第21話 崩れ落ちる身体、限界の悲鳴
父親が警察に取り押さえられ、
怒号が遠ざかっていった頃――
気づけば、俺は床に座り込んでいた。
膝が笑い、
足が地面に触れている感覚が薄い。
震えが止まらない。
呼吸が浅く、喉がうまく動かない。
頭の中が真っ白で、状況を整理できない。
そして――
股のあたりがじんわり温かい。
(……あ……)
漏らしていた。
恐怖で身体が完全に支配され、
大人としての意識では制御できない。
悔しさよりも、
ただただ怖かった。
「なんで……
なんでこんなに……」
自分が呟いた声が、
別人のもののように聞こえた。
◆
その瞬間――胸に鋭い痛みが走った。
ズキッ……!!
思わず胸を押さえる。
(また……! どうして……今……)
息がうまく吸えない。
喉がひゅっと細くなり、
肺が空気を拒否するような苦しさ。
視界が揺れ、足先が痺れる。
女性警察官が俺に駆け寄った。
「大丈夫!? 息できてる!?
ねぇ、君、聞こえる!?」
声が遠く感じる。
でも耳にだけは必死さが刺さるように届く。
返事をしようとしても、
喉が震え、音にならない。
◆
そのとき――
「……朱音!!」
美桜の声が飛び込んできた。
泣き声混じりの、
心をえぐるほど必死な叫び。
(美桜……)
その声に手を伸ばしたい。
触れたい。
「大丈夫」と言いたい。
でも――身体が動かない。
胸の痛みはさらに強くなり、
視界の端が黒く染まる。
耳鳴りが世界を覆い始め、
音が水の中のように歪む。
「朱音!!」
今度ははっきり聞こえた。
近く、すぐそばで。
美桜が泣きながら手を伸ばしているのが、
ぼんやりと視界に映る。
(……美桜……ごめん……)
腕を伸ばしたつもりなのに、
空気を掴むだけだった。
◆
そして――
俺の身体は力を失い、前に崩れ落ちた。
最後に聞こえたのは、
美桜の震えた声だけだった。
「朱音!!」
その声が遠ざかり――
完全な暗闇が、俺を包んだ。




