#2 新たな席
執務室を出ると、廊下には昼の光が射し込んでいた。
だが、その明るさとは裏腹に、二人の足取りは重かった。
葵生が歩みを止め、横にいる陽へ視線を向ける。
「……陽、あてはあるのか?」
陽はポケットに手を突っ込み、苦々しげに顔をしかめた。
「あるわけないでしょ」
即答だった。
その声音に、過去の影が混じっているのを葵生は聞き取った。
しばしの沈黙。
窓の外には、遠くシンセシティの街並みが見えていた。
だがそこも、2年前とはどこか違っていた。
葵生は小さく息を吐き、言葉を続ける。
「……それに、今は能力者そのものが減少している。あの戦い以降、能力を持つ者は以前よりも表に出なくなった。ユスティティア・ルカヌスに志願する者も、少なくなっている」
陽は視線を逸らし、窓の外をぼんやりと見やった。
「あたしたちが探したって、すぐに見つかるもんじゃないってことね」
返事はなかった。
ただ、葵生の胸の奥に広がる不安だけが、言葉にされずに残っていた。
***
第20班の本部に戻ると、待っていたように千紗と夕音が顔を出した。
「おかえり」
夕音がマグカップを片手に言う。その表情は笑っているようで、どこか張りつめていた。
「どうだった?」
と千紗。
葵生は小さく首を横に振った。
「……やはり、簡単には決まりそうにない」
四人の間に短い沈黙が落ちる。
やがて夕音が視線を落とし、ぽつりと呟いた。
「……それより。紗彩さんのこと、聞いた?」
陽が眉を寄せる。
「紗彩さんが……どうしたの?」
千紗が代わって答えた。
「実は...数日前から行方不明なの。医療棟にいたはずなのに、突然、姿が消えて……」
その言葉に、葵生の顔が強ばった。
「……姉さんが?」
返す言葉はなかった。重苦しい空気が漂い、誰も続けられなかった。
――そのあと、陽は一人、廊下を抜けてある部屋へ向かった。
そこは班長室。
今は空き部屋同然だが、そこには居候として宮河綾夏が寝転がっていた。
魔族――人類とは異なる存在。その正体はいまだ謎に包まれている。
「……あたしが来るときに限って、寝てるのね」
陽は呆れ声で吐き捨て、本棚の前に立つ。
遺品整理――班長であった隼風の残したものを少しずつ片付けているのだ。
本を一冊ずつ取り出し、埃を払いながら並べ替えていく。
その途中、不意に一冊の本から紙片が落ちた。
陽が拾い上げると、それは隼風の筆跡で書かれたメモだった。
《――もし俺に何かあれば、新班長のことで揉めるだろう。
だが、俺は既に候補を見つけてある。この住所を訪ねろ》
陽は、しばしその文字を見つめた。
胸の奥がざわつく。
――''元''班長は、未来を予測していたのだ。
陽は迷わなかった。
誰にも告げず、ただ一人でその住所へ向かう準備を始めた。
背後で寝息を立てる宮河が、かすかに身じろぎした。
だが陽は振り返らず、部屋を後にした。




