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第四話 セミテリオのこども達 その五

この、その五からでもお楽しみになれると思いますが、

第四話その一から、あるいは第一話からの方が、ストーリーが判りやすいと思います。

(夢さま、本当にありがとうございました。とっても助かりました)

(いえ、どういたしまして。今度一緒にご旅行いたしましょう)

(うわぁ、ありがとうございます。ぜひお誘いください)

(では、私はここで、ごきげんよう)

(さようなら)

(戻ってらっしゃいましたね。お疲れのご様子。色々お話をお伺いたしたいところですけれど、わたくしどもには時は永遠、またのお楽しみにしておきましょう。ごゆっくりお休みになってくださいな)

(マサさまのお言葉、とっても嬉しいです。でもね、ユリ、色々と。あっ、カテリーヌさま、お戻りだったんですね。よかった。とっても心配いたしました。びわちゃんがね、隼人君から何か薄い煙みたいなのが抜けて行ったって言うし、お母さまはそれを聞いて、隼人君の魂が抜けたっておっしゃるし、私は、カテリーヌさんが私たちの世界からどこかに去られたのでは、と心配でしたし)

(ユリさま、本当にごめんなさい、とても残念です。あのままご一緒いたしたかったのに)

(ユリちゃん、ゆっくりしゃべんなよ。時は永遠)

(でもね、ユリ、あまりにいっぱいあって、いえ、あまりにたくさん見て来て、あまりに困って、え〜と、どれから話したらいいのかしら)

(ユリさん、まずは一休みなされませ)

(そうでござる。まずは英気を養ってくだされ)

(ユリ、だめです。興奮状態で気が動転していて、気が狂いそうで、英気を養うなんてできません。全部お話しないとおさまりませんっ)

(ははは、じゃぁどうぞ)

(どこからお話すればよいのかしら。え〜と、自動車が走って来て、すごぉい音がして急にとまって、カテリーヌさんが気を失って、じゃなくて、隼人君から抜けちゃって、お母様が気を失うばかりで膝をついちゃって、腰が抜けるってあぁいうことなんですね。びわちゃんがおろおろして、私もカテリーヌさんが気を失ったんだとその時は思っていたのでおろおろして)

(ユリさん、落ち着いて。深呼吸、息をして、はいっ、続きをどうぞ)

(はい、それで、誰も怪我はしていなくて、近くにいた人が駆けつけて来て、自動車を運転していた人はおりて来て、隼人君は転んでもいないし、怪我もしていないし、自動車もぶつかっていないし、だから大丈夫だってことで、え〜と、それで、私は隼人君にはもう私しか乗っていないって気づいて、カテリーヌさんが私を置いてどっかに行っちゃったんだってわかって)

(ユリちゃん、はい深呼吸、空気を吸ってぇ)

(あっ、はい。お母さんが、ちゃんと右見て左見て渡りなさいって言ったでしょ、びわちゃんが、右見て左見て右見てって言ったでしょ、って隼人君に言って、そしたら隼人君が、僕、ちゃんと右見て左見て右見て渡った、って言って、でね、ユリもたしかに見たし。隼人君ちゃんと右左右って見ていたしって思いました。でもね、轢かれそうになったわけでしょ。だって自動車は来ていたわけで。お母さんが気づいたの。見るだけじゃだめだってこと。見て、車が近くにいたら渡らない、ってことまでちゃんと付け加えて最後まで言っていなかった、ってことにね。隼人君はちゃんと見たけれど、見ただけで、見て危ないと思ったら渡らない、ってことまで考えなかったのね。確かに、見たからって車が止まってくれるわけない、あれっ、車も止まらなきゃ行けないのかなぁ。でも、こどもが見ていたら渡らないって思ったのかもしれないし。私たちだって、目の力で物を動かせる方ってとっても少ないですし。なんだかわからなくなってきちゃいました)

(ユリちゃん、右左右左も誰が誰に言ったのかも、ややこしいよ)

(ユリさま、一息つきましょう、いえ、本当にごめんなさいね。わたくし、自動車がすごい速さで近づいてきた時に息を止めていました。で、あのキィッ〜って音で気を失いましたの。気づいたらセミテリオにおりました。ユリさまを置いてきてしまって、本当にごめんなさい)

(はい、いえ、あの、それで、あの時でしたっけ、お話してましたでしょ。次の日はびわちゃんに乗って小学校見学にって。私、隼人君に乗っているのも怖かったですし、隼人君はお母さんとびわちゃんに挟まれて両手をつながれちゃって、もう一人で歩かないで、なんて言われて、ですから、私、そのすきにつないだ手からびわちゃんに移ったんです。お母さんが、もうまっすぐ家に帰ろうとおっしゃって、でも、びわちゃんも隼人君もおやつ食べるって言い張って、それで、え〜とマクドでしたっけ、マックでしたっけで買って、何を買ったかって、え〜と、これは前私が乗せて頂いたお若い方の時と同じで、ハンバーガーっていう、パンの間にひき肉を丸めて焼いたのやお漬け物をはさんだものを買っていました。あとポテトと呼んでいたぽていとぉ、英語でじゃがいもを角切りにして揚げたものです)

(ユリちゃん、いつの間に英語勉強したんだい)

(うふふ、後でお話します)

(それでお家に帰って、おやつ食べて、びわちゃんはなんか、宿題とか本読みとかやってました。その内お夕食の時間になって。和食でした。私、なんとなく懐かしい感じ。だってね、冷や奴と大根おろしと鰤の照り焼きと、胡瓜の塩揉みと、ひじきの煮付けと、枇杷でした。あっ、夕食にはね、お父様ご一緒でした。でね、お母さんとびわちゃんが隼人君が自動車にぶつかりそうになったこととかお話なさって、その後、びわちゃんが、マックをマクドというお父さんと弟は変だって言い出して、お父さんが、関西じゃマクドで、関東じゃマックで、どちらでもいいじゃないかってお話なさって)

(英語で書いてある店のことでござろう。最初の文字はMではなかろうか)

(ロバートさま、最初の字は、え、え、えぬでしたっけ。あれっ、あの、頭だけのお魚が上向いて口開けているような字です)

(ユリちゃん、君、面白い覚え方するんだね。ついでに、えぬってのは、縦棒二本。左の棒の上と右の棒の下がつながっているんだ)

(やはりMcDonald’sのことでござろう。赤地に黄色い字で。昨今、方々にあるハンバーガーのお店のことでござるな)

(ロバート殿、よくご存知でらっしゃるのっ。いつの間にご体験なされなのっ)

(両親が泥棒というあの亀歩きの青年が持っていた電話が気になりましてな、最近は旅をしていない、これじゃぁ世間に乗り遅れると反省いたしまして、先日日帰り旅行を試みましてな、うまく行かず三泊してしまいましたがな。その折にMcDonald’sには辟易いたしましたので)

(辟易とは、これまた何故)

(いやぁ、何度も乗り移りまして、いや乗り換えいたしまして、ところが乗り換えした方々がみなさまやれ昼食だ、やれおやつだ、やれ腹減った、やれ朝食だと、みなさまMcDonald’sに入るものでしてな、我が輩何度見せられたというか嗅がされたのであろうか。最初の頃は、懐かしの我が故郷近くセントルイス世界博覧会での話題の食事と嬉しかったものですがな。あまりに続くのでうんざりしておりましてな、その内気づいたわけです。煙草を吸わない乗り物、いや、人間がMcDonald’sに入るんだと、あそこは禁煙と入り口に書いてある、しかもなぜか英語でNo Smokingなどと書かれておって、それじゃ煙草のにおいのする御仁に乗ればいいのだと、そういう御仁に乗り換えたものの、その御仁はこれまた喫煙席のあるMcDonald’sに入るというわけで、喫煙をする席が決まっているというのも驚きでしたが、一度など、隣に、これまた英語で店名が書いてあったKentuckyなんとかという、入り口に白い服を着た太ったご高齢の白人男性人形がある処に入りたいと思っていたようだが、やっぱ高い、と凄まじき日本語をつぶやいて結局またMcDonald’sに入ると言う体験をいたしましてな。Kentucky州は先日お話いたしました南北戦争の舞台となった地でもありまして、きっとそこの料理を出す店なんだろうと期待したのですがな。そうそう、乗り物、いえ御仁方がみな、マックとかマクドとかその店を読んでましてな。おう、日本語化した英語と、我が輩は一人にやりとしたわけです)

(ほう、またどうして)

(あのぉ、ユリに話続けさせてください)

(ユリさん、申し訳ない。一寸お待ちを。彦衛門殿、つまりですな、英語読みをしますと、あれはまっどうなーず、となるわけでして、それをマクドナルドという母音がきちんと入る日本語読みにいたして、それを更に短くしてマックとかマクドと読んでいるわけですな。つまり頭の二文字Mcだけを読んでいるわけでして、このMcというのは、英語というよりもアイルランド語でしてな、正式には二文字ではなく、Macと三文字でして、既に省略された形で、息子という意味なのでござる)

(あのぉ、ロバートどの、亜米利加では英語でしたわね。どうしてアイルランド語が亜米利加で使われるのでしょう)

(マサさま、亜米利加とは元々インディアンしか住んでおらなかったのです。インディアンというのは、印度の土人という意味で)

(亜米利加に印度人、なんですか)

(否、亜米利加を見つけた人がそう思ったわけでして)

(見つけたって、でも、そこに住んでいた人は見つけられたってこと)

(迷子になっていたわけでもないのに、ですか)

(あ〜、ややこしい。整理しましょう。西洋人は、新しい土地を探していたわけです。そして亜米利加の地をみつけた、いや、みつけたじゃまずいわけですな。亜米利加の地に出会った。しかしそこは以前から知っておった印度だと思い込んだ。だからそこの土人を印度人、すなはちインディアンと呼んだ。インディアンしか住んでいない広大な土地、そこが印度では無いと分かってからですが、広いから欧羅巴からどんどん人が入ってくる。西洋とは異なる新しいものとの出会いを求めて、西洋の窮屈な生活、宗教から逃れて、西洋で食い詰めてなど理由は様々でしたがな。アイルランドからは、一八四十年代にじゃがいもの疫病が広まり、じゃがいもを食べていた農民が飢えに苦しんで亜米利加に大量に移住しまして、そこでアイルランド系の名前を持つ人が増えたというわけで、我が輩がセミテリオに参る直前頃には、MacDonald爺さんの農場という歌も流行りましてな)

(ロバート殿、その歌、聞かせてくださいませ)

(ロバートさま、ユリのお話の途中なんですが)

(ユリさん、すみません。ということで、マサさま、貴女のご要望には今回は応じかねますがお許しいただきたい。ひよこや牛や豚やラバが歌う面白い歌なのですがな。もっとも、我が輩、歌はあまり得意ではござりませぬ。美声でもありませぬ)

(おじさん、それで、その歌とお店と関係あるのかなぁ)

(いや、多分に関係は無いと思われます。実際、McDonaldという名字は、田中氏や佐藤氏程では無いと思われますが、結構よくある名字でして、そもそも亜米利加では名字の数は日本に比べて限りがござる)

(ロバートさま、ユリのお話、続けてもいいかしら)

(ユリさん、大変申し訳なく存知ます。丁度、話しも一区切りいたようですな)

(じゃぁ、みなさま、ユリの話に戻ります。あれっ、どこまでお話したかしら。え〜と、そうそう、あっ、マックかマクドかってお話と夕食のことはお話いたしましたわね。それからびわちゃんは、え〜と、ほらあの亀歩き青年の家にもあった、動く絵が映る、え〜と、あってれび、てれびでお話を見て。私ねてれびじょんはもう四半世紀も前に、ほら、前お話したコーラ、お醤油みたいで歯医者さんの匂いのするってお話の時ので、知ってはいたんですけれど、それに、あの青年の家のも、どういったらいいのかしら、大きかったでしょ。こう、さいころを大きくしたような。それがね。びわちゃんの家のは薄くて、広くて、中の絵も色がついていて、その色もまるで本物みたいで、前の色みたいにぼやけていなくて、ですから、もうなんだか目の前に人がいたり公園があったり本物みたいで、気分が悪くなりましたの。それで、見ないようにしておりましたら、うとうとしてしまい、次に気づいたのは、朝ご飯の時)

(ユリちゃん、ロバートおじさんの話が間にあったせいか、少し落ち着いてきたみたいだね)

(はい、ほんと、少し。あっ、でも、やっぱりお話したいことあまりにありすぎて、早くお話しないと忘れそうです)

(まだ午前中ですし。わたくしどもの時間は永遠ですし、ごゆるりと)

(マサさまありがとうございます)

(朝ご飯はね、あっ、朝パンはね、カテリーヌさま、前の日の、カテリーヌさまがご覧になったのとほとんど同じでした。そういえば、カテリーヌさま、あれ、おもしろかったですね。水と粉みたいな珈琲を入れて、電気をつなぐと、ごぼごぼ音立てて珈琲ができあがるんですよ)

(おお、似たものが例のまっどうなーず、マックとかマクドとか呼ばれている所にもありましたぞ。こ〜んな大きい機械でござろう)

(いえ、そんな大きくなかったです。このくらい)

(ほう〜)

(僕、あの香りが好きで、でも、僕がこっちに来る少し前には、敵国飲料とされて、飲めなかった)

(ほう〜、敵国ですか。そりゃたしかに亜米利加人はよく飲みますが、しかし、亜米利加で作るものではなく、伯刺西爾や哥倫比亜などでつくるものでして、あっ、しかしながら、先の大戦ですと、この両国も亜米利加側でしたな。たしかに敵性国家)

(おっほん、私はその珈琲なるものを知らぬが)

(あら、だんなさ〜、ご存知なかったですか。わたくしは何度か口にいたしましたが、だんなさ〜は、こちらにお一人の時にはわたくしに乗らなかったのでしょうか、もっとも、珈琲のどこが美味しいのか、わたくしにはさっぱり。茶色い泥水みたいで、苦くて。焦げ臭くて)

(マサ、私は一人で、セミテリオにもまだ住人は少なく、誰も、乗るということを指南してくれなかったのでのっ。知っておったら、マサに乗って日々退屈しなかったろうにのっ。珈琲は苦い泥水、香りに騙されてはいけないということだのっ)

(彦さま、そのようなことはございませんの。文化の違いでございます。わたくしも、当初はお抹茶をとても苦く、気味悪いくらい緑色と思っておりましたわ。お菓子も、甘い豆など気持ち悪くなりましたが、慣れてしまえば和菓子に抹茶という最高の組み合わせになりましたもの。まぁ、あの頃、珈琲を手に入れるのは大変でしたしね。あ〜、練りきりのあの軟らかい甘さが懐かしいです)

(カテリーヌさん、あちらでお目にかかっておりましたなら、わたくしご招待いたしましたのに。わたくしも江戸、いえ東京に出て参りましてからは、抹茶と和菓子のお時間が大層楽しみでございました)

(マサさまとは、あちらの世界で二十年ほど同じ時代を生きておりますのね。わたくしの方が先にこちらに参りましが)


  *


続く


お楽しみ頂けましたなら、幸いです。その六は18日までにはアップいたします。

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