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#25 脳裏の闘技場


モニターが、低い電子音と共に明滅した。


次の瞬間、ノイズ混じりの映像が浮かび上がる。

それは記録映像ではない。

男の脳裏に焼き付いた、生々しい“記憶”そのものだった。


暗い。

異様なほど暗い。


視界の端が歪み、まるで水の中から覗いているかのように世界が揺れている。

湿った空気。

鉄錆と血の匂いが、画面越しでも伝わってくる錯覚を覚えた。


——人の叫び声。


歓声ではない。

怒号でもない。

獣じみた、喉を潰すような咆哮が、四方から叩きつけてくる。


映像が定まる。


そこは、闘技場だった。

だが煌真の知るどんな競技施設とも違う。


天井は低く、剥き出しのコンクリート。

照明は最低限しかなく、光はリングだけを無機質に照らしている。

観客席は闇に沈み、そこに“何人いるのか”すら分からない。


ただ、いる。

確実に、見ている“何か”が。


リングの中央に立つ視点。

——この男、中増鏡の視点だ。


拳が震えている。

恐怖か、興奮か、もはや区別がつかない。


目の前に立つ対戦相手は、顔がはっきりしない。

まるで意図的に削り取られたかのように、輪郭だけが曖昧だ。


だが、次の瞬間。


血が飛んだ。


一撃。

重い衝撃が走り、視界が激しく揺れる。

誰かが倒れる音。

骨の軋む感覚が、映像越しにまで伝わってくる。


周囲から、歓声とも罵声ともつかない声が湧き上がった。


——勝て。

——殺せ。

——価値を示せ。


言葉にならない圧力が、空間そのものから押し潰すように迫ってくる。


そして、映像が一瞬だけ切り替わる。


薄暗い通路。

鉄の扉。

その横に、無造作に貼られた紙。


そこには、乱暴な文字で書かれていた。


中増 鏡(なかます あきら)


それが、この男の“名前”だった。


「……名前、だ」

煌真が呟く。


だが、それ以上の情報はない。

組織名も、指示者も、顔も映らない。


あるのはただ——

逃げ場のない闇の闘技場と、

“戦わなければ生き残れない場所”の記憶だけ。


映像は再びノイズに侵食され、ぶつりと途切れた。


モニターは黒に戻る。


病室に、重苦しい沈黙が落ちた。


「……やっぱり、末端ね」

志野院が、珍しく真面目な声で言った。


「命令を受けて、投げ込まれた駒。

 組織の核心には、指一本触れてない」


葵生は拳を握りしめる。

「でも……闘技場は、確実に実在する」


煌真は、暗転したモニターを見つめ続けていた。


そこに映っていたのは、

ただの犯罪者の記憶じゃない。


——人を壊し、選別するための“場所”だった。


「……次は、ここだな」


煌真の言葉に、誰も否定しなかった。


闇闘技場。

それは、まだ名前すら知られていない“地獄”への入口だった。

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