第13話 大金を稼いだ日
帰宅部の男子高校生を相手に何かが始まる予感、みたいな感じでスライムとの邂逅を演出してきた翌日。
俺はそそくさと深夜に転移し、青森県の雑木林にダンジョンコアを埋めてきた。
ついでにあの場所を強めのパワースポーットに現実改変してきたので、ダンジョンコアはすくすくと育ってくれるはずだ。
一か月二か月で大迷宮になるほどには成長はしないだろうが、俺の現実改変がちょこちょことテコ入れする予定なので、まあ普通よりも早いスピードで階層は増えていくはず。
あとは折を見てあの男子高校生から届いたメールに返信し、こちらの異能グループに引き込むだけである。
ちなみにメールそのものは夕方にさっそく届いている。
なんでも彼は鳳勇気くんという私立高校一年生の青少年らしく、今日の出来事を家族に相談していいかという内容のメールが届いていた。
俺はその件について少し考え、家族には話してもいいが友人や知人などには広めないことと、近いうちにご家族に面会することを伝える。
あまり一気に異能の話を広めすぎると、世間が騒ぎになって身動きがとれなくなるからな。
政府機関にも徐々に異能の件が認知されるように誘導し、情報のコントロールは政府に担ってもらおうと計画しているのだ。
そもそも俺の仕事は少しずつ地球を面白くするのが本来の目的。
無駄に世間に晒されてマスコミなどの報道機関の追求を受けているようでは、活動することもままならないだろう。
そういうのは政治家に丸投げである。
というわけで、鳳勇気くんには都合が良い日程を連絡するよう指示を出し、こちらはこちらで異世界で仕入れた魔石や魔物の素材、低級のポーションあたりを研究機関に投げつけることにした。
なるべく政府機関と繋がりの強い機関に投げつけるのが望ましいので、ネットサーフィンで情報を集めてみる。
ポチポチっとな。
「なあなあアニキー」
「なんだニア? 俺はちょっといま忙しいのだが」
「ひま~」
「そ、そうか……」
どうやら今日はやることがなくて暇だったらしく、パソコンの前で調べものしている俺の膝にのっかり、頭をぐりぐりとこすりつけ甘えてくる。
うーん、今日も今日とて懐かれているな。
まあニアくらいの子供なんて、こんなものかもしれない。
今まで親の愛情を知らずにスラムで生き抜いてきた反動が来ているのだろう。
ようやく安心して暮らせる環境と、甘えても許される大人の保護者を得られたんだ。
このくらいの我がまま、あってしかるべきだろう。
いやむしろ、これは子供の健全な成長的には正しい甘え方なのではないか?
それじゃまあ、別にいいか。
ちなみに、昨日のニアの情報収集もといスパイ活動は大成功だったようだ。
俺のことをリオール交易都市の領主が狙っていることも分かったし、ニアの実力が異世界で普通に通用することも分かったのはデカい。
なによりニアがついでに助けてあげたという先輩孤児たちの話を聞いたときには、思わず涙腺が緩んでしまった。
ニアには今回人助けをしたように心優しい子のまま、すくすく成長していって欲しいと願わずにはいられない。
そう思いこすりつけてくる頭を撫でてやると、ニアはくすぐったそうにニシシと笑い満足気だ。
うーん……。
やはりとても良い子である。
そうこうしてしばらく、時々ニアの相手をしつつもネットサーフィンを続け、ある程度狙いは定まった。
異世界のお土産を送り付ける研究機関は主に二つ。
そのうち一つは文部科学省管轄の研究機関。
超宇宙技術理化学研究所。
通称、超宇宙研。
もう一つは東京にある公立大学の最大手、日本大江戸大学である。
俺はさっそくまとめておいた異世界産の荷物二つを転移で送り届け、連絡先としてメールアドレスを添付しておいた。
なお、このメールはスイスに拠点を置くオープンソースサービスで、特殊な暗号を用いているため身バレする可能性が極めて低い。
いずれ政府関係者とは変装して面会する予定だが、まあ時間は稼げたほうがいいからね。
何事も用心するべきである。
また、もしこの提供物資に価値が認められた場合、追加提供の際には暗号資産を通じて五百万ドル要求することを付け加えておいた。
日本円にして八億円前後かな?
まずはそれくらいあれば俺は生活に困らないし、今後の活動もやりやすくなるだろう。
向こうもたった数億円で未知の研究物資が手に入るのだ。
むしろ国の予算と未来を考えれば、前金にしたって安すぎるくらいである。
とはいえ、ここでがっついて相手に逃げられては元も子もない。
なので、とりあえず五百万ドル。
これ以下は認めないが、今後の交渉次第では継続的に金が手に入ることだろう。
そうしてその後、数日間は様子を見つつもニアに修行をつけたり、ダンジョンコアの成長にテコ入れしたり、何か提供先の研究機関に変化がないか調べたりといろいろしていた。
すると異世界のお土産を転移で提供した日から、六日後。
ニアと朝食を食べながらテレビのニュースを見ていると、超宇宙研と日本大江戸大学の一部が研究上の大事故とやらで閉鎖したことを知る。
まさか本当に何か大惨事が起きてしまったのではないかと思いメールを開いてみると、話は全然違う方向に流れていた。
なんと二つの機関は俺が渡した物資の追加融資を受けるべく、世紀の大発見の情報が外部に漏れないようにシャットアウトした結果、大事故であると偽装しているのだとか。
ふと思い連絡しておいた暗号通貨のデータを見てみると、しっかり五百万ドル振り込まれていた。
これで俺は、一瞬にして大金持ちである。
「う、うおおおお……!」
「どしたーアニキー」
「な、ななな、なんでもないぞ!?」
「うーん?」
ごめんニア、アニキは計画があまりにも都合良く運んで動悸が激しいだけなんだ。
別にやましいところは何もないから、ほんとだから。
ただちょっと、ちょっとだけ、見たこともない大金が計画通りに入っただけである。
「まあ、いいか!」
「そ、そうだ! まあいいんだ!」
「えへへ……」
そう言ってなでなでを要求してくるニアを甘やかしつつ、ついでに鳳勇気くんの方も家族との面会の日程が決まったとメールで報告を受ける。
家族との面会予定は明後日でどうですかとのことだが、もちろんオーケーだ。
考えているカバーストーリー以外、特に用意するものもないしな。
政府側のほうはまだ追加物資を受け取る段取りをつけている段階らしいので、こちらはまだしばらくかかるだろう。
そんなこんなで大金が手に入ったことで少し動揺しつつも、俺は鳳勇気くんの家族と面会するべくニアにやることの説明を行うのであった。




