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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『聞池 該』名義作品

うんこを食べる女

作者: 聞池 該

食欲をなくすかもしれない描写があります

「あそこの屋敷にうんこを食べる女が住んでるらしいぜ」


 そんなことを言いだした飯塚につられ、僕はその屋敷を遠くに眺めた。


 廃墟のような門のかなり奥に、ぽつんと二階建てのプレハブ住宅が見える。広大な敷地は荒れに荒れ果て、建物はそれしかなく、ごく最近設置したもののように新しい。

 こんなところに建っているのは古くておおきな日本家屋のほうが似合うのに、なぜ小綺麗なプレハブなんだろう? と前から通りかかるたびに不思議ではあった。

 確かにこんなところに住んでいるのは変人という気はするが、飯塚の言を低俗な悪口と感じ、僕は笑い飛ばそうとした。


「ハハ……、まさか。カレーを食べてるのをそう見間違えたんだろう」

「いや、自分のケツから出てきたうんこを、そのまま手掴みにして口に運んでるのを見たってやつがいるんだよ」


「どうやって見たの?」

「知らねーけど、見たっていうやつがいるんだって」


「そんな根も葉もない噂、信じるなよ。大体あんなところにどんな女性が住んでるっていうんだ?」

「見たやつによると、かなりの美人だそうだぜ」


 あり得ないと思った。

 少なくとも僕はそんな女性をここで見かけたことはなかった。あのプレハブには、どちらかというとこの廃墟を管理しているおじさんのほうが似合っている。


「なぁ、入ってみねー?」

 飯塚がバカなことを言いだした。


「小学生じゃあるまいし……。俺たち二十歳の大学生だぞ? やめとけよ」


 しかし飯塚は何かに取り憑かれたように興奮していた。

「入ってみよう! どんな美人がいるか! ほんとうにうんこ食ってんのか、見に行こう!」


「……あっ!」


 壊れた門の隙間から、飯塚の太っちょの身体がするりと中へ入っていった。



 仕方なく後を追って、僕も門の隙間に細い身体を滑り込ませた。

 中は背の高い雑草だらけで、しかしその間を抜ける一本の細い道があった。まるで獣道だ。

 飯塚の姿はどこにもなかった。


「……おい、ふざけるなよ」


 生い茂る雑草の中に隠れているものと思ったが返事がない。

 まっしぐらにプレハブをめざして駆けていったのだろうか? とりあえず僕もそこをめざしてみることにした。



 興奮した。


 住居不法侵入は興奮するものだった。


 しかもそんな美人がほんとうに住んでいるのなら、これほど興奮することはない。



 プレハブ住宅は近くで見ても真新しく、壁に苔のひとつもなかった。

 表札はなく、呼び鈴のボタンもついていない。

 ちいさな窓の中で、誰かが動く気配がした。


「すいませーん」

 僕はドアをノックした。

「友達がこちらにお邪魔してませんか?」


 中でコトコトと物音がして、やがてドアが開いた。

 顔を出したのは、とても白い顔をした、キツネ顔の美人だった。

 二十歳台後半くらいだろうか? 若妻といった印象の女性は、待っていたというふうに僕に微笑んだ。


「お友達はもう食べられたわ。あなたもどう?」


「……え。何か御馳走になったのですか? 飯塚のやつ、遠慮がないな」


「ホホホ! どうぞ!」

 女性は冷たい手で僕の手を掴むと、中へ引っ張り込んだ。

 


 お洒落な白いテーブルの上には、既にそれが用意されていた。

 白いお皿の上に盛られた白いご飯、その上には、たった今こかれたばかりという感じの、新鮮なうんこが乗っていた。健康な、もりっとした感じのうんこだ。


 飯塚が席に着いていた。

 口からうんこをもりもりと出しながら陶酔の表情で固まっている。

 その頭蓋骨の上蓋がはずされ、丸見えになった脳味噌に女性がスプーンを入れると、飯塚がビリビリと電気で動くように痺れた。


「あなたもどうぞ。召し上がれ?」

 うっとりと女性が笑う。


 僕は匂いを嗅いだ。

 うんこだった。

 いかに美しい女性の中から出たものとはいえ、拒絶反応が起こった。


「ムリだ! こんなもの、食べられない!」


 僕が首を激しく横に振ると──


「ほら」

 女性がご飯の上のうんこだけを手掴みにして、自分の口に入れた。

「おいしいわよ?」


 僕は魔法にかかったように、手を伸ばすと、それを掴み、食べた。

 見た目通りの味が、舌の上に、口の中に広がった。


「ぐええええ……ッ!」


「ホホホホホ! 大したことないのね、坊や!」

 女性の高笑いが聞こえた。

「犬のうんこも食えないなんて!」





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― 新着の感想 ―
タイトルの字面がすごいので思わず飛んできました。字面ァァ!って。 飯塚が実は食われていた系のホラーオチという読者の予想をことごとく超えてくる。
うーん、此の毒特な味わい深さw
勇気を出さないと書けない作品、そして勇気を出さないと食べられない物を見事に描写されるその腕は、もはや神様です
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