#5 加入
陽は、一歩踏み込むと同時に、手に宿した炎を強く燃やした。
轟、と熱が膨れ上がり、路地の空気が一気に揺らぐ。
「ハッ、来いよ! 水の防御に勝てるもんか!」
水の能力者が嘲笑しながら両腕を広げる。
次の瞬間、透明な壁のように濃密な水が前方に張り巡らされた。
陽の炎を受け止め、蒸気を立てながらも揺るがない。
だが、陽はまるで怯む気配もなく、淡々と口を開いた。
「……三大能力、ってあるでしょ?」
陽はそのまま、真っ直ぐ炎を押し出しながら言葉を続ける。
「雷は“突”。
水は“柔”。
炎は“打”。」
ゴウッ、と炎が揺らぎ、さらに膨張する。
「相性だけ見れば……雷の煌真は、まあこの有様」
ちらりと、倒れ込む煌真に目をやる。
「炎のあたしは、水に弱い。――そう思うでしょ」
その瞬間、水の壁が一気に膨張し、炎を押し返そうとする。
男は勝ち誇ったように笑った。
「そうだろ! 俺の水には勝てねぇ!」
だが――次の瞬間。
「……現実は、そんな単純じゃないのよ」
陽の拳が、灼熱の炎を纏ったまま水の壁へ突き出された。
バシュッ、と激しい蒸気が立ち昇る。
本来なら炎は水にかき消されるはず――だが、陽の炎は一切弱まらない。
「な、なんでだ……!?」
男の顔が青ざめた。
次の瞬間、轟音とともに壁を突き破り――炎を纏った拳が男の頬を直撃した。
「ぐはっ!」
鈍い音とともに男の身体が宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
路地に、重苦しい沈黙が落ちた。
陽は、燃え残る炎をふっと消し、冷たい視線で立ち尽くす男たちを一瞥した。
「――“相性”だけで勝てるなら、誰も苦労しない」
蒸気がまだ漂う中、その言葉はやけに重く響いた。
男たちは陽の炎を目の当たりにし、怯えたように後ずさった。
その中の一人が、捨て台詞を吐き捨てる。
「……すぐに、俺たちの復讐が始まる……覚えておけよ」
それだけ残すと、三人は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
湿った路地に蒸気だけが残り、静けさが戻る。
煌真は地面に手をつき、荒い息を吐きながら陽を見上げた。
目を丸くし、口元が笑みに変わっていく。
「……すげぇ。あんな水をぶち破るなんて……!」
その声には、尊敬というより純粋な興奮が滲んでいた。
陽は肩をすくめ、つっけんどんに答える。
「あたしにとっちゃ普通。……ほら、立てる?」
煌真はよろよろと立ち上がり、素直に頷いた。
その背を軽く押しながら、陽は言った。
「じゃあ――あたしの班に連れてく」
⸻
ユスティティア・ルカヌス第20班本部。
陽に案内されて入ってきた煌真は、やや緊張気味に周囲を見渡した。
部屋の中央には、明石千紗と岩月夕音が腰掛けている。
「……あ、あの……井原煌真です。16歳です」
軽く頭を下げると、千紗が目を細めてじろりと見た。
「へぇ、年下じゃん。ここに入る気なの?」
「……はい。そのつもりです」
真剣な答えに、千紗はわずかに口角を上げた。
夕音は対照的に、柔らかい笑みを浮かべながら手をひらひらさせる。
「よろしくね、煌真くん。私たちの班……って言っても、まだちょっと事情があるけど」
煌真は二人の空気に少し安堵し、小さく笑った。
――が、その瞬間。
「……新入り?」
背後から低い声がした。
振り返ると、葵生が静かに立っていた。
一歩踏み出し、陽に視線を投げかけてから、淡々と口を開く。
「君が連れてきたのか?」
「そう」
陽が短く返す。
煌真は慌てて頭を下げ――そのまま、変な声を漏らした。
「……っは、はぅっ……!?」
「……?」
千紗と夕音の目が同時に細くなる。
沈黙が走る。
煌真は真っ赤になり、必死に言葉を取り繕おうとするが……頭の中では、
(やばい……タイプすぎる……! 真面目系で冷たそう感じなのに絶対優しい……これ……これぞ理想……!)
と暴走した妄想が止まらない。
その様子を真正面から受けて、葵生は額に手を当て、わずかに顔を歪めた。
「……っ……ごめん、少し具合が……」
そう言い残し、背を向けて早足に部屋を後にする。
残された千紗と夕音、そして陽。
「……あんた、やらかしたわね」
千紗が呆れたように言い、夕音は吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
煌真は青ざめて肩を落とし、心の中で叫んだ。
(ち、違うんだ……! 本当に違うんだ……! でも……タイプすぎるんだぁぁぁ……!)




