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第四話 セミテリオのこども達 その三

第一話からでも、第四話その一からでも、この第四話その三からでも、どこからでもどうぞ。

「あんなちゃん、お母様がお迎えですよ」

「毎日お世話になってます」

「そら君、かえでちゃん、お母様がお迎えですよ」

「そら君、ほら、お帽子忘れてますよ」

「今日は元気でしたよ。もう大丈夫ですね」

「シスターさようなら」

「さようなら、明日またね」

「ゆうや君、あら今日はお父様がいらしてますよ」

「うん、お父さん、今日お休みの日なの」

「よかったわね。いっぱい遊んでいただけるわね」

「うううん、お父さん、お休みの日はごろごろしてるだけなんだもん」

「あはは、すみません」

「毎日お仕事でお疲れですものね」

「みづきちゃん、みずほちゃん、お母様がいらしてますよ」

「大和君、琴音ちゃん、お母様ですよ」

「ばいば〜い」

「ありがとうございます」

「先生さようなら」

「それじゃまた明日」

「さようなら〜」

「シスター、ばいばい」

(お帰りのお時間なんですね。なんだかほっとしますわ)

(でも、ちょっぴり寂しいような。こんなすてきな場所なんですもの)

「びわの体操服が小さくなったから、商店街に買いに行くの。今日しかあなた達空いていないでしょ。授業終わった頃に校門まで迎えに行くから、後三十分ぐらい遊んでいていいわよ」

「だって、みんな帰っちゃったし、一人で遊ぶのつまんない」

「鉄棒の練習でもすれば。お母さん、逆上がり手伝ってあげようか」

「いやだよ。ここで遊んでいると先生達から丸見えだもん、恥ずかしい」

「恥ずかしがることないじゃない。最初は誰だって何だってできないのが当たり前でしょ」

「いいのっ。じゃあ、本読んで」

「絵本持ってきてないもの。お買い物行くのに荷物になるでしょ」

「じゃぁ、お教室にある分」

「今からお教室に入ったら、お掃除してらっしゃる先生方にご迷惑でしょ」

「することないもん」

「じゃぁ、お母さんと教会に行く」

「僕、明日の次の日に教会行くもん」

「明日の次の日は、明後日って言うのよ。その次の日はしあさって」

「しあさっての次の日は」

「やなあさって、というらしいけど、あんまり使わないわ。で、教会の中ならお母さん日焼けしないし、静かだし座れるし」

「静かにするのももういいもん」

「いいでしょ、神様とお話するの。静かにすると神様とお話できるんでしょ」

「え〜と、明後日お話するし、この前もしたし、それにお母さん信者じゃないじゃない」

「あら、隼人だって信者じゃないでしょ。幼稚園のお友達だって信者じゃない子の方が多いでしょ」

「うん、でも」

「いいじゃない。お母さん、教会好きよ。信者じゃなくったって、教会やお寺や神社好きよ」

「どうして」

「だって、すてきな静けさ、心の豊かさ、ゆとりってのか」

「お母さんの言っていること、わかんない。でも、うん、行けばいいんでしょ。逆上がりの練習よりいいもん」

(年代を感じさせる扉ですね)

(年代、わたくし達女性には辛い言葉かしら。でも、わたくし達は思いで見かけをかえられますものね。わたくし達のみかけを見てくださるこちらの世界の方は少ないのが残念ですけれど。あら、ユリさま、お浴衣、いつものお姿ですわね)

(あら、カテリーヌさまも、いつもの高い襟のお服。気力が続かないと戻ってしまいますわね)

(静かですね。ユリ、教会の中に入ったの初めてです)

(キリスト教は、禁止されなくなっても、まだまだでしたものね)

(ユリ、教会は遠目に見るだけでした。血を飲むとか肉を食べるとか気持ちの悪いことばかり、怪しい、まやかしの怖い所と聞かされてました)

(よく知らないことは怖いものなんですね。私もお寺が怖かったですもの。ユリさまのおっしゃるのは、たぶん、聖体拝領のことだと思います。キリストの血、キリストの肉と言われてますから。でも、葡萄酒ですしお煎餅みたいなものなんですよ)

(今日見られるかしら。ユリ見てみたいです)

(今日はミサあるのかしら。夕方ならあるかもしれませんわ。他の方に乗り移って、ミサまで教会に留まりましょうか)

(他の方...いらっしゃれば。隼人君とお母様と私達の他には、どなたもいらっしゃらないんですもの。窓がきれいですね。こちらも色とりどり。お隣の幼稚園のお机や椅子と同じで、鮮やかですね)

(美しいでしょ。この窓、絵になっているんですよ)

(あら、ほんと、幼稚園のお庭にあったお像と似た絵も)

(ろうそくが灯されています。ろうそくはお寺でも使います)

(そうなんですか。不思議ですね。宗教は異なっていても、似ているところもあるんですね。シスターと尼さんのかぶりものとか。そういえば、セミテリオにいらっしゃる方がよくお持ちになっている、あれに似たものもあるんですよ)

(お数珠です。そういえば、鐘もどちらにもありますね)

(あらっ、この教会には鐘が無いみたいですわ。屋根が低いからかしら。そういえば、セミテリオにおりまして、鐘の音はどこからも聞こえてきませんわね)

(昔は聞こえていましたわ。覚えてらっしゃいません、ほら、サイレンの前に)

(ああ、ありました。火事を知らせる鐘。大地震の時や空襲の時にもよく鳴っていました。いつからなくなったんでしょうね)

(あの正面の十字、カテリーヌさまのお家にもついている十字はなんなんでしょう)

(イエス様が磔になられた十字架です)

(まぁ、磔なんて、恐ろしい。悪い事なさった罰ですか)

(悪い事をしたってことにされて、私たち人間の罪をあがなう為に)

(ユリ、磔なんて悪い夢見そうです。あっ、でも私達、夢みたいな、いえ、人生は夢みたいな、あらっ、わからなくなりました)


 *


その四に続く


お読み頂きありがとうございました。お楽しみ頂けましたなら、幸いです。

8月3日夜までにはその四をアップいたします。再見、安寧

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