第八話
人々は一瞬静まり返り、次の瞬間、歓声が町中に広がった。
「おい、あんた一体どうやってあの狼たちを追い払ったんだ!?」
「すげー!救世主だ!」
興奮した声が飛び交うが、皐月はすかさず冷静に口を開いた。
「理由はあとで説明するわ。手が空いている人はまず、怪我人の手当てをお願い。」
彼女の一言で人々は我に返り、あわてて四方八方へと走り出していく。
皐月も手伝おうと動き出そうとした矢先、森の奥にふと白い影が揺れるのが見えた。
一瞬無視しようかと迷うが、胸騒ぎがしてその後を追っていく。
静かな森をしばらく進むと、先ほどの白い影がようやく姿を現す。
「あなた、そんなに森の奥へ行くと危ないわよ。それに、怪我人もいるから、時間があるなら手伝ってくれない?」
軽い気持ちで声を掛けた瞬間、それはくるりと振り向いた。
皐月の息が止まる。
——その顔は、皐月自身によく似ていた。いや、「同じ」だった。
違うのは、皐月が三つ編みで歌子にもらった着物姿なのに対し、白い影は髪を一つに結い、巫女服のような装いをしていること。
ふたりに静かな沈黙が流れる。
やがて、相手が口を開いた。
「民を殺すか、自分が死ぬか、どちらがいい?」
その声は、なぜか慈しみに満ちていた。
(なにを言っている……こいつは……?)
寒気と恐怖に皐月の身体が震える。動けない。息すら忘れる。
時が止まったような一瞬。
やがて、白い影はくるりと背を向けて言った。
「また聞きに来る。」
そのまま、森の奥へと消えていった。
皐月はその場に立ち尽くす。
圧倒的な恐怖と寒気とで体が固まった。
そうしていつしか、意識が遠のいていった──。
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