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第六話 セミテリオに里帰り その十

(ユリ、気になってるんですけど、女性が警官になれるんですか。あっ、でも、ユリ、なってみたいかも。軍服みたいなの着てみたいわぁ。サーベルぶらさげて、お髯はやして、おいこらっなんて)

(ユリちゃんには似合わないって)

(虎ちゃん、分かんないでしょっ)

(昔はなれなかったっすか)

(昔...ユリの頃は、お店のお手伝いするとか、お茶やお華やお琴や和裁の先生とか、小学校や女学校の先生とか、あとは、女給さんとか芸者さんとか女郎さんとか、やっぱり、女の身でできる仕事は少なかったです。いいなぁ、なんでもなれるなんて)

(武蔵さん、み〜んな平等って、華族も士族もなくなったってことでしょうか。あら、皇室は)

(まさか、天子様も平等かのっ)

(元々四民平等には皇室は入ってませんでしたね)

(あっ、天皇のことか。天皇はね、今もお正月と誕生日にはテレビに出るっす)

(天皇と呼び捨てですかのっ。嘆かわしい、陛下ですのっ)

(なんで)

(天皇陛下様、せめて天皇様、いえ、天子様とおっしゃるものです。でも良うございました。皇室も無くなられたのかと思いました)

(あっ、それは、戦後占領軍が苦労したそうです。皇室も平等にしたかったそうですが、それだと日本国民がまとまらないということで、残したそうですよ。でも、皇太子は平民と結婚しました、いえ、平民出身の方と)

(どうして天皇に様や陛下が付くっすか)

(皇室は四民平等とは別ということですのっ)

(どうして皇室は別なんっすか。皇居ってすっごく広いっす。あんな広い所に住んでいるからっすか。金持ちだからっすか)

(いや、そりゃ、昔から代々続いておられて、日本の国の始まりからで)

(だって、日本の国の始まりだからって一人だったわけじゃないっしょ、一人だったらこどももできないし、続かないし)

(ですから、神武天皇が日本の国をおつくりになられて、それから二千六百年以上日本の国を治めてこられた偉いご家系ですから)

(うっそぉ。今まだ西暦二千年とちょっとだってのに、二千六百年も前だと縄文時代っしょ)

(ですから、とてもとても昔から)

(縄文時代に天皇がいたっすか)

(という風に私達は教わったのでしてのっ)

(ふ〜ん、変なの。まっいいか。大人の、それに昔の人の考えって分かるわけないっす。でもお爺ちゃん、皇太子が結婚したのって、俺の生まれる前っす)

(武蔵、そりゃお前の生まれる前ではあるが、お爺ちゃんが言う皇太子は平成の天皇のことだ)

(まぁ、義男さままで、呼び捨てですか)

(そうですねぇ、普通は陛下って付けないですねぇ、僕のちょっと上の方は、国民学校で育ってましたから、陛下を付けるのかもしれませんが)

(あっ、そうか。今の皇太子とは違うんだ)

(皇室は二代続けて平民と結婚なさったんですか)

(いえ、ですから、今は平民という言葉も無いですし)

(そんなに騒ぐことなの。誰と結婚したっていいじゃん)

(そうはまいりませぬ。どういう所で育ったかはとても大きな事なんですよ)

(そうかなぁ。み〜んな同じ人間なんだから、誰と結婚したっていいっす)

(わたくし、仏蘭西育ちですが、英吉利人と結ばれました)

(外人さんどうしですもの)

(あら、ゆりさままでそんなことおっしゃいますの。仏蘭西と英吉利とでは言葉も風習も宗教も異なりますのよ)

(外国人だと、何かいけないっすか)

(まさか、武蔵君、その武蔵君の言うみ〜んな平等には外人も入るのかのっ)

(もち。あっ、もちろん、もちろんっす。それと、ここの人、よく外人って言ってるっしょ。けど、外人って言っちゃいけないって、英語の教科書に書いてあったっす。外人って言われると外国人が嫌がるって)

(外人と言われて、どうして外人は嫌がるのかしら)

(そうですわねぇ。でも、どうして外人がいけなくて外国人だといいのかしら)

(俺、忘れたっす。なんでだっけ)

(外人って外の人でしょ。どうしていけないのか、ユリ、分かりません)

(外国は国の外の国、国外は国の外。だとすると、外人は人の外の人ってことになりますな、というのは如何ですかな)

(ロバート殿、それは非道い。人ではないかの如くですのっ)

(然し乍ら、我輩もその外人、外国人なのでありまして)

(あっ、ユリ、それなら分かります。だったら怒りたくなります。でも、そう考える人って、ロバートさまみたいに日本語に堪能な方ですね。外人さんなのに、あっいけない、外国人さんなのにユリより日本語分かる方って、ユリ、尊敬しちゃいます)

(ともかく、外国人もみ〜んな平等だから、誰と結婚したっていいっす。クラスにもいたっすよ。父ちゃんが日本人で母ちゃんがフィリピン人とか、母ちゃんが日本人で父ちゃんがブラジル人とか)

(ハーフですわね。可愛いお子さんが生まれますでしょ。両方の良い所取りで)

(ハーフってのも言っちゃいけないっす)

(まぁ、どうしてでしょう)

(ハーフって、ロバートおじさん、半分って意味っしょ)

(然様)

(今はダブルって言うっす)

(倍ですな)

(倍って、半分の四倍になりますね)

(うん、半分日本人、半分外国人というよりも、日本人と外国人の両方って考えるって)

(なぁるほど、面白い)

(ユリ思うんですけど、両方の良い所取りとは限りませんでしょ。短気で親切な人と気長で意地悪な人とが結婚したら、短気で意地悪な人が生まれるかもしれないでしょ)

(へぇ〜、ユリちゃんって否定的なんだ)

(虎ちゃん、どうして)

(だって、気長で親切な人が生まれるって考えるもの)

(うっそぉ。虎ちゃん短気で意地悪なのにっ)

(うっ、僕としては気長で親切なつもりなのに)

(ははは、どう組み合わさって生まれるかは、分からぬものですのっ。なぁ、マサ、我がこども達、色々でしたのっ。肌の色も背の高さも、鼻や口、眉毛の形など、私にもマサにも似ていない者もおりましたのっ。性格もそれぞれ。兄弟なのによくもこれほど違うもんだと思ってましたのっ、マサ。まぁ、目だけは、私もマサもこの通りぎょろりとした目ですからのっ、こども達に共通してましたのっ、ほらここにいる絵都もですのっ)

(ユリさんと虎さんのお話、面白いですな。たしか我輩の国の逸話にございましたな。貴女の美貌と私の頭脳を持ったこどもが欲しいと求婚した男性に、貴男のお顔と私の頭脳を持ったこどもが生まれるかもしれませんわと言って断ったとか)

(なるほど、それは面白い)

(うわぁ、たいへんです)

(だっしょ、だからぁ、誰と結婚したっていいっしょ)

(でも、文化が違うと大変ですわ)

(お母上、たしかに。戦後、私、生活が大変でしたの。家は焼け、戦争に負けて満鉄が無くなり、満鉄の株も紙屑、その上、貯金は封鎖されて、そんな私の生活を見て、朝子はお金はある商家育ちに嫁ぎましたでしょ。商家に嫁いだのではなく、商家育ちの官吏と結婚したのですが、やはりお育ちがね。士と商では文化が違うので、色々と大変だったようですわ。婿が異動で関西に赴任してからはあちらの親元と離れられて気苦労が減ったようですが、それまでは盆暮れのお付き合いでも、あちらさまはやたらめったら派手で、これ見よがしとすら思える湯水の様な金遣い。質素倹約を旨とする士族とは異なりましてね)

(まぁ、絵都お姉様、先ほども少しお話なさってましたが、戦後もそんなにご苦労なさったのですか)


お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

毎週水曜日に更新しております。

次回は5月18日の予定です。

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