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第七話 セミテリオから犬にも乗って その十二


(大戦後、憲法が変わって民主主義になりましたのにね。主人がよく申しておりましたわ。我が家は代々選挙権を持っておったって自慢気に)

(えっ、選挙権って、二十歳になったら誰でもあるっしょ。あんなもん、俺はいらないやって思ってたっすけど、矩推の父ちゃんなんか、まだ俺が小学生の頃でも、二十歳になったらよろしくなんて言ってたっすよ)

(武蔵君、選挙権は昔はお金持ちの男の人にしか無かったんだよ)

(へぇ〜)

(そうそう、ユリのお家でも選挙に行けるのは父だけでした)

(ユリおばちゃんってお金持ちだったっすか)

(父はお店を持っていたからかしら)

(俺んとこもうどん屋っすけど、金持ちじゃないし)

(二十歳以上なら誰でも投票できる。なのに投票率はどんどん下がり、選ばれたと言っても、ひどい所では住んでいる人の十分の一ぐらいの人に名前を書かれただけでトップ、一番上になれる。しかもなったらなったで、はぁ、話すのもうんざりしてきました。話が元に戻りそうですね、男というものは、いや、僕も男ですが、それに今の代議士には女もいますよ)

(へぇ〜、女の人でも代議士になれるのっ。ユリ、なってみたかった)

(ユリちゃん、また。ほんとユリちゃんって何にでもなりたがるんだね)

(だってユリの将来は、あそこで西班牙風邪に罹らなきゃ、今のあちらの世でいろいろできたかもしれないでしょ。面白いわぁ)

(でもね、ユリさん、今の代議士は、ほんとひどいもんですよ。使うのに足りなきゃ税金増やすことや国債で増やすことばかり考えて、その内破産しそうですよ。いや、ほんとはとっくに破産しているのですがね、何しろ貸し主が国債持っている国民というわけで、破産には至らないだけで。金が無尽蔵に湧いて来るとでも思って増税するなら、誰にでもできる。湯水の様に使うなら誰でもできる。少ない予算をどう配分するかどう使うか、方々で主婦がやりくりしていることを、自分たちの歳費からまずは削ろうとは思わず、隗より始めよは死語になってる。歳費数千万円貰ってる選ばれた偉い人ということになっている政治家がやりくりできないとぬかす。やりくりに頭を使うのが政治家であるべきなのに、国民と言う他人から奪って、どんどん奪ってばかりじゃ泥棒並みですよ。馬鹿だってできる。あの歳費で居眠りしたりファーストクラス、特等席で外遊したり、何のための国会議員なんだか。国会内でのまともな議論よりも、国会外での勢力争いで、政党に分かれ、政党の中でも派閥争いし、国会の場では、体裁のいい言葉や準備された資料で討論で、その場では何もまともに決まらない。互いに批判するどころか足の引っ張り合いばかりでしてね。確かに内閣が入れ替わる度に失言大臣が続出ですよ。偉くなったと思った途端に口がすべる、本音が出る。偉いのだから耳をかっぽじってよく聞け、これが正しい、こうあるべきだ、と権力ふりかざしての暴言失言それで辞任。辞任したらそれ以上国会で責任追及する暇があるなら、予算のやりくりにこそ時間を割くべきなのに、瑣末なことで国会の場をまともな国政を討論する場ではなくしている。首相なんてころころ変わる。それだけやりゃもういいだろう、次は俺の番だと言わんばかり。頭を垂れるなんて言葉どころかありゃ狸と狐の馬鹿合戦。そこに狢官僚が加わるからもうひっちゃかめっちゃか偉くなりたい目立ちたい、儲けたい合戦。国民は知ってても手を拱くか無関心に陥り、嘆かわしや。いっそのこと直接民主制にして、代議士無くしゃぁ、歳費も浮くだろうに。案件を一つずつ全部国民投票にして、決まったことを官僚が実行する。ましてや今のあちらの世はネット社会、いやぁ、これを話すと長くなる。ここは独り言にしておこう)

(俺、学級会や児童会や生徒会と同じで、国会でもみんながその場で考えて意見を言うんだって思ってたっす。違うっすか)

(ほう、学級会というものがそういうものならば、こども達の方がよっぽど民主主義を具現化してますね)

(あああっ、そういえば慎之介が言ってたっす。そのぐげんかってのは俺馬鹿だから判らないっすけど、慎之介が県のこども議会ってのに行く前には、言うことを紙に書いてそれを覚えさせられたって。あれみたいなものっすか。だから、こども議会に出ても、皆で何かを議論するってんじゃなくて、形だけで、あんなのは議会じゃないって、慎之介、俺にぶつけてたっす。けど、俺馬鹿だから)

(まぁ、武蔵さん、ご自分のことを馬鹿だからっておっしゃるの、お止めになった方がよろしくてよ。私もね、主人に散々言われて、だんだん自分でも自分が馬鹿だから何を考えても仕方ないなんて思わされてあちらの世で生きて参りましたの。今思うと、もっと自分に自身を持てばよかったって)

(夢お婆さん、だって、今更どうにもできないっしょ。こっちの世界に来ちゃ)

(あら、こちらでも、ご自分を馬鹿だと思うと、お辛いでしょ)

(辛くはないっす。楽っすよ)

(武蔵君、それは逃げですね)

(そうかなぁ。危ないものから逃げるが勝ちってのもあるっしょ)

(なるほど)

(政治は地に堕ちていますからね、政治家は稼ぐから偉いのかもしれませんがね。おっと、これ皮肉ですよ)

(いやはやそれにしても檻の中は狭いですな)

(偉いと言われる職業、立場に立てば権力を手に入れる。しかし、精子の宿命同様、その立場を狙う者は多い。だからその立場を維持しようとする。維持できないことも知っているから、そうなった時の為に財を蓄える。こちらの世には持ってこられないのにね。あちらの世で生きていた証なんでしょうかねぇ。例えば、大店の主人、会社の社長、政治家、官僚、王侯貴族、皆宝石や財産や土地を蓄える。で、先ほどのに戻って、財のある人に群がる人がいて、偉い偉いとおべっかを使う、ごまをする)

(胡麻をすると、偉くなれるのですか)

(カテリーヌさん、ごまをするとは、おべっかをつかうと同じ意味です)

(どうしてかしら。胡麻をするはわかりますが、どうして)

(あっ、俺も判んないっす。どうしてっすか)

(すり鉢にくっついて離れないから、おべっかを使う人はいつも偉い人に偉い偉いって側にくっついて離れないらだそうです)

(流石虎ちゃん)

(へぇ〜。今、ごま、煎ったのもすったのも売ってるっす)

(まぁ、つまらないじゃないですか。ユリね、あのすり鉢の中をすりこぎぐるぐるごりごり廻すのって見ていてすごぉく面白そうで、でもやって見るとうまく廻らなくて)

(あのぉ、わたくし、ごまでもう一つ分からないことがあるのですが、いいかしら)

(カテリーヌさま、普段お静かな方なのに、珍しいですわ。ユリに答えられるかどうか)

(あのぉ、お子達が、集まって歌ってましたでしょう。こう、握った両手をみんなで出して、一人だけ片方の指をその間に突っ込んでいく時の楽しそうな歌、あれにもごまって出てきますでしょ。でも、あの歌、全然分からなくて。ごまみそずいずいって、大豆だけではなくてごまでもお味噌をつくるのでしょうか。あれも、すり鉢なのかしら、すっている音なのかしら)

(♪ずいずいずっころばし、ごまみそずい♪ うわぁ、懐かしいです。あっ、でも、どういう意味なのかしら。あの歌ね、指を突っ込むのを早くしたり遅くしたりできるから、あれで、歌の最後に指を突っ込まれた手をひっこめて、あら、でも、それで何を決めたのかしら。ユリが遊んだの、もう随分前なので、忘れてしまいました。カテリーヌさま、お役に立てなくてごめんなさい。もしかして、武蔵君だったら知ってるかしら)

(えええっ、俺に振ってくるっすか。俺だって随分前に、保育園で遊んだだけで)

(僕、茶壺奉行が関係あると聞いたことがありますよ。でも、さぁ、あれで何をしようとしていたのか、僕も知りません)

(♪せっせせのよいよいよい夏も近づく八十八夜♪っての、あれ、お茶の歌っしょ、あれなら女子が中学でもやってたっすけど)

(マサさまがいらしたら、お判りになったかもしれませんわね。ユリも、今不思議に思ったのですけど、武蔵君の通っていたのって、保育園っていうんですか。幼稚園じゃなくて)

(うっす。保育園。あれっ、でも幼稚園ってのもあったっす。えっ、何が違うんだろう)

(幼稚園は昔からございましたわ。幼稚園に通うのは、お金持ちのお家の子。保育園は、母親も働かなきゃならない貧乏な家の子でしたわ。私の頃も愛の頃も望の頃も。幼稚園の子はお育ちがよくておっとりしていて、でもひよわかしら。保育園の子は良く申せばたくましいけれど、悪く申しますと粗雑というか)

(まぁ、そうなんですか。では、以前わたくしとユリさまがお訪ねいたしました幼稚園のお子達はお育ちがよろしいのかしら。あらっ、それじゃぁ、武蔵君は、あら、ごめんなさい)

(いいっす。俺、育ちいいなんて思ってないっす。爺ちゃんが言うように、電車の乗り方も知らない田舎者っす。それに母ちゃん、父ちゃんと一緒に働いてるし、けど、貧乏じゃないっすよ。お店はあっても金持ちでもないっすけど)




お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。

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