了後、なんと救世主であるはずの俺達は連邦のウェポンアーマー部隊に完全に包囲され、大量の光線銃を向けられていた。
そして、その包囲網の中でもひときわ豪華な装飾が施された、見るからに別格といった感じのウェポンアーマーが前に出てこちらを誰何してくる。
もしかしてここの隊長さんか、お偉いさんとかなのかな?
「そこの不明機体。どこからの応援かは知らないが、援軍感謝する。……ところで、所属部隊はどちらだろうか?」
ふむ、どう答えたものかな。
声色を聞くにこの人は女性軍人のお偉いさんなのかな、なんてどうでもいい事を考えながら、俺とニアには所属部隊もくそもないので言い淀むしかない。
うーむ……。
「ふむ、そうだな。まずはこちらの所属を明かそう。といっても援軍に来るくらいだから知っているだろうが、私は銀河連邦サンダリオン支部所属、エリシーナ・サンダリオン少佐である。サンダリオン領の侯爵令嬢といえば分かりやすいか?」
そしてなんと、ここはサンダリオン侯爵領とやら所属のコロニーだったらしい。
いや、そんなこと言われても結局は何も分からんと思いつつ、こちらの出方をある程度決めたので、ようやく口を開くことにした。
「えー。異世界アース旅行軍プリズムスレイヤーニア部隊所属、長谷川天気とニアでございます。オーバー?」
「なっ、はぁっ!? き、キサマ、馬鹿にしているのか! くそ、この不審機体め! 本当にどこの部隊所属だ!! 正直に答えろぉ!!」
まあ、そりゃこうなる。
とはいえ、これ以上答えようがないのだから仕方がない。
だがこれにも理由があって、身分証も何もないまま活動するよりも、正直に正体不明の援軍として潜り込んでお偉いさんの協力を得た方が、今後こちらの異世界で便宜を図ってもらえるだろうなという打算あってのものである。
もともとお偉いさんと知り合える機会なんて早々なかったからこそ、ちょっと治安が悪いコロニーに転移してきたんだ。
それがこうしてお偉いさんと知り合う機会が出来たなら、これを利用しない手はないだろう。
余談だが、ニアはプリズムスレイヤーニア部隊という称号が気に入ったようで、ドラゴンの上でふんぞり返りながら、胸をそらして腕を組み満足気にしている。
よかったよかった。




