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第十話 セミテリオの新入居者 その四十七


(あ〜、喩えが悪かったかなぁ。そういえば、越後屋ってたしか、現金払いで成長したんだっけ。あっ、マサさん、越後屋というのは、あくまでも喩えですから。越後屋は一つじゃないんですよ。クレカの会社の数はかなりあると思いますよ。私が勤めていた銀行も、八十年、千九百八十年頃にキャッシュカードにクレジット機能を付加しましたしね、今では大きな商店や航空会社なども参入していますし)

(cash card、現金札なるものは、信用札とは別物でござるか)

(はぁ〜。え〜と、キャッシュカードはATMで現金を引き出したり預け入れしたり記帳する時に使うカードで)

(ATMとは如何なるものでござるか。我が祖国の言葉の様であるが)

(Automatic え〜と、MはMachineですが、間のTは Tはえ〜と、何でしたっけ。窓口の担当者のこと)

(Tellerですな)

(そうそう、ロバートさん、流石。つまり、銀行の窓口のすることを自動的にする機械なんです。で、その機械を使うのにはキャッシュカードというものがいる訳です)

(だんなさ〜、ますます話がややこしくなっておりますわ)

(マサ、私には珍文漢文ですのっ)

(僕にもそうです。そういう自動機械ができて、それで富実さんはお仕事をなくした訳ですか)

(いや、それは関係ない、いや、たぶん関係ないと思いますが。あ〜、でも、窓口業務が機械化されたからと言って、女子行員が減った訳でもない、だろうし、いや、業務の量が増えていたから、もしあのままATMが無かったなら、もっと人手が必要だったわけで、とも言えなくもないが、いや、やはり、言える訳で)

(トミーさんのぶつぶつが始まりましたね)

(いやぁ、ご隠居さん、考えさせられております。そうなんですよね。私が就職した頃には、ATMもキャッシュカードも無かったですし、クレジットカードなんてまだ持てなかったと思い出しましてね。あっ、ご隠居さん、クレジットカードはお持ちにならなかったそうですが、まさかキャッシュカードもお作りになりませんでしたか)

(いやぁ、クレジットカードを持たないということは、キャッシュカードを持たないとたいへんですからね。遠出の時に全部現金で持っていくのは危ないですし、だからと言って、毎回通帳と印鑑を持って行くのは面倒ですしね。それに、よく言われるでしょう。通帳と印鑑、キャッシュカードを同じ所に入れるな、置くなって。そうそう、暗証番号も、書き記してはいけない、とかね)

(だんなさ〜、札の種類がいくつもあって、それに自動機械とか、恐ろしい世の中になっている様ですわねぇ)

(あはは、マサさん、慣れればなんてことないですよ。窓口で可愛い女の子と話しはできませんが、機械をぽんぽんぽんと押せば現金が出て来るわけですからね)

(おじいちゃんおばあちゃん、心配しなくてもいいっす。俺、あっ、僕もまだキャッシュカードもクレジットカードも持ってなかったっす)

(あのぉ、そのカードや機械は、日本だけで使われているのでしょうか)

(いえいえ、カテリーヌさん、たぶん、世界中にATMはあると思いますよ)

(そのお金を出したり預かったりする機械は、どのくらいの大きさなのでしょうか。もしかして、銀行の大きさぐらいあるのでしょうか)

(ふっ。カテリーヌおばちゃん、え〜とね、おじいちゃん、あっ、僕のおじいちゃんじゃなくて、彦衛門おじいちゃんのお墓の石より背が低くて、幅は二倍くらいっす)

(まぁ、そんなに小さい機械なのですか)

(えっ、ユリ、人が中に入るんだと思ってました)

(ふふっ。ユリお姉ちゃん、人が中に入ったら機械じゃないっす)

(だって武蔵君、お金を預かったり渡してくれたりするんでしょう)

(うっす)

(人がいなくて、機械だけなのかしら)

(ユリちゃん、切符の販売機見たことないかい。僕が小さい頃にはあったよ。戦争始まって無くなったけれど。あっ、でも、あの切符のは、すぐ後ろに駅員さんがいたっけ)

(富実さん、つまり、彦衛門さんとマサさんのお墓より少し幅があるくらいで、その中には人はいなくて、でも、お金を預かったり出してくれたりするってことは、その機械の中にはお金がたくさん入っているってことでしょう)

(そうですね)

(で、誰も盗まないんですか)

(ATMの中の現金を盗むってことですか。そう簡単には壊れない様になっていますよ)

(でも、そのくらいの大きさでしたら、二人ぐらいいたら、機械ごと盗めそうです)

(そう簡単には盗めない様になっていますよ。それに、機械を破壊しようとしたら、警報が鳴り響きますし、そもそも防犯カメラが監視していますし)

(防犯カメラとは防犯写真機ということですかのっ。現金を出し入れする機械には写真機がついておって、現金を出し入れするには何とか札が必要で、何とか札を使うには暗誦番号が必要で、おうっおうっ、マサ、私は今のあちらの世では暮らせませぬのっ)

(ですわねぇ。先ほどの、電気を貯める物も、何やら、扱いがややこしいようですしねぇ)

(たしかに、昔より複雑になりました)

(複雑怪奇、ですよ)

(まぁまぁ虎さん。複雑になった分だけ、便利にもなったんですよ)

(もしかして、ユリが見た、扉が丸くて、中でお洗濯物がくるくる回っていたあの機械も、ややこしいのかしら)

(洗濯機ですか。ハナが最初感動していたのを思い出します。まだ木製の樽のでね、中で洗濯物が回転するだけのものでしたが。今のは、すごいでしょう。瑞円、瑞空、瑞海の三つ子の玄孫達を先日見に行った時にね、紙おむつを使っているのに洗濯物がどんどん貯まって、洗濯機が動きっぱなしなんですよ。でね、私の孫の瑞穂、つまり玄孫達の祖母になるんですが、新しい洗濯機を使おうとして戸惑っていました。どうもややこしいらしいですよ)


お読み頂きありがとうございました。 霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、再来週水曜日に再会いたしませう。


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