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セミテリオの仲間達 番外編保−3 サイン帳2冊目

方子さま、

愉快な貴女もとうとう私達の前からいらして了ふのね

貴女とは特別な思ひ出ってこともないけど、それでも一年生の時はよく御一緒に青バスで代田橋迄参ったわね。

試驗場の前の黄ばんだいてふの木の下でなかなか来ないバスを何時も二人でブツブツいひながら待ってたこともあったわね。

貴女は何時も無邪気でほがらかだつたわね。きつと疎開なさると淋しくなってよ。

疲れて工場の帰りは井頭線の電車の中で私の肩に小さな頭をのせて、コックリコックリしてらしたこともきつと忘れないわ。

そして可愛らしいぽけっとしたおさるさん、

このお名前は永久に忘れないわ。

そして女学生生活のカンヴァスに面白く生きてとかきつけて大切にしておくわ。

何時迄もお元気でね。

あちらへいらしても工場へいらつしやるんでせう。しつかりね。私もがんばるわ。

面白い方子さん、さやうなら!

学園には私が居ることも時々は思ひ出してね。

昭和二十年二月三日

工場にて、

水田八重子



**********



方子様

 何時も身軽でピヨンピヨンと飛び廻つて居た愉快な可愛いマーコちゃん! とうとう貴女も行つてお了ひますのね。貴女とは余り親しくはなかつたけれど貴女方四人が公教要理を習ひ始めた時は随分遊んでおりましたわね。そして公教要理をおサボりしないでさういふ時には色々な繪を見つける等と云ひながら何時も何時も消えて了つて! けれどけれど、貴女方はマドレ久原に熱心と云はれた程熱心に習つてらしたのね。

 今後もお変はりなく可愛い良い子におなりになつてね。

 又、保子お姉様が云つてらした鈴子ちやんの従妹であらうとは思ひもよらなかつたわ。 知つてらつしやるから、お話しも出来ると云ふわけね。ホホホ。

 では、私の事を時には思ひ出してね。

 卒業後もお暮らし等お便りお待ち申し上げます。

 作業中なので乱筆おゆるし下さいませ。

 かしこ

昭和二十年二月六日

牛込区市ヶ谷

斉藤さちよ

工場にて


**********


方子さま

さやうなら

さやうなら

なんだかあなたのことが頭にいろいろと

いろいろな事が巡って

まわつてます。


運動家のあなた

どんな事でも平等で

割り切るあなた

そしてその上無邪気で

ほんと可愛いわね。


どうか何時迄もいつまでもいつまでも

無邪気で可愛い方でいらして頂戴ね。

御機嫌やう。


るる子


**********


方子さま

こんな大きなノートに畫ける程沢山思ひ出があるといいんだけど

お話しした事は余りないし、

さて何を畫いていいかしら。


運動神経が素晴らしく発達していらした事

そしてどんな運動も楽々とお出来になった貴女は

私にとつておうらやましい存在でした。


どうか何時までもお元気で御幸福な毎日をお過し下さい。

ごきげんやう

鈴子

三月廿九日


**********


方子様

こんなに大きなノートに畫のは少々無理です。だつてちつともお話ししませんでしたし、なんの想ひ出もない私ですもの。

ただノートだと、字が曲がらないのが幸せ。

私達もたうたう卒業生となつて了ひましたわネ。

もう四年生五年生といつて先生に叱られたり褒められたり(ホメラレテは先ずなかつたかしら?)したのが遠い遠い昔の様になつてしまひました。

高倉さんと云ふと運動の上手な貴女が思ひ出されます。運動会の時はいつも飛び箱をなさつたわネ。とてもお上手だつた事、今でも目に浮かびます。

もつともやせてるので運動が自由に出来るんでせうけど.....私みたいに太つていてはなんにも出来ないのがあたりまえ。私が飛び箱したら飛び箱の方がつぶれちやふ、フフフフフ。

バカらしい事ばかりかいてしまうて、ごめんなさい。つい。

高倉さん、これからどうなさるかは存じませんけど、どこにいらしても、この学園の卒業生である事をお忘れにならず、生産にお励みください。

いつまでも御元氣でそして御幸福に

禮子

20.3.20


**********


マコちやん

貴女に畫いて下さいとたのまれても急で何を書いてよいか解らないわ。だつて余りのも思ひ出があるんですもの。

貴女が先生と一緒に入つていらした時、随分いたづらな人だわと思つたの。そしたらそしたらウフフフフ。

畫かなくとも想像出来るでせう。御免なさいね。本当の事を畫いてしまつて!!

でも元氣なマコチャンね。雪の日思ひ出すわ。ター坊と二人で思ひ切りふざけたわね。あの頃は貴女と私は離れがたい友だちたつたわ。何をするのも二人だつたわね。

さぼつてオデン屋へ行つた時思ひ出すでせう。ある人と会つてしまつてトコロテンを鼻の方まで入れてしまつて。でもこの頃はだめね。何だかかけ離れて来てしまつたわ。前の様ではないわね。課も違つてどうしても離れてしまふわ。仕方がないわね。

会社がこんなになつてしまつても貴女の事は忘れないわ。とても印象が深いのよ。

何だか胸が一杯で畫けないわ。ではこれで筆を止めます。

お元気で、「ナベ」を忘れなく。


八月二十五日




ピンクと紫の和紙でカバーをつけてある、 黒い背、グレーの表紙、背表紙、普通のB6大ノート公定賣価品、甲一7をサイン帳のかわりにしたものに書かれていました。



お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。


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