#1 新班長
S.C 943年、シンセシティ――あの戦いから、二年が経った。
午前の光が差し込むユスティティア・ルカヌス本部。その一角、磨き上げられた廊下を二つの影が並んで歩いていた。
高頭 陽と柄本 葵生。第20班に籍を置く者同士であり、葵生は現副班長でもあった。
葵生が腕時計をちらりと見やり、短く息を吐く。
「……行こう」
その声に、陽は気のない返事をしながらも足を進めた。
二人が向かった先は、本部長・湯島の執務室だった。
重厚な扉を叩くと、中から「入れ」という低い声が返ってくる。
室内は整然としていた。書類が積み上がった机の奥、湯島が椅子に腰掛け、真っ直ぐ二人を見ている。
「来たか」
葵生は最初から分かっていた。この呼び出しの理由を。
――第20班の新たな班長を決めるためだ。
湯島は、まず陽に視線を向ける。
「班長は、君が適任だ」
その瞬間、陽の肩がぴくりと動いた。
「あたしは……やらないって、何度も言ったはずです」
声は硬く、迷いを断ち切るようだった。
二年前、別の班で班長を務め、自分以外の全員を失った。あの日の叫び声が、今も胸を締め付ける。
湯島は小さく息を吐くと、次に葵生が口を開いた。
「私が――やります」
迷いのない口調だった。
だが湯島は首を横に振る。
「頭脳は確かに優秀だ。だが実力は、陽には遠く及ばない」
その言葉は、鋭く胸に突き刺さった。
葵生はわずかに唇を引き結び、反論もせず黙り込む。
執務室に重たい沈黙が降りた。
二年前に止まったままの歯車が、再び動き出そうとしている――だが、その動きはぎこちなく、軋む音を立てていた。
湯島は、机の上の書類を指先で軽く叩きながら言った。
「……班長が決まらないなら、新しく候補を探してこい」
陽が眉をひそめる。
「あたしたち以外から?」
「そうだ。だが――」
湯島は視線を鋭くし、言葉を続ける。
「第20班の他のメンバー、明石千紗と岩月夕音は除外しろ。班長には……してはいけない」
理由を問おうとした葵生だったが、その声は出なかった。
湯島の目が、言葉よりも強く「聞くな」と告げていたからだ。
「期限は一ヶ月だ」
低い声が、室内の空気をさらに冷たくする。
「それまでに班長が決まらなければ、この班は――解体する」
陽がわずかに息を呑む。
葵生は表情を動かさずにいたが、その指先はわずかに震えていた。
重苦しい沈黙が、再び執務室を支配した。
解体――その言葉は、二人の胸に鉛のように沈んでいった。




