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第13話 叫びで露わになった真実


 翌朝――

 まだ朝日が差し込む前の薄暗い時間帯。


 児童相談所の玄関先に車が停まり、

 「美桜ちゃんのお母さんと……お父さんも来ています」と職員に告げられた。


 昨日聞いた“母親が迎えに来る”という話は本当だった。

 だが今日は父親まで一緒だという。


 美桜は、下を向いたまま小さなリュックを背負った。


 「……またね」


 その声は震えていた。


 俺は何も言えず、

 ただ背中を見送ることしかできなかった。



 しばらくして――


 「いやぁああっ!!!!」


 廊下に響き渡る叫び声がした。


 美桜だ。


 あの美桜が。

 普段は感情を露わにしない、美桜が。


 俺の心臓が跳ねた。

 一瞬で体が動いて、

 待合室へと駆け込んだ。



 待合室の光景は信じがたいものだった。


 美桜が、母親の横に立つ父親に向かって叫んでいる。


 「お前となんか一緒に暮らしたくねぇんだよ!!

   変態!!!」


 声は震えていない。

 むしろ今まで押し殺していた怒りが

 一気に噴き出しているようだった。


 あの冷静で寡黙な美桜が――

 誰も見たことのない顔で叫んでいた。


 母親は慌てて美桜の肩に手を置くが、

 美桜はその手を振り払う。


 「来ないで!!

   あいつと家に戻れって言うなら、

   ここで死んだほうがマシ!!」


 その言葉で、空気が凍った。


 俺はいても立ってもいられず、

 美桜のもとへ駆け寄り、抱きしめた。


 「美桜! 落ち着いて……!」


 美桜は腕の中で震え、

 嗚咽を上げて崩れた。


 「やだ……やだ……帰りたくない……!

   朱音……助けて……!!」


 腕の力が強い。

 必死にすがりついてくる。


 俺はただ背中を撫でることしかできなかった。



 母親は、泣きそうな顔で美桜に手を伸ばしながら呟いた。


 「ごめんね……ごめんね美桜……

   もうお父さんも反省してるし……

   前みたいなことは……もうしないって――」


 その言葉を聞いた瞬間、

 俺の中で何かがはっきりと形を取った。


 “前みたいなことはしない”


 前?

 どういう意味だ?


 そのとき、

 俺の視線は自然と父親へ向いていた。


 父親は腕を組み、

 職員にも妻にも反抗するような目を向けている。


 そして――


 その男の目線が、美桜の身体を上から下へゆっくりとなぞった。


 ぞわり、と背筋が粟立った。


 女性を“下に見る目”。

 いや――もっと別の目だ。


 下心と支配の入り混じった、

 吐き気のするような視線。


 俺は警察官として散々見てきた。

 加害者の目線。

 歪んだ欲望を隠しもしない目。


 美桜が男嫌いになった理由。

 あの拒絶反応の強さ。


 すべてが繋がった。


 (……性的虐待……!?)


 胸が強く締め付けられた。


 美桜は父親を見ただけで震え、

 声を失っていた。


 あの叫びは――恐怖からだった。


 美桜の心を壊したのは、この男だ。


 「連れて帰るぞ。

   家の恥になるんだよ、こんなところで騒ぎやがって」


 父親の低い呟き。

 怒気ではなく、蔑みの混ざった声。


 職員の表情が険しくなった。


 俺はそれ以上に、

 今までにないほど拳を握りしめていた。


 (……許せない)


 美桜がこんなにも怯え、

 こんなにも苦しんでいた理由が、

 全部この男だとしたら――


 俺は一歩だけ父親に近づいていた。


 少女の身体でも、

 中身は警察官だった。


 美桜を震わせる存在が、

 目の前にいる。


 ただの父親ではない。

 “加害者”だ。


 そして、その瞬間――

 美桜が俺の服を掴んだ。


 「……行きたくない……朱音……助けて……」


 その叫びは悲鳴にも近かった。


 俺は彼女を抱きしめたまま、

 胸の奥に決意が芽生えるのを感じた。


 ――美桜を、帰らせない。


 どんな形でも、この子を守る。



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