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第11話 ニアの初仕事の日

オマケで五話投稿します(*´ω`*)


「おい、そっちの首尾はどうだ?」

「今のところ全くだな。しかし、あの旅人を見たという噂はそこそこあるようだ」

「なるほどな……。姿を見られてなお、現在の尻尾を掴ませないか。嫌われたもんだ」

「ああ、今回のターゲットは相当な大物だぜ、こりゃ」


 人気のないスラムの裏路地で、行商人や傭兵に扮した怪しげな大人たちの会話が続いていく。

 オレはその会話に聞き耳を立てて、今日は別行動をしているアニキに頼まれた仕事に集中していた。


 なんでも、そろそろニアにも情報収集ができるくらいの力はついてきたな、とういうことで試験運用をするつもりらしい。

 期待された仕事が本当にできるのか少し不安だったけど、それでもアニキができるといえば必ずできる。

 情報を持ち帰って褒めてもらうためにも、最後まで油断はしないんだぜ。


 といっても、アニキに直接鍛えられた隠形の技術は超一流で、大人たちはすぐそばの物陰にいるオレのことを、全く意識できていないようだけどな。

 ま、それも当然だぜ。

 オレのアニキは最強の戦士で無敵の大魔導なんだ。

 きっと本気になれば、出来ないことなんてないに違いない。


 たぶん、大陸の西で帝国と戦争しているっていう魔王よりも強いと思う。

 

 それに、とっても優しいんだぜ。

 昨日は寝ぼけてアニキの上で寝ちゃったんだけど、それでも怒らないで優しく起こしてくれた。

 ちなみにアニキの上で寝るのはとても気持ちいい。

 ぽかぽかして、ぬくぬくしてて幸せな気分が止まらなかった。


 またアニキの上で寝てても怒られないかな?

 大丈夫だよな、きっと。

 へへ、今日もやってみようっと。


「おっと、気が逸れた。仕事はちゃんとしないと。……ふむふむ。アニキの噂が少しずつ広がっているようだな」


 怪しげな大人たちの話によると、リオール交易都市の領主である子爵が不人気ダンジョンを攻略した人物を探しているらしい。

 もともと不人気ダンジョンだったから管理も杜撰で、正確に攻略者の記録をとっていなかったから、誰がダンジョンに入場していたかも分からないみたいだぜ。


 ちなみに、探している理由というのも別に攻略者を罰する目的じゃなくて、討伐隊を差し向ける費用が浮いた分褒美を取らせるつもりだとか言っている。

 でも本当の目的は違っていて、この短期間で攻略したという異様な記録を持つ冒険者の実力を青田買いして、子爵の手駒にするつもりというのが本音のようだな。


 攻略者がアニキだと断定できている理由は簡単で、たぶん不人気ダンジョンの素材をリオールのギルドに納品していたからだと思う。

 それで領主にどこの誰か特定されたんだな。


 まあ、アニキがそんなことに気づいていないはずもないので、たぶんこれはワザとだ。

 どれだけ情報収集に使えるやつなのか見極めるために、この状況になるよう、わざわざオレを試験する目的で誘導していたんだろう。


 さすがアニキだぜ!

 最強で無敵なだけじゃなくて、貴族すら手のひらで転がすアニキの智謀にオレはなんだか嬉しくなった。

 オレはそんなアニキの一番の子分なんだと思うと、顔がちょっと熱くなる。


 これもまた実施試験のうちってことかな?

 心臓がドクドクと鳴ってしまうので、集中しないと気配が漏れてしまうんだ。


 くぅ、今のオレもまた手のひらの内ってことかぁ~。

 アニキがあまりにもカッコ良すぎるので、もう何が何だか分からなくなってきた。

 頭がクラクラする。


 そうして、オレがオレの中の何かと戦っているうちに状況は進み、怪しげな大人たちは解散して領主に状況を報告しにいった。


 この場に残ったのは仕事が成功したことで気が緩み、隠密を解いてスラムに佇むオレだけ。


「はぁ~。なんとかバレずに済んだぜ。最後のほうはヤバかったな。まさかアニキがあんな罠をしかけていたなんて……」


 あとは適当に時間をつぶし、昼過ぎくらいまでに噴水広場に集合するだけだ。

 なんでもアニキは今日やることがあるらしく、ダンジョンと戦うための人材をコーコーセーとやらの中から選ぶつもりらしいんだ。


 なんのことか全く分からないけど、たぶん新しい子分を見つけに行くってことだよな?

 うんうん、たぶんそうだ。


 オレはアニキの一番の子分なので、つまりコーコーセーとやらはオレの舎弟でもあるというわけだな。

 どんなやつが舎弟になるのか、いまから楽しみだなあ……。


 まあ、テレビに封印されてる妖精たちも、面白いやつらばっかりだったけどな。

 特に堕ニートはダメダメな感じがして、世話のしがいがあるぜ。


「それにしても……」


 アニキに連れ出されてまだ一か月も経っていないというのに、この薄暗いスラムが懐かしく感じる。

 それもなんだか不思議な感覚だ。


 ちょっと前まではスラムで生きるのに必死で、いくらガイドの仕事をしたってまったく抜け出せる気配なんてなかったのにな。

 それがいまじゃ光の差す表の世界でアニキの子分になって、たくさんの幸せを貰っている。


 人生、何があるか分からないぜ。


 そんなことを考えながら、集合時間になるまで懐かしいスラム街を練り歩く。

 時々、隠密を解いているをオレをカモだと思った大人たちが襲ってくるけど、アニキに修行をつけてもらった今となっては相手の方がカモだ。


 身なりの良い見慣れない服装を着ているオレを捕まえて、違法奴隷にしようと襲い掛かる大人の背後に一瞬でまわり、昏倒さる。

 そうして何度も何度も襲いかかかる大人を昏倒させ、ポケットから銀貨や銅貨を拝借していると、いつの間にかポケットからあふれるくらいに金が集まってしまった。


 へへ、ちょろいぜ。


 でもそろそろ持ちきれなくなってきた。

 でも捨てておくのももったいないから、持ち帰れない分は世話になった先輩孤児の姉ちゃんたちにあげようかな。


 きっとスラムから抜け出すきっかけになるはずだ。


 そんな感じで先輩孤児の姉ちゃんたちに、さりげなく昏倒したままの大人たちの場所を教え、持ちきれない分の銅貨を回収してもらっていると集合時間が近づいてきた。

 そろそろアニキとの約束の時間だ。


 急いで噴水広場に向かう。


「アニキー!」

「おう、ニア。初仕事は上手くいったか?」

「ばっちりだぜ! 金もたんまり手に入った!」

「……ん? 金?」


 アニキはオレのポケットに詰め込まれた大量の銀貨と銅貨に不思議そうな顔をしていたけど、やっぱりちょっと少なかったかな?

 もしかしたら、全部回収せずに先輩孤児の姉ちゃんたちに分けてしまったのがバレてるのかもしれない。


 でも、オレを救ったアニキならきっと姉ちゃんたちの境遇を理解して、許してくれるはずだ。


「ま、とにかくよくやった。帰って情報収集の結果を教えてくれよな」

「もちろんだぜ」


 ほらね。

 アニキは優しいんだ。

 オレはそんなアニキが、世界で一番大好きだ。



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