#26 覚悟の単独任務
翌日。
簡易会議室に集まった煌真たちの前で、葵生はタブレットを操作しながら報告を始めた。
画面には複数の地図と、黒塗りされた施設の位置が点々と表示されている。
「調査は終わったよ。あの闇闘技場の件、実はユスティティア・ルカヌスがかなり前から追ってる事案だった」
煌真は意外そうに目を見開く。
「もう、そんな前から……?」
「最近、各地で似た構造の闇闘技場が確認されてる。そこで行われてるのは非合法の能力者同士の戦闘だけじゃない。
賭博、闇取引、違法薬物……全部セットだ」
葵生の声は淡々としていたが、その内容は重かった。
「問題は警戒心。向こうは相当用心深い。ユスティティア・ルカヌスの主要メンバーの顔と能力データは、ほぼ全部割れてる」
画面が切り替わり、空の建物の内部写真が映る。
「私たち(ユスティティアルカヌス)が動くと、いつもこう。踏み込んだ時には、もぬけの殻」
椎尾が舌打ちをする。
「完全に先回りされてやがるな……」
沈黙が落ちた、その時。
「……だったら」
煌真が、少し考え込むようにしてから口を開いた。
「俺が行くのはどうですか」
全員の視線が、一斉に煌真に向いた。
「俺、まだ新人です。
正式に活動し始めてからも日が浅いし、表に出たことも少ない。
顔も能力も、まだ向こうに知られてないはずです」
葵生は一瞬、目を細める。
「……単独潜入、ってこと?」
「はい。闇闘技場に“客”か“参加者”として入り込めれば、最低でも場所の特定と運営の手がかりは掴めると思います」
椎尾は腕を組み、難しい顔をした。
「危険すぎる。そういうとこはただの遊び場じゃねぇ。能力者を消耗品みたいに扱う連中だぞ」
「分かってます」
煌真は即答した。
その目には、迷いがなかった。
葵生はしばらく黙り込み、タブレットの画面を消した。
「……正直に言うね」
その声は、先ほどまでよりも低かった。
「この件、上には上げられない」
煌真は一瞬、言葉の意味を測りかねた。
「ユスティティア・ルカヌスとして正式に動けば、また同じ結果になる。顔が割れてる以上、向こうは必ず逃げる」
椎尾が眉をひそめる。
「つまり……」
「第20班だけでやる。極秘で」
空気が張り詰める。
「記録にも残らない。応援も、公式なバックアップもなし。何かあっても、組織は“関与していない”ことになる」
煌真は息を呑んだ。
「それでも――行く価値はある?」
葵生の問いに、煌真は迷わなかった。
「あります」
椎尾が口を開こうとするが、葵生が手で制した。
「危険なのは分かってる。でも、今の状況で中に入れるのは煌真しかいない」
沈黙。
煌真は拳を握りしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺が行きます」
その声は、震えていなかった。
「孤児院を燃やした連中が、あの闇闘技場と繋がってる可能性があるなら、俺が確かめます」
葵生は、ほんの一瞬だけ目を伏せた後、静かに頷く。
「分かった。これは第20班極秘の潜入調査。知っているのは、ここにいる人間だけ」
そう告げられた瞬間、
煌真は理解した。
これは命令ではない。
逃げ場も、保険もない――自分で選んだ道だということを。
そして彼は、
誰にも知られぬまま、闇闘技場へ踏み込む覚悟を決めた。




