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第八話 セミテリオに警察官 その十四 最終回


(行き先はわからねど、人には乗れる。我輩など先日マック君に乗りました)

(乗っている時に、その人や犬や鳥や虫を自分の行きたい方に動かせたらいいのに。テレキネシスって無理っすか)

(telekinesisですかな。あれは、無理でありましょうな)

(そうでしょうか。僕のこちらでの知り合いに、嫌な奴が墓参りに来たから線香で火傷させたと聞いたことがありますよ)

(悪い方ですね。私は良い方を知っていますよ。まだあちらの世におりました時に、ご仏壇の写真が倒れたから直しに行ったら、地震で、家がつぶれたけれど二階が仏壇で支えられて隙間で助かったというのを)

(それって、お爺ちゃん、写真が敏感だったってっか、倒れやすかっただけってことっしょ)

(武蔵、そう思ってしまうとテレキネシスはないことになる。それでもいいか)

(う〜ん、ある方がいいっすけど)

(お線香やお写真を動かすってとってもたいへんなように思いますわ)

(それだけでこちらの世からどこかの世に行ってしまうかもしれませんな。もしかしたら彦衛門殿ご一家もそうなのかもしれませんな)

(えっ、あの御家族、テレキネシスをお使いになったのでしょうか。でも、そういうことはなさらない方々のようにお見受けいたしますわ)

(で、虎之介殿、続きをお願いします)

(あ〜。でも、もうほとんど終わったも同然なんですよ)

(まぁ、中途半端)

(でしょう。僕も、イラン人がどうなるのか、バングラデシュや中国やブラジルの被告人達の証言で、黙秘しているイラン人がどうなったか、とっても気になってますよ。もう判決は出た頃だろうと勝手に思っていますが。ああ、あっ、しまった。さっきのここに来ていた警察官達、きっと桜山署から来たんだろうなぁ。あああ〜、でも行き倒れの場所まではちょっと遠かったし、でも、あの時にあの警察官達に乗っていれば、また検察庁に行けたかもしれなかったのに。そりゃぁ、五番氏から通訳に乗り換えたからかもしれないが、外人、もとい、外国人の犯罪者ばかりだったが、あのままあの女検事さんに乗っていられれば、あそこで僕が吹き出すのを我慢していたなら、もっと日本人の犯罪者にも会えたろうに。返す返すも残念至極無念至極)

(お兄ちゃん、なんだかロバートさんみたいっす。古くさい言葉遣いっすよ)

(武蔵、古くさいは失礼だ)

(ごめんなさい、けど)

(その我輩なのですが、確かに古いですからな。臭いの方はいただけませぬが)

(虎之介さん、もっと日本人の犯罪者に会えたらよかったのですか)

(はい、検事か弁護士になりたかった身といたしましては、もっと、色々な種類の犯罪もですが、それにどう対処するのか、僕の頃の刑法との差異など、興味津々ですよ)

(悪い人達に会いたいって、ちょっと趣味悪いっす。俺なんか、悪い人って、絶対に会いたくないっす。そりゃ、もう会わないだろうけど)

(いやぁ、こちらの世にも、悪人はいるでしょうね。どれだけこちらの世にとどまれるかどうかは別として。まぁ、あちらの世で死ねば、こちらの世を通るのが常なのではないでしょうか)

(わからないことだらけですな、あちらの世でもこちらの世でも。で、虎之介殿、まだやはりもう少しはその話し、続くのであろう)

(えっ、はい。その若者が言うには、本当、つくづく、犯罪は割に合わないと感じているそうで、で、なぜその日だったとわかるかと言えば、警察に捕まる元になった時と同じで、運が無さ過ぎる日だったからで、ディスコには行けず、呼び鈴には手をつくわ、タイヤで頭を打つわ、そんな日のことを忘れるわけがない。で、夜勤明けだった金曜日の夜、つまり土曜日になってすぐの頃で、それが、警察に逃げ込んだ日の二週間前だから、クリスマスの三週間前で、だからクリスマスも警察で過ごすことになったし、ブラジルにいる家族には電話はできないし、手紙書いても石鹸禁止の間は出せなかったし地球の反対側まで時間かかるしということでした。ただね、この話を女通訳さんが通訳する前に吹き出したくらいで、通訳している間も笑いをこらえていたんですよね。で、女検事さんが調書作っている時って、文章を口にするんですが、女検事さんもまた笑ってしまってね、僕は、そもそも警察に逃げ込んだ時からのを全部思い出して、どうにも耐えられなくてね、笑い過ぎて気が軽くなって、気付いたらもう女検事さんから離れていたどころか検察庁の建物からも出かかっていたんですよ。で、ふと周りを見回したら、建物も地面も樹木もない。いくら僕が気の存在だからといえ、床も周囲の景色も見えないとぞっとします。暗闇。一瞬、また別の世界に行ってしまったのかと。上下左右がわからない。バリバリッ、響く音、懐かしい音、雷だ。で次の稲妻、直後の雷鳴、ということはあちらが上か。で、その光に影のように左には皇居、右には日比谷の森。上から見ているのだろうか、不敬な。上、上ってことは、僕はどこにいるんだ。うわっ、あれ、何階ぐらいだったのでしょう。僕には三十、四十階ぐらいに感じたんですが、きっとその半分ぐらいなのでしょうけれど、とっても高く感じて、鳥になったような。グライダーには乗せて貰ったことありますよ。でも、そんな高さじゃなかったんです。グライダーには床があっても、僕にはその時、床もなくて。いくら足で接するという生命体ではなくともね。今度は気が軽くなるどころか気絶してしまいました。で、気付いたらこちらに戻っていたんですよ)

(長いお話、ありがとうございました)

(いえいえ、カテリーヌさん、怖い話ではなかったでしょう)

(えっ、最後が怖かったです。虎之介さまが鳥の高さで怖かったのでしょう。わたくし、やっぱり飛行機に乗れそうになくて。英吉利の墓地に眠る夫には会えないのですね)

(俺、ちょっとつまんなかったっす。やっぱ、お兄ちゃん真面目っす。それに、刑事ドラマみたいなのなかったし)

(武蔵君、刑事ドラマとはどういうものなのかい)

(かっこいい刑事が出て来て、可愛い婦警さんやかっこいい女の刑事さんが出て来て、で、覆面パトで追いかけたり、ピストル撃ったり、悪い奴らと知恵比べしたりっての。きれいな警察署とか)

(なるほど。そういうのは、たしかに全くなかったですね。あっ、女の刑事さんはいたでしょう。それに、検察の建物はとてもきれいでしたよ。警察の方はともかくも。そういえば、女刑事さんとか女検事さんとか、ユリちゃんがいたら、またなってみたい、って言ったんでしょうね)

(もしかして、お兄ちゃん、ユリおばさんが好きっすか)

(ばかなことを言っちゃいけない)

(武蔵、大人をからかうものではない)

(えっ、僕、からかわれたんですか)

(けど、お爺ちゃん、お兄ちゃんはまだ大人じゃないっす)

(あっ、いや、たしかに。でも、武蔵君よりは三歳は年上、七十年も先に生まれてる)

(まぁ、まぁ。まぁ、ドラマのようなのが現実にあったら、恐ろしいですからね。街中で銃撃戦とか連続殺人犯が頻繁にあったらと思うと、それこそぞっとしますね)

(みんな地味に働いているものなのですな)

(そしてみんなセミテリオに来る)

(だからこちらの人口は増えるばかり)

(いやぁ、悪意のあるものはすぐに消えますからな)

(退屈ですわ)

(いつまでも、ですな)

(僕の話で少しは皆様の気が紛れたのでしたらよいのですが)

(彦衛門さん、マサさま、絵都さま、どちらにいらっしゃったのかしら。折角の警察のお話でしたのに。ユリさま、戻ってらっしゃいまし)

(あの、虎之介さん)

(はい、武蔵君のお祖父さん、なんでしょう)

(まだ、答えが)

(答えですか)

(ほら、お話の途中で、血圧と放火の話しをなさってらして)

(ああ、あれですか。早口で言われたので、警察を血圧、法を犯すを放火すると聞いて訳したそうです。そりゃぁ話しが噛み合なくなりますよね)

(やはり、日本語は難しいのですわ)

(俺もそう思うっす)

(いやぁ、それゆえに我輩には楽しめるのですな)

(次はロバートさまの番ですわ)

(いやいや、いずれその内)

(彦衛門お爺ちゃん、どこ行ったっすか)

(いずれその内、戻ってらっしゃる)

(みなさまでお呼びしたら戻ってらっしゃるかしら)

(まさか)

(でも、ねっ。絵都さま、戻ってらっしゃいまし)

(マサ殿、戻って参られい)

(お爺ちゃん戻ってきてください。あっ、僕がお爺ちゃんと言うと、叱られますか)

(じゃぁ、俺が言うっす。俺なら叱られないから。彦衛門お爺ちゃん戻って来て。けど、俺、呼んだって戻ってくるとは思ってないっす)

(あっ、ユリさんも、そろそろ戻ってらっしゃいませ。ユリさん、聞こえますか。わたくし、寂しゅうございます。お戻りになってくださいませ)

(ご隠居さんや夢おばあちゃんはいいっすか)

(あのお二人は、いつも出歩いてらっしゃるから、お呼びするのも申し訳なくて)

(然様。ハナさんはあまりお話なさらないし、偏屈爺さんはぶつぶつ小言大言ですしね)

(退屈ですわねぇ)

「クワ〜コルネイユ〜クロウ〜クワ〜」


第八話 終


お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。


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