第12話 チャレンジャーを見つけた日
ニアの初ライブ配信から翌日。
今日の俺はダンジョンコアの視察を兼ねて青森県まで転移し、そのダンジョンと戦うに値する丁度良いチャレンジャーを見つけに来ていた。
なお、現在はニアを異世界の交易都市にリリースし、情報収集のために単独行動させている。
もう既に隠密行動や武術の腕前はその辺の人間じゃ太刀打ちできない次元にまで到達しているため、情報収集に使っても身の危険は無いと判断しての決定だ。
まあ万が一本当にヤバくなったら、現実改変したプリズムキュートのステッキから放たれる、「ラブリー・シュート」の爆殺ビームが全てを薙ぎ払うだろう。
ニアへ付与した異能を超えてくる一般人なんていないとは思うが、一応ね。
とはいえリリースするのは日中までだ。
この程度の時間で問題など起こらないだろう。
さて、話を戻そう。
ダンジョンコアを人気のない青森の雑木林に埋めると決意した俺は、チャレンジャーの住居もダンジョンと近い方がちょうどいいからという理由で、青森県の高校生に異能を与えることにした。
具体的には異世界から連れてきたグリーンスライムを高校生の通学路に解き放ち、慌てているところに覆面の俺が乱入し魔法で討伐するという流れだ。
その後、現場を見た高校生に対し「……怪異を引き寄せたか。君にはそちらの才能があるようだ」とか言って去っていけば完璧である。
ただ、その状況を作り出すためには他の乱入者がいないことが前提条件となる。
そのため、その辺の公道で集団になって登校している高校生をターゲットにすると、余計な大人たちや一般人を多く巻き込むことになるため決行できないのだ。
そこで目を付けたのが、高校へのショートカットとして雑木林を通学路としている、恐らくは帰宅部であろう一人の男子高校生だ。
以前リサーチしたところ、彼は高確率でダンジョンを埋めると決めた、この雑木林を登下校に使っていることが分かっている。
俺が異能を与えるチャレンジャーに仕立て上げるには、条件的にぴったりの逸材だった。
故に、彼は地球人類初の異能者に選ばれたのである。
俺は彼のショートカット通学路である雑木林にグリーンスライムを二匹ほど解き放ち、少し離れて様子を見守ることにした。
◇
俺の名前は鳳勇気。
今年から地元の私立高校に通うことになった、普通の高校一年生だ。
しかし高校生活は順風満帆とはいかない。
春から高校デビューしてもう二か月になるけど、まだ一人も友人と言えるほどの人間関係を構築できていないからだ。
いわゆる、高校デビュー失敗というやつだな。
思い当たる節はいくらでもある。
帰宅部だし、昼休みは誰とも話さずラノベを読んでるし、勉強も運動も平々凡々。
コミュニケーションに難があるとは思ってないけど、別に優れているわけでもない。
そんな俺だからだろう。
話しかければ返事をしてくれる程度の知り合いはいるが、仲良くなるというほどの関係を構築できないのも当然といえた。
ま、いいけどな。
自分の青春時代をどう活用するかなんて、俺が決めることだ。
俺にとっては好きなラノベが読める時間があれば、それでいいのである。
……負け惜しみじゃないからな。
「はあ~……」
日課のショートカット通路であるちょっと深めの雑木林を進みながら、溜息を吐く。
いや、うん。
分かってるよ、これは負け惜しみであって、ただの強がりだ。
せっかく高校デビューしたんだ。
俺だって青春したいし、何か自分だけの特別な出来事があったらいいな~なんて、男ならそう思わない方がおかしい。
現実は非情だけどね。
そんな半ば諦めの境地に達しながらトボトボと歩いていると、ふと、この辺では聞きなれない変な音が耳に入った。
いや、音というより鳴き声か?
なんか、ピキーとか、キュオッキュオッとか、自然界にはないような甲高い鳴き声が俺の歩く方向から聞こえてくる。
鳴き声は徐々に耳にはっきりと届くようになり、ズル……、ズル……、と体を引きずるような地面と擦れる音と共に近づいてくる。
「な、なんだよ……。なんなんだよ……!?」
俺はそのあまりにも不自然な状況に恐怖し、声を震わせて立ちすくむ。
人間、本気で恐怖すると足が動かなくなるんだな。
貴重な体験をしたわ。
……って、そんなこと言ってる場合じゃない。
いくら非日常や青春に憧れていたからって、いきなりこんな事態に遭遇するなんて誰が思うんだ!
相手はなんだ、殺人鬼が死体を引きずっているのか?
それとも本当にミュータントのようなバケモノが現れたってのか?
理性が持たないほどに怖いが、ここで目を閉じ思考を止めたって死ぬだけだ。
俺は尻餅をつきそうになる力の入らない膝をつねり、自分を叱咤し必死に目を開き続けた。
できることなら、このまま何事もなく危機が去ってくれと願いながら。
……そして十数秒後、やつはまるで俺の覚悟をあざ笑うかのように、のそりと目の前に現れた。
「ピキィーッ」
「ピキャッ、ピキャッ!」
「……え!? スライム!?」
俺の前に現れたのは、体を緑色の粘液で構築するスライムと思わしきバケモノであった。
ただし創作作品にありがちな可愛い水滴状のボディではなく、べちゃっと潰れたアメーバのような恐ろしいデザインだ。
しかも、それが二匹。
作品によっては最弱のモンスターとしても、それなりに強いモンスターとしても、どちらの方向性でも描かれるスライムではあるが、これはたぶん強いほうだ。
俺はラノベに詳しいんだ、間違いない。
とはいえ、この明らかに敵対的なスライムを放置していたところで食われるだけだ。
まずは逃げるか戦うかを選ばなければならない。
しかし、恐らくそのどちらかの選択肢の後、俺は死ぬことになるだろう。
今は様子見をしてボディをくねくねさせているスライム二匹だが、獲物である俺が行動すればそれが合図になり、向こうだって本格的な狩りを始める。
そういう微妙な空気感によって、今の俺は奇跡的に生かされているに過ぎない。
「た、戦うか……?」
いやだめだ、勝てるわけがない。
いまも奴らは地面の植物をグズグズに溶かしてるんだぞ。
こんな化け物に武器もなくどう挑めって言うんだ。
自殺行為だろ。
じゃあ、逃げるしかないか……。
ええい、男は度胸だ!
生き残る道はこれしかない、ここでこそ勇気を見せろよ、鳳勇気!
そうして通学路に背を向けて思いっきり駆けだした俺は、半ばパニックになりながら逃げだした。
だが……。
「ピキ~」
「コポポポッ、ピキャ!」
「う、うわああああ!?」
俺が逃げ出すことを予期していたのか、ものすごい跳躍で頭上を飛び越え俺の前にふたたび着地したスライム。
しかも、もう一匹の方はわざと後ろ側に着地し、俺が逃げ出せないように前後で挟むように追い詰めてきたのだ。
お、おわった……!
本当の本当に、もうダメかもしれない。
すまない妹よ、兄ちゃんはここで死────。
「何か騒がしいと思ったら、一般人が巻き込まれていたか」
「え?」
ズドォオオオオオオン!!
不思議な声がしたと思ったその瞬間、覆面をつけたスーツ姿の男性が現れ、極太のビームでスライム二匹を瞬殺した。
あまりの勢いにスライムが居た場所の地面はガラス状に融解しており、分解されたオゾン臭があたりに充満する。
い、いったい何が……!?
「おい、君」
「は、はははは、はい!?」
「そうか……。君がこの怪異を引き付けてしまったのか……」
「か、怪異ですか!?」
これが怪異なのか……。
いや、確かにバケモノだけども。
え、ということは、こういうやつらって実は昔から地球にいたってことか!?
「ふむ。どうやら君にはそちらの才能があるらしい。……学校から帰宅したら、この連絡先にメールしろ。君の安全のためだ」
「あ、あ、あわわ……、は、はい!」
「落ち着け。この辺の負の魔力は既に四散している。いくら君といえど、今日また同じような怪異に襲われることはないだろう。……ではな」
そうして名刺を渡され顔あげると、覆面の男性はまるで最初からそこにいなかったかのように消えていた。
い、いったい、なんだったんだろう……。
ただ一つ確実なのは、この地球には実は怪異が存在していて、それを退治する者達が裏の世界で暗躍していたということだけだ。
そして何より……。
「俺もいつか、あの男性のような強い男になりたいな……」
こうして俺の冴えない青春は、今日を境に一変することになるのであった。




