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第15話 ニアに友達ができた日


 鳳勇気くんが発動した氷の魔法に、周りはしん……、と静まり返る。

 父親である大河さんは現実を受け入れつつも、本当に異能の才を眠らせていたことを確信し、まさかとは思いつつも息子である勇気くんへの期待で視線に熱が籠る。


 母親である由美子さんはもう少し落ち着いているが、しかしこちらも自分の子供に大きな才能があることは嬉しいようだ。


 そして、勇気くんと妹の白亜ちゃんだが……。


「お兄ちゃん、こここ、これ……」

「ああ。どうやら俺には本当に魔法の力が眠っていたみたいだ」

「眠っていたみたいだ、キリッ、じゃないんだけど!? 魔法だよ!? ファンタジーだよ!? 異世界転生だよ!? 分かってんのお兄ちゃん!?」


 どこか決め顔で恰好つけている兄に対し、白亜ちゃんは納得がいかずに勇気くんの胸倉をつかみ揺すりまくる。

 もはや言っていることも支離滅裂で、とても興奮していることが分かる豹変っぷりだ。

 というか異世界転生ってなんだよ、君のお兄さんはまだ生きてるぞと少し笑ってしまう。


「まままま、待て待て待て! 落ち着け白亜!」

「うがーーーーー!」

「ナハハハハハ! アニキの言うことは絶対正しいんだぜ。魔法の才能があるって言えばあるんだから、驚かなくってもいいのにな~」


 いやいやニアよ。

 俺を信頼してくれるのは嬉しいが、世の中に絶対なんてものはないぞ。

 それこそ確信を持って絶対者と言える存在なんて、知る限りでは神の爺さんくらいだ。


 まあ、そんなこと言ってもしょうがないけども。

 しかしニアの茶化した態度で多少正気に戻ったのか、勇気くんの胸倉から手を離した白亜ちゃんは、ぐりんっ、と顔をこちらへ向ける。


「というか、そういえばこの子! そう、この子のこと私知ってるよ! あなたニアちゃんでしょ、プリズムキュートのダンス踊ってたって有名な超人幼女!」

「え? 知ってるのか白亜」

「お兄ちゃんこそなんで知らないの!? いまプリズム界隈で一番有名な空前絶後の超有名人なんだけど。エンディングダンスの絶対王者なんだけど」

「いや、プリズム界隈とか知らんし……」


 いや俺も知らんわ。

 プリズム界隈ってなんだよ。

 ニアはいつの間にそんな界隈で王者に君臨してたんだ。


 まあ、白亜ちゃんも見たところ小学生高学年くらいだからね。

 まだまだ女児向けの日曜アニメにハマっていても不思議じゃないか。

 きっと女児グループでニアの動画が有名になり、ちょっとした人気者になっていたくらいの話なんだろう。


 まさか大人たちの間でも絶対王者なんて呼ばれている訳もあるまいし、気にすることはないか。

 だがそんな俺の思惑とは別に、本能で自分と同じプリズムファンを理解し気をよくしたニアは、意気揚々と持参していた元オモチャのプリズムステッキを見せびらかす。


「じゃーんっ! これなーんだ!」

「え……。これ、プリズムステッキ? でもなんか、私の持ってるものと雰囲気が違うような……?」


 なおこのステッキは現実改変により、ステッキ本体のプラスチックは頑丈で軽い謎の金属素材になり、宝石を模したハート型のプラスチックは魔力粒子を生産する本物の魔法石になっている。


 それは見るからにその辺のオモチャとは別格の風格が漂っていて、もはやコスプレステッキとは言えない本格的な質感と重量感があった。


「すげーだろ、これ! 魔法が使えないオレのために、アニキが特別に作ってくれたんだぜ」

「どういうこと?」


 え、あの、ちょっとニアさん?

 まさかその爆殺ステッキを使って見せるぜとか言うんじゃないよね?

 違うよね?

 アニキは信じてるからね!?


「うーんと、つまり……」

「つ、つまり……?」

「ラブリー・シュートが使える」

「…………ッ!!」


 おおう……。

 よかった、どうやら実際に使ってみるわけではなさそうだ。

 さすがのニアにもここで爆殺魔法でビームをぶっ放すのはダメだと理解できていたらしい。


 しかしそう思ったのも束の間。

 今度はニアの説明を聞いた白亜ちゃんが再びこちらに顔を向け、ぐりんっ、と言った感じで「説明求ム」みたいな圧力を発してきた。


 ううむ、どうしようかなあ。

 まあ確かに、自分のお兄さんだけ異能が使えるのに、白亜ちゃん自身になんのイベントもないんじゃ可哀そうかな?

 仕方ない、ここはサービスで期待に応えてやるとしよう。


「ニアの説明の通りだ。このステッキは正真正銘、魔法のステッキだな」

「あ、あああ、あの! あのあのあの!! つ、つつつ、つかぬ事をお伺いしますが!?」


 おお、小学生にしては難しい言葉を知ってるね。

 今すぐにでもプリズムステッキを要求したいだろうに、まずはクッションを置いてお伺いを立ててきたよ。

 ご両親も立派な人間だが、その教育を受けてきた白亜ちゃんも、とても教養のある幼女であるらしい。


 これならご両親の監視込みで、少しは信用してもいいかな?

 ちなみに信用というのは、プリズムステッキを悪用しないための信用である。


「……ああ。わかった、わかった。君の言いたいことは分かる。確かにこちらとしても君のお兄さんに怪異が寄ってくる以上、ご家族にも自衛手段が必要だと思っていたところだ。今すぐにとはいかないが、それでもいいなら用意しよう」

「……っし!!」


 俺の言葉に白亜ちゃんは真顔でガッツポーズし、黒髪のツインテールがぴょんぴょん跳ねる。

 うーんと、確かプリズムキュートはペアの魔法少女で、ニアの持つピンクと、もう一つバイオレットのステッキがあったはずだ。


 あとでそのステッキも通販で購入して現実改変しておこう。


「家族の自衛手段ですか……。確かに、勇気に怪異を寄せ付ける素質がある以上、その必要もあるでしょうな。長谷川さん、お願いできますか? 必要ならば支援は惜しみません」


 話の流れから覚悟を決めた様子で支援を申し立ててくれる大河さんには申し訳ないが、政府と渡りをつけかけている俺はもう金に困ることは無い。

 それに大前提として、もともとこちらの都合で騙してしまっているわけだし、ここでお金の話になるのは俺としてはナシだ。


 気持ちだけ受け取っとくことにしよう。


「いえ、それは結構です。もとはと言えば怪異に対抗するのは我々裏の異能者達の役目。勇気くんは才能により例外的に巻き込まれてしまいましたが、今回はそのお詫びという事でどうでしょう」

「長谷川さんがそう仰るならば……」


 まあ、白亜ちゃんが俺の目の届かないところで爆殺ビームをさく裂させる危険はさすがに見過ごせないので、バイオレットのプリズムステッキには回復魔法を付与するつもりだけどね。


 もともと必殺ビームを連射するピンクに比べて、プリズムキュートのバオレットは補助型の魔法少女だったはずだ。


 そうしてその後。

 なんやかんやありながらも話さなくてはいけなかった要件はもろもろ終わり、勇気くんのご家族には十分な理解を得らることとなった。


 勇気くんは今後異能の力を制御するため、しばらく俺が家庭教師として関わっていくことになる。

 ダンジョンの方もあと一、二週間すればある程度仕上がる予定なので、その頃になったらまた新しいイベントの始まりだ。


 ああそれと、異能の力を制御し修行する云々はいつものごとく建前だ。

 本当は修行もなにもなく、俺が能力をどれだけ強力に付与していくかどうかだけの作業である。


 近いうちにまた異世界からスライムでも連れてきて、勇気くんにリベンジマッチさせるのもありだな。


「それじゃ、またなー!」

「またねニアちゃん!」


 そして別れ際。

 ニアと白亜ちゃんは同じ女児アニメファンとして意気投合したらしく、いつの間にか唯一無二の親友みたいな関係になっていた。

 ニアに同年代の友達ができて、保護者としてはニッコリである。



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