#4 独学
翌日。
孤児院の前に行く約束をしていた集合場所へ向かおうと、煌真は人気の少ない裏通りを歩いていた。
胸の中には、前日の陽とのやり取りがまだ熱を帯びて残っている。
「……ユスティティア・ルカヌス、か」
小さく呟きながら、拳を握る。
隼風への憧れ、そして自分の中に芽生えた決意。
――もう逃げない。
その時。
「おい、ガキ」
背後から聞き覚えのある声が飛んできた。
振り返ると、昨日路地で叩きのめした三人組の男たちが立っていた。
「この前はよくもやってくれたな...!」
「今日はタダじゃ帰さねえぞ」
周囲を塞がれ、煌真は小さく息を吐いた。
「……まだ分からねぇのかよ」
指先に電光が走る。
瞬間、雷鳴のような音と共に蒼白の稲妻がほとばしった。
だが、その時だった。
「……へへっ」
男のひとりが口角を吊り上げる。
「その雷……本当に自分で制御できてるのか?」
次の瞬間、煌真の全身に走る電撃が、不自然に拡散し始めた。
周囲の空気が湿っている。足元の舗装は濡れ、光る水滴が煌めいていた。
「なっ……!?」
雷は逃げ場を失い、水の伝導により煌真自身の身体へと跳ね返る。
全身を焼くような痛みに、膝が崩れ落ちる。
「ぐ、あああっ……!」
地面に倒れ込み、痙攣するように身体を震わせる煌真。
視界が白く弾け、呼吸すらままならない。
「ははっ! やっぱりな」
水の能力者の男が勝ち誇ったように笑った。
「雷なんざ派手なだけで、自分の身すら守れねえ。……お前はただのガキだ」
「よく吠えてたわりに、耐性ゼロじゃねえか」
「笑わせんな」
残りの二人も口々に嘲りながら、倒れた煌真を蹴りつけた。
腹を、背を、容赦なく。
「……っ、くそ……」
地面に手を伸ばし、立ち上がろうとする。だが、痺れた四肢は思うように動かない。
――雷は、己の武器であるはずだった。
それが、いとも簡単に裏返され、牙となって自分を傷つけている。
「……俺が……こんな……」
苦悶の声が湿った裏路地に響く。
無力さと痛みに、煌真の視界は徐々に暗く閉じていった。
「……独学」
静かな声が、湿った裏路地に響いた。
男たちが一斉に振り返ると、そこには陽が立っていた。
腕を組み、目だけで状況を見渡している。
その眼差しは、ただの“通りがかり”ではなかった。
「お前……!この前の……?」
男の一人が声を荒げる。
陽はちらと地面に倒れる煌真を見やった。
「……遅いから、何かあったんじゃないかと思って来てみたら……案の定ね」
その言葉に、煌真が苦しげに顔を上げる。
「……高頭、さん……」
陽はゆっくり歩み寄り、しゃがみ込むと、彼の耳元で問いかけた。
「……雷の能力、誰かに教わったことある?」
煌真は、かすかに首を横に振る。
「……ない。全部……独学だ」
陽は小さく息を吐いた。
「やっぱりね」
そして淡々と説明を続ける。
「雷の能力っていうのは、本来なら扱えば扱うほど体に“耐性”がつく。
自分の電気に感電するなんて、本来はあり得ない。
でもそれは、正しい指導を受けて鍛錬を積んでる場合の話」
彼女の瞳が鋭く光る。
「独学じゃ、ただ自分を焼き尽くすだけの“刃”よ」
男たちは顔を見合わせ、嘲るように笑った。
「へっ……何言ってやがる」
「そんな説明はどうでもいいんだよ! 次はテメェが標的だ!」
水の能力者の男が、一歩前に出た。
掌に水が渦を巻き、しぶきが路地に散る。
「俺は“水”の能力者だ。炎なんざ相性最悪だろうが!」
調子に乗った声が響く。
「有利なのは俺だ……お前なんざ燃え尽きる前に消してやる!」
陽は肩をすくめ、気だるそうに返す。
「……相性ねぇ」
その指先に、赤々とした炎が灯る。
轟、と一瞬で路地の空気が熱を帯びた。
「水がどうとか、相性がどうとか……それで勝てるなら、あたしはとっくに死んでるはずでしょ」
炎の揺らめきが、濡れた石畳に反射する。
男たちは一瞬、息を呑んだ。




