第13話 叫びで露わになった真実
翌朝――
まだ朝日が差し込む前の薄暗い時間帯。
児童相談所の玄関先に車が停まり、
「美桜ちゃんのお母さんと……お父さんも来ています」と職員に告げられた。
昨日聞いた“母親が迎えに来る”という話は本当だった。
だが今日は父親まで一緒だという。
美桜は、下を向いたまま小さなリュックを背負った。
「……またね」
その声は震えていた。
俺は何も言えず、
ただ背中を見送ることしかできなかった。
◆
しばらくして――
「いやぁああっ!!!!」
廊下に響き渡る叫び声がした。
美桜だ。
あの美桜が。
普段は感情を露わにしない、美桜が。
俺の心臓が跳ねた。
一瞬で体が動いて、
待合室へと駆け込んだ。
◆
待合室の光景は信じがたいものだった。
美桜が、母親の横に立つ父親に向かって叫んでいる。
「お前となんか一緒に暮らしたくねぇんだよ!!
変態!!!」
声は震えていない。
むしろ今まで押し殺していた怒りが
一気に噴き出しているようだった。
あの冷静で寡黙な美桜が――
誰も見たことのない顔で叫んでいた。
母親は慌てて美桜の肩に手を置くが、
美桜はその手を振り払う。
「来ないで!!
あいつと家に戻れって言うなら、
ここで死んだほうがマシ!!」
その言葉で、空気が凍った。
俺はいても立ってもいられず、
美桜のもとへ駆け寄り、抱きしめた。
「美桜! 落ち着いて……!」
美桜は腕の中で震え、
嗚咽を上げて崩れた。
「やだ……やだ……帰りたくない……!
朱音……助けて……!!」
腕の力が強い。
必死にすがりついてくる。
俺はただ背中を撫でることしかできなかった。
◆
母親は、泣きそうな顔で美桜に手を伸ばしながら呟いた。
「ごめんね……ごめんね美桜……
もうお父さんも反省してるし……
前みたいなことは……もうしないって――」
その言葉を聞いた瞬間、
俺の中で何かがはっきりと形を取った。
“前みたいなことはしない”
前?
どういう意味だ?
そのとき、
俺の視線は自然と父親へ向いていた。
父親は腕を組み、
職員にも妻にも反抗するような目を向けている。
そして――
その男の目線が、美桜の身体を上から下へゆっくりとなぞった。
ぞわり、と背筋が粟立った。
女性を“下に見る目”。
いや――もっと別の目だ。
下心と支配の入り混じった、
吐き気のするような視線。
俺は警察官として散々見てきた。
加害者の目線。
歪んだ欲望を隠しもしない目。
美桜が男嫌いになった理由。
あの拒絶反応の強さ。
すべてが繋がった。
(……性的虐待……!?)
胸が強く締め付けられた。
美桜は父親を見ただけで震え、
声を失っていた。
あの叫びは――恐怖からだった。
美桜の心を壊したのは、この男だ。
「連れて帰るぞ。
家の恥になるんだよ、こんなところで騒ぎやがって」
父親の低い呟き。
怒気ではなく、蔑みの混ざった声。
職員の表情が険しくなった。
俺はそれ以上に、
今までにないほど拳を握りしめていた。
(……許せない)
美桜がこんなにも怯え、
こんなにも苦しんでいた理由が、
全部この男だとしたら――
俺は一歩だけ父親に近づいていた。
少女の身体でも、
中身は警察官だった。
美桜を震わせる存在が、
目の前にいる。
ただの父親ではない。
“加害者”だ。
そして、その瞬間――
美桜が俺の服を掴んだ。
「……行きたくない……朱音……助けて……」
その叫びは悲鳴にも近かった。
俺は彼女を抱きしめたまま、
胸の奥に決意が芽生えるのを感じた。
――美桜を、帰らせない。
どんな形でも、この子を守る。




