第20話 二つ目の異世界に転移した日
「うがぁーーーー!!」
「ほら落ち着けニア。どうどう、どうどう」
政府との面会が上手くいってから数日後。
そろそろ新しい異世界にでもアイデアを調査しに行こうかなと、それなりに考え中の現在。
なんと我がアパートにてニアが暴走し、俺の腕の中でもがき大暴れしていた。
どうやらとても気に食わないことがあったらしく、大変お怒りのようだ。
ちなみに、この暴走の原因は既に特定できているぞ。
どうやら少し前に書き込んだままブラウザを開きっぱなしで放置していた、ダンジョンについて語っている掲示板の内容がニアの逆鱗に触れたらしい。
なんでも掲示板には、絶対零度の使い手である鳳勇気くんを持ち上げるようなコメントが書かれており、本当の最強冒険者である俺を敬わない生意気なネット民、もとい舎弟妖精たちが跋扈しているのだと豪語している。
そう、つまり俺が一般人に成りすまして書き込んだ、予言者染みた謎コメントが発端なのだ。
というのもダンジョンを地球上に解放していくにあたり、最低限の情報が無いと攻略も進まないだろうなと考えた俺は、掲示板などを通じて静かに情報を供給することにしていた。
そのついでに、絶対零度の使い手である勇気くんの名前を伏せつつも、有名になれば分かるくらいの内容で推していたんだよね。
それでなんでお怒りなのかって?
それはニアにとって、この掲示板の書き込みは全てパソコンに封じられた舎弟妖精のコメントであると認識されているからだ。
俺の手下である妖精その一が、オヤブンであるアニキを差し置いて勇気くんをトップランカーに推すなど、舎弟妖精としての心構えが成っていない。
なんならアニキの一番の子分であるニア様が、舎弟のなんたるかを直々に教育してやる。
……という意気込みで暴れているようなのであった。
うん、見事に掲示板への認識を勘違いしているね。
でもニアに現代科学のうんちくを語っても、今更理解などできないので説明はしない。
直近の問題は、このお怒りモードのニアをどう諫めるかである。
「あのなニア。俺は生意気な妖精のことなんか気にしてないから。こいつらみんな、アニキの手下だぞ? ちょっと調子に乗ったくらいで、俺に逆らえると思うか?」
「おもわない。だってオレのアニキは強いから」
「そうだ。分かってくれて俺は嬉しいよ。飴ちゃん食べるか? ん?」
「たべる!」
「よし、いい子だ」
ふう、ミッションコンプリート。
なんとかご機嫌は回復したようである。
まだ少しだけ悔しさが残っているのか、俺の足にしがみついて頭をこすり付けてくるニアだが、このくらいならもう許容範囲だろう。
軽く頭を撫でてやれば、ニアは嬉しそうに破顔した。
なんにせよ今後はできるだけ、ニアの前で掲示板への書き込みはしないようにする。
ダンジョンの情報をステルスで流すならスマホからがメインになるな。
うん、それが良い。
これなら問題が起きようも無いな。
さて、そんな感じでニアの機嫌が収まったようなので、今日の本題である二つ目の異世界について考察を進める。
想定しているのは科学の発達した遠未来的なSF世界だ。
高度な科学技術は人々を宇宙に進出させ、銀河を自由に飛び回る宇宙船や拠点となるコロニー。
そしてそんな文明と人間達を支えるAI技術。
まさに剣と魔法のファンタジー世界とは正反対に位置する、地球の属する世界の正統進化系とも言えるスペースワールドである。
なお、今回SF世界に求めているのはAI技術の輸入だ。
最近ちょっと思ったんだよね。
地球上で活動するにあたり、世界中の情報収集や情報操作、それと日本政府との面会や今後増える世界各地でのイベント活動にて、あまりにも人手が足らないんじゃなかろうかと。
故に、その辺の人手を解決するため、俺は助手となる高性能AIを相棒に求めたのである。
数日後には勇気くんのダンジョンデビュー戦も控えているし、これからは世界各地へダンジョンを解放するにあたってどんどん忙しくなるだろう。
いくら俺が万能の能力を持っていても、個人ではできることに限界があるのだ。
能力の中に生命体や助手を生み出す力が備わっていればよかったが、残念ながら神の爺さんにその手の現実改変能力は頂いていない。
俺がわざわざダンジョンコアを異世界から輸入してきているのも、直接的に魔物を創造する権能を持たないためである。
フィギュアを巨大化させて動かすとか、単純な命令を聞いてくれるアンドロイドのようなモンスターを作り出すことは、ギリギリできそうなんだけどね。
しかしそれだって自動的に魔物をぽこぽこと生み出すダンジョンコアには及ばない。
というより、たぶん俺が創る巨大フィギュアロボは遠隔操作ができない。
現実改変の能力付与で無理やり動かしているだけだから、意思を持たない人形では、俺が傍にいないと戦うこともできないだろう。
ようするに操り人形みたいなものである。
だからこそ、ここで高性能なAIが必要なのだ。
知能の役割を果たすAIに、俺の能力を付与させたスーパー人形ボディを与えてやれば、人手の問題は一瞬で解決するはず。
なんなら政府との駆け引き用キャラクターである、大魔導士マーリン役はAIに任せたっていい訳だ。
完璧な計画である。
というわけで、さっそくニアを連れたSF世界への旅行を計画した。
なお、戸籍や身分証なんてものは当然持っていないので、トラブルが起こることが予想される。
そのため今回は身分を偽装するためのマーリンマスク、もとい認識改変のベネチアンマスクを俺とニアに装備させておく予定である。
これを装備したところでトラブルを完全に回避できるわけではないが、最低限こちらの身バレは防げるので保険にはなるだろう。
あとはSF世界では魔力エネルギーが存在しないため、魔法が使えないのも注意点だな。
一応オモチャを現実改変したレーザー銃と、ものすごい切れ味と頑丈さを持つ元オモチャの剣くらいは持っていく。
ちなみに、ニアのプリズムステッキには魔力粒子を能動的に生み出すハートの宝石が内臓されているので、魔力の満ちた世界に比べて破壊力は落ちるだろうが、愛の爆殺ビームは健在である。
「準備できたかー?」
「できたー」
「じゃ、いくか!」
「いくかー!」
イメージするのはファンタジー世界における交易都市のような、治安の良い場所ではない。
むしろ治安はそれとなく悪く、ある意味SF世界のスラム街とも言えるジャンクな地域だ。
なぜなら治安の良い場所では武器の携帯が許されているかも分からず、セキュリティも厳しいだろうからだ。
その点、SF世界といえどスラム街に近い場所であれば多少の暴力も許されると踏んで、この結論に至った。
また、向こうの世界の通貨を一銭も持たない俺とニアが、テキトーな戦闘や仕事で稼げそうなところもポイント。
仕事や通貨という交換条件がなくちゃ、目的の高性能AIも手に入らないからな。
未来世界のAIがどれくらい貴重かにもよるが、なるべくそれらが普及している世界を選んでいるので、恐らくある程度安価で手に入るはずだ。
そこまでのイメージを完成させた俺は、準備ができたニアを連れて新たな異世界である、遠未来科学文明のコロニーへと転移したのであった。
「……よし、転移!」




