#20 炎が奪ったもの
千紗は燃え上がる炎を見上げていた。
夜の闇を朱く染めるその光は、遠くからでもわかるほど激しかった。
駆けつけた頃には、すでに消防隊が消火活動を始めていた。
焦げた匂い。
耳に残るサイレンの音。
そして──その人影を見つける。
「……煌真くん?」
煙の向こう、立ち尽くしていたのは煌真だった。
肩を落とし、ただ燃える建物を見つめている。
その隣には、普段とは違う私服姿の椎尾がいた。
「どうしてここに……」
「自宅が近いんだ。騒ぎで飛び出してきたら……これだ」
椎尾の声は沈んでいた。
煌真はゆっくりと口を開く。
「……この建物、俺がいた孤児院なんだ」
千紗は息を呑む。
その目には、ただの火災ではない、もっと深い痛みが宿っていた。
「今のところ、生存者は……誰も見つかっていないらしいです」
その一言に、空気が凍りついた。
椎尾は拳を握りしめ、怒りを滲ませる。
「……誰がやったんだ。放火か?」
「...おそらく」
煌真は低く答える。
「でも……犯人はもうどこかに行ったはずです。火をつけたら満足して逃げる。それが普通です。 」
その時、背後から小さく笑う声が聞こえた。
「……普通なら、ね」
振り返ると、そこには宮河がいた。
炎の赤に照らされて瞳がきらめく。
「放火犯ってね、意外と現場を“見たがる”もの。自分の“作品”を見届けたいタイプが多いの」
「……つまり、まだこの中にいるかもしれないってことか?」
椎尾が鋭い目を向ける。
宮河は頷いた。
「ええ。観客のふりをしてね」
夜風が吹く。
火の粉が舞う中、千紗は本能的に周囲を見回した。
——確かに、そこにいた人たちの中に、妙に落ち着いた視線をした人物がいた気がした。
胸の鼓動が速くなる。
事件の匂いが動き出そうとしていた。




