第五話
やっとのことで町に辿り着くと、そこには店がずらっと並んでいた。
一気に私の疲れは吹き飛ぶ。
「ねえ、あのお店は何⁉︎」
「この食べ物、なんて名前なの⁉︎」
「あの人は一体何をしているの⁉︎」
次から次へと、私は香具土に質問を投げかける。
香具土は不意を突かれて驚いたようだ。さっきまであんなに控えめだった皐月が、急に目を輝かせて次々に質問を連発するなんて思いもしなかった。
最初は自分が皐月を引っ張っていたはずなのに、今やすっかり立場が逆転している。
あまりにも皐月が止まらないので、香具土は彼女をどうにか落ち着かせようと、近くの茶屋へ連れていった。
お茶をすすっているうちに、私は次第に冷静さを取り戻す。
(はしゃぎすぎた…なんて迷惑をかけてしまったのかしら…)
さっきまで興奮して真っ赤だった顔が、気づけばどんどん青ざめていた。
「ごめんなさい、迷惑をかけて……」
私は深く頭を下げる。
香具土はお茶請けの菓子をもぐもぐしながら、ぱっと笑った。
「驚きましたけど、そんな気にすることないですよ。私もさっき連れ回したし、難しいことも聞かれてませんし。でもあれだけ興奮するなんて珍しいですね?団子に犬に呉服屋なんて、どこにでもあるでしょう?」
私は再び顔が赤くなるのを感じながら打ち明けた。
「実は……私、記憶がなくて‥」
「えっ!?それはすごく大変じゃないですか! …私、無神経なことをたくさん……ほんとすみません!」
香具土は慌てて頭を下げる。その様子につられて、私は慌てて手を振った。
「頭を下げないで!むしろ屋敷でも町でも助けてもらって、私は感謝しかないの。だから……、ね?」
そう言うと、香具土はそっと顔を上げた。
「でもね、少しおかしいの」
「何がですか?」
皐月は少し顔をしかめて続けた。
「昨日と今日、屋敷で過ごしただけだけど……どうも、私が失っているのは過去の“記憶”だけみたいなの。屋敷の中で見たものは、どれも不思議に思わなかった。でも町に出てからは、急にわからないものばかりで。でもね、あなたが説明してくれると、すぐに“あぁ、知ってる”って思うの。なんというか……頭では知ってるけど、実際に見るのは初めてっていう感じで……」
皐月自身もうまく説明できず戸惑っていたが、今はそれが伝える精一杯の言葉だった。
香具土も真剣に頷きながら話を聞いていた。そして、少し考え込んだあとで、ゆっくりと言う。
「……つまり、お嬢様は“知識”と“経験”が、町に出てから一致しないってことですね?」
「そう、それよ!」
皐月はようやく言いたいことが伝わって、ほっと嬉しくなった。けれど状況はあまり良くない──この違和感がどういう意味なのか分からず、不安が残る。
「お嬢様、あまり悩んでも仕方ないですよ。……そういえば、今日町に来たのって、もしかして、何か記憶の手がかり探すためなのでは…?」
はっとして、皐月は思わず顔が赤くなる。
(そういえば、そうだったわ……!)
「そうね、急いで町の人に聞いてみなくちゃ!」
そう言うと、皐月は勢いよく席を立ち、駆け足で茶屋を飛び出した。
「ま、待ってください、お嬢様ー!」
あわてて、香具土もあとを追いかける。
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