第四話
小鳥の囀りで、朝が来た。
朝の澄んだ空気と柔らかな日差しが、ぼんやりしていた頭を少しずつ覚ましていく。
身支度を整えていると、私の起きた気配に気づいた女中がやってきた。
「お嬢様、お食事の準備ができております。ご準備でき次第、お食事処へいらしてください。その後、歌子様から今日のご予定についてお話があるそうです」
私はうなずき、そそくさと支度にとりかかった。朝食は昨日と同じように、優しい味をしていた。幸せを噛み締めて、そのまま歌子さんのもとへ向かう。
歌子さんは特別なことは話さなかった。ただ、この国について少し説明してくれた。
この国は妖怪と人間が一緒にいる分、町の治安は少し悪いらしい。町を回るなら女中を同行させ、くれぐれも気を抜かないようにと注意深く言われた。
何度もお世話になっていて申し訳なさが募るが、例の女中はいつもの明るい笑顔で「大丈夫ですよ」と元気いっぱいだった。
いよいよ町へ出かけることになり、私は胸の高鳴りを隠せなかった。外の世界はどんな景色が広がっているんだろう、想像もできない——わくわくしながら屋敷の門をくぐる。
その瞬間、隣の女中がとんでもない速さで駆け出した。
「お嬢様ー!早く、早くー!」
見る見るうちに遠ざかる彼女の背中を追いかけて、私も慌てて足を速めた──。
私はやっとの思いで彼女に追いつくと、今度はペースを落としてゆっくり歩き出した。
「お嬢様〜、来るの遅いですよー?」
石ころを蹴りつつ、のんびり進んでいる。
「あなた、屋敷の中と全然雰囲気違うわね?」
と問いかけると、彼女はくるっと体を返して満面の笑み。
「そりゃあ、屋敷の中では猫被ってますから!あんな調子でいたら、歌子様にお叱り受けますよー?ほんっと怖いんですから、あの方の鬼の形相は!あ〜こわいこわい!」
と言いながら、わざとらしく肩をすくめて小芝居をしてみせる。その直後、もう近くの雑草や道ばたのものに気を取られて、ふらふらと歩き続ける。
歌子さんがそんなに怖いだなんて意外だったけど、国主という立場なら威厳も必要なのだろう。
やがて、彼女がふと立ち止まり振り返る。
「そうだ、お嬢様、お名前は? 私は香具土と申します!かぐちゃんって呼んでくださいね!」
「私は……五月よ」
五月という名前は本当は偽名だ。
本名はこの町では言わないのが暗黙の了解らしい——妖怪と人間が混じる社会だから、どこで何に呪われるかわからない。歌子さんからそう言われ、そのときに決めた名前だった。
せっかく勇気を出して名乗ったのに、香具土はもう別のものに好奇心を奪われている。「歌子様〜!見てください!」と何度言われたかわからない。
さっきまでの屋敷内の凛とした女中は幻だったのかと、一瞬落ち込む。
だが、また香具土が私に呼びかける。
「お嬢様!そろそろ町が見えてきましたよ〜!」
そう言うや否や、また駆け出してあっという間に遠くへ走っていった。
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