#18 夜更けの共有スペース
窓の外はすっかり闇に沈み、街灯の明かりだけがぼんやりと差し込んでいる。
煌真と陽、千紗、夕音はそれぞれ帰宅し、班本部に残ったのは二人だけだった。
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葵生は共有スペースのテーブルに書類を広げながら、ふと黙ってコーヒーをすすっている椎尾へ視線を向けた。
「……一つ、聞いてもいいですか」
椎尾はマグカップを持ったまま、片眉を上げる。
「なんだ」
葵生は淡々としたまま核心を突いた。
「椎尾さんは、どうして第12班を辞めたんですか?」
椎尾の手が止まる。
数秒だけ無言――だがその沈黙は、拒絶というより“面倒臭そうな逡巡”に近かった。
「……お前、結構ズケズケ聞くよな」
「気になったので」
「はぁ……しゃーねぇな」
椎尾はマグカップをテーブルに置き、背もたれに体を預けた。天井を一瞥してから、重く口を開く。
「簡単に言やぁ――内輪モメだ」
「……喧嘩?」
「まあな。班長と、あともう一人。……仲間のことが原因で言い合いになってよ」
語尾は淡泊だが、そこに滲む後味の悪さは隠しきれていない。
「で、売り言葉に買い言葉ってわけじゃねぇけど……結果的に喧嘩別れだ。俺の性分が災いしたって話だな」
自嘲するように笑い、短く息を吐く。
「責任がどっちにあるか、なんて話はもうどうでもいい。俺にも非はあった。だから戻る気もねぇし、未練もねぇ」
「……話せるのは、そこまでってことですね」
葵生が言うと、椎尾は「そうだ」と短く返した。
それ以上踏み込まないのを確認すると、葵生は書類に視線を戻す――が、その横顔にはほんのわずかな理解と興味が残っていた。
「……ふん。詮索しねぇのは助かる」
椎尾は再びコーヒーを口に運ぶ。
二人の間に流れる空気は静かだが、どこかしら“敵意のない距離感”へと変わっていた。




