第18話 政府を作り話で盛り上げた日
俺は異能者側の事情を伝える為、コツ、コツ、コツと靴を鳴らして周囲を歩き、勿体ぶった動きで深いため息と共に語る。
まず最初に。
太古の昔から人類が怪異と戦ってきた裏の歴史は事前に伝えた通りだが、加えて最近魔力が急激に高まりつつあることを宣言した。
今までは科学文明が発達してきたことで比較的怪異が静かだった。
それ故に長い間、異能者達も表に出る機会は無かったのである。
だが事情が変わったことで世界各地に怪異と神秘の集中地点、悪意の坩堝たるダンジョンが生まれはじめ、もはや裏だの表だのと言っている場合ではなくなったことを伝える。
それは止めようがなく、ダンジョンはいずれ世界各地に出現することとなるだろう。
もはやそれは裏で暗躍する異能者たちだけでは手にあまり、どうこうすることができない。
何より、ダンジョンが出現するその時には世界中がパニックになるはずだ。
その時に必要なのはもはや少数の異能者達の力ではなく、国家や政府といった大きな枠組みの力である。
そのための情報統制や民衆のコントロールをお願いしたく、こうして信用を得るために物資を提供した。
……と、俺はそう答えたのである。
この話を聞き終えた主練首相はようやく肩から力を抜き、しかし同時に来るべき災厄を認識して表情を引き締めた。
「……そういうことでしたか。しかしまさか、本当にそのような世界が存在していようとは」
「首相! このような与太話を信じるのですか!? この話はあまりにも異能者側に有利です! なによりダンジョンだのなんだのと……。根拠がないではないですか! もし本当だったとして、彼にはその実証のため政府の指示に従ってもらうべきです!」
ほほーん。
なにやら防衛大臣の方は責任の所在に納得がいかないらしく、俺の話や提供物資から利益を貪りつつも、どうにかして大魔導士たるこのキャラクターの力を手中に収めたいようだ。
まあ確かに、俺の力を日本の防衛力に運用できたら無敵だからね。
こうして欲を出してしまうのも理解できる。
だが、主練首相や周囲の重鎮、研究者たちの表情を見るに彼の発言に賛同する者は居なさそうだ。
どうやらこれは政府としての見解ではなく、防衛大臣の個人的な暴走らしい。
「やめたまえ漆川防衛大臣。君はそうやって、全ての責任を異能者達に求めるつもりなんだろう? その選択はあまりに愚かだ」
「しかし!」
その後もああだこうだと食って掛かる漆川防衛大臣だが、最終的に主練首相と周囲の重鎮に言いくるめられ撃沈していた。
うーん、どんまい。
さすがに多勢に無勢というか、孤立しすぎである。
しかしやり方はともかく、漆川防衛大臣の日本の未来を守るために俺の力を借りたいという思惑には共感できる。
彼の思うような飼い犬になるつもりは全くないが、ダンジョンだの怪異だのといったファンタジー要素を巡って、他国と軋轢が生まれたり戦争が起こるのは俺も望むところじゃない。
というか神の爺さんの依頼から脱線する。
少しフォローくらいはしておくか。
「まあ別に、防衛に力を貸さないと言っているわけではないですがね。人類を守るためのダンジョンの話し合いで、戦争のきっかけが生まれてしまえば本末転倒ですよ」
「……なんと!」
「とはいえ、私は日本人でもなければその義理もない。そこであなた方に朗報です。ダンジョンの怪異を倒せば、それなりの確率で異能が芽生えるんですよ」
この情報に喜色満面の笑みになる漆川防衛大臣だが、本当に大丈夫かね?
そんなに喜ばれても、残念ながら俺が直接手を貸すわけではないんだけども。
なお作戦としては、世界各地にダンジョンコアをばら撒く過程で現地人に魔物を討伐してもらい、少しずつ異能者を作り上げ、それぞれの国の代表戦力として擁立してもらえればいいと思っている。
魔物って討伐すると、その内部の魔力が人間に蓄えられて本人を強化していくんだよ。
もともとの種族差もあるけど、異世界人が異様に強いのはそのためである。
ようするにモンスターを倒してレベルアップする、ということだ。
といっても強くなる速度は本当に微弱でスローペースだし、どんなに強くても魔法技術の知識がなければ魔法は使えない。
その辺は俺が徐々に技術公開していくが、ダンジョンで生まれる魔法剣やらのマジックアイテムを利用して行く方が、文明としては先に発達しそうだ。
ワンチャン、ダンジョン攻略の過程で魔法習得のスキルオーブなんていうアイテムが落ちる可能性は、全然あるけどもね。
ダンジョンコアの設定を現実改変で弄れば不可能ではないので、その辺りのテコ入れは追々だ。
それとこれは願望だが、できればダンジョン攻略の最前線、日本の代表には鳳勇気くん、彼に頑張って欲しいところである。
まあ青少年にあまり責任を背負わせ過ぎるのも可哀そうだから、この話は今のところ内緒だ。
彼自身がこの件に前向きならば話は別なので、期待だけはしておく。
勇気くんが目立っていけばそのうち長谷川の話も漏れるだろうが、まあその時はその時だ。
そうなるまでに時間はかなりかかるし、微弱とはいえ異能者がそこら中に発生すれば、俺がそう目立つこともない。
……とはいえ、その時になったら一応釘は刺しておくか。
いくら無差別に異能者が生まれるようになるとはいえ、さすがに俺やニアの力は別格だからな。
もう大魔導士マーリンとかいう謎の設定も政府の中では確立されたようだし、その俺に釘をさされれば、そこまで言わせる人物を恐れるはず。
釘をさす建前としては、用意していたライバル設定の応用で良いだろう。
いやー、やっぱ裏設定は作っておくに限るなあ。
備えあれば憂いなしである。
そうこうして話し合いは進み、この土地の魔力の膨れ上がり具合から、日本には既に活性化したダンジョンがどこかにあることを伝えた。
今回は異能者側の総力を以て潰しておくが、今後出てくるであろう数々のダンジョンのために、政府側で準備を進めていくことで合意し、話し合いは決着する。
政府側は主に世間へ発表するための情報コントロールと、ダンジョンを攻略するための戦力の用意をするとかなんとか。
特に情報公開は記者会見を通して、早め早めで進めていくらしい。
その後、自衛隊による戦力の投入だ。
うーん、とはいえ自衛隊の投入なあ……。
……たぶん最初は自衛隊員とかが銃火器を以て挑むと思うが、そこそこの魔物になってくると現代兵器では装甲にダメージが入らなかったり、そもそも当たらなかったりするんだよね。
それくらい異世界の魔物というのは強力で、万が一ドラゴンなんかに遭遇しようものなら、傷一つ負わせることもできず全滅するだろう。
というより、銃火器のように超遠距離からダンジョンの魔物を仕留めて、魔力がその人物に吸収されるかも謎だ。
たぶん、されないと思うんだよなあ……。
まあ、それは俺の知ったことではないし、いいか。
いずれ気づくことだろう。
そんな感じで、初の政府との対面は作り話で盛り上がり、いい感じに巻き込みつつも幕を閉じたのであった。
さて、用事も終わったし異世界からニアを回収してこよう。
先輩孤児の皆が、あの後どうなったのかも気になるところである。




