表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/60

第21話 崩れ落ちる身体、限界の悲鳴


 父親が警察に取り押さえられ、

 怒号が遠ざかっていった頃――


 気づけば、俺は床に座り込んでいた。


 膝が笑い、

 足が地面に触れている感覚が薄い。


 震えが止まらない。


 呼吸が浅く、喉がうまく動かない。

 頭の中が真っ白で、状況を整理できない。


 そして――

 股のあたりがじんわり温かい。


 (……あ……)


 漏らしていた。


 恐怖で身体が完全に支配され、

 大人としての意識では制御できない。


 悔しさよりも、

 ただただ怖かった。


 「なんで……

   なんでこんなに……」


 自分が呟いた声が、

 別人のもののように聞こえた。



 その瞬間――胸に鋭い痛みが走った。


 ズキッ……!!


 思わず胸を押さえる。


 (また……! どうして……今……)


 息がうまく吸えない。

 喉がひゅっと細くなり、

 肺が空気を拒否するような苦しさ。


 視界が揺れ、足先が痺れる。


 女性警察官が俺に駆け寄った。


 「大丈夫!? 息できてる!?

   ねぇ、君、聞こえる!?」


 声が遠く感じる。

 でも耳にだけは必死さが刺さるように届く。


 返事をしようとしても、

 喉が震え、音にならない。



 そのとき――


 「……朱音!!」


 美桜の声が飛び込んできた。


 泣き声混じりの、

 心をえぐるほど必死な叫び。


 (美桜……)


 その声に手を伸ばしたい。

 触れたい。

 「大丈夫」と言いたい。


 でも――身体が動かない。


 胸の痛みはさらに強くなり、

 視界の端が黒く染まる。


 耳鳴りが世界を覆い始め、

 音が水の中のように歪む。


 「朱音!!」


 今度ははっきり聞こえた。

 近く、すぐそばで。


 美桜が泣きながら手を伸ばしているのが、

 ぼんやりと視界に映る。


 (……美桜……ごめん……)


 腕を伸ばしたつもりなのに、

 空気を掴むだけだった。



 そして――


 俺の身体は力を失い、前に崩れ落ちた。


 最後に聞こえたのは、

 美桜の震えた声だけだった。


 「朱音!!」


 その声が遠ざかり――


 完全な暗闇が、俺を包んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ