#7 新風
班本部の空気は、さっきまでの騒がしさが嘘のように落ち着いていた。
皆が席に着き、煌真を中央に座らせる。
葵生は軽く目を閉じて呼吸を整え、それから静かに口を開いた。
「……井原煌真。君がユスティティア・ルカヌスに正式に加入するには、本来ならば“選抜テスト”を受けなければならない」
その言葉に、煌真は神妙な面持ちで頷いた。
だが葵生は一呼吸置いて、続ける。
「けれど……近年は能力者の志願者が減少している。あの戦い以降、特にね。だから制度が一部変わった。――“特定の人物の推薦”があれば、テストを経ずとも加入が認められる」
煌真の目が大きく見開かれた。
「……推薦……?」
葵生は頷く。
「そう。実力を認められた隊員が推せば、その人物は試験免除で正式に迎え入れられる。もちろん無条件ではなく、本部の承認は必要だけど」
煌真は一瞬迷ったように俯き、それから思わず顔を赤くしながら口を開いた。
「あ、あの……その……推薦してくれる人って……だ、誰、なんですか……?」
その視線は、真っ直ぐに葵生に向けられていた。
――だが、受け止められた葵生は、ほんのわずかに顔を歪め、こめかみを押さえる。
「……また……頭が……」
小さく呻いたのち、彼女はゆっくりと指を伸ばし――横に座る陽を指差した。
「……推薦者は……高頭陽」
「……えっ……!?」
煌真は椅子から転げ落ちそうなほど仰け反った。
目を丸くし、声が裏返る。
「は、陽さん……!? ……そんなにすごい人……だったんですか!?」
陽はむすっとした顔のまま、腕を組んでそっぽを向いた。
「別に……大したことじゃない」
だが煌真は興奮気味に身を乗り出す。
「いや、すごいっすよ! あの水使いをぶち抜いたのも見たし、推薦枠まで持ってるなんて……! 本気で尊敬します!」
千紗は横で吹き出しそうになりながら肩を震わせ、夕音は苦笑を浮かべていた。
葵生だけは、もう限界と言わんばかりにこめかみを押さえたまま、深く息を吐いていた。
――こうして、井原煌真の正式加入が現実味を帯び始めた。
湯島の執務室。
重厚な机の向こうから放たれる視線は、鋭さと威厳を帯びていた。
「井原煌真。年齢は?」
「……16です」
「なぜ、ユスティティア・ルカヌスに入ろうと思った」
「――隼風さんの意思を継ぎたいからです」
煌真は少しも迷わず答えた。
その背筋は真っ直ぐで、目の奥には雷光のような強さが宿っていた。
湯島は顎に手を当て、さらに畳みかけるように質問を重ねた。
「能力は雷、と聞いた。……制御はどこまで可能だ?」
「まだ未熟です。でも、鍛えれば誰にも負けない力になると信じています」
「戦う理由は?」
「……守るためです。居場所を。仲間を」
途切れることなく返される言葉。
それは青臭さもあったが、虚飾のない熱だった。
湯島はしばし黙り込み、目を細めた。
やがて、低く響く声で告げる。
「……いいだろう。第20班――新班長として、お前を認める」
煌真の胸に、静かに熱が広がった。
「……ありがとうございます」
横で見守っていた陽も、どこか安堵したように小さく息を吐いた。
⸻
本部を出て、二人並んで廊下を歩く。
煌真は肩を回しながら、どこか晴れやかな顔をしていた。
「いやぁ……緊張した。でも受かってよかった」
「……よかったわね」
陽はそっけなく返しながらも、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
ふと、陽が思いついたように口を開く。
「……班長就任の記念に、パーティーでもやる? 飲み会……ってわけにもいかないけど」
「えっ、いいんすか!? それ、めっちゃ楽しそうじゃないっすか!」
煌真は即答し、瞳を輝かせた。
その勢いのまま、にやりと笑って言葉を続ける。
「さすが陽先輩、太っ腹だなぁ」
陽は一瞬ぽかんとし、それから眉をひそめる。
「……今、なんて?」
「え? いや、“先輩”って。だって、そうでしょ?」
煌真は悪びれる様子もなく、当然のように言う。
陽は一拍置いてから、じわじわと頬が熱を帯びていくのを感じた。
「……な、なんか……むず痒いわね」
視線を逸らしながらも、唇が小さく緩む。
――ほんの少し、心が軽くなるのを覚えていた。




