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第八話 セミテリオに警察官 その六

(そうそう、武蔵さん、加奈陀は英吉利の領土でもず仏蘭西語が話されるように、瑞西でも、伊太利亜語と独逸語が使われてますのよ)

(ひっ、それって、もしかして小学生でも外国語三つっすか。あっ、全部外国語じゃなくて自分の言葉っすね。けど、それって三つも言葉覚えるっすか。うへっ、こんがらがっちゃう。俺、スイスに生まれてなくてよかった)

(武蔵、そこはお爺ちゃんも同じ意見だ。言葉を三つも使うなど、たまったものじゃありませんね)

(ほんとに、大変ですのよ。瑞西生まれではなくとも、わたくし、英吉利語は、夫に出会う前からほんの少しは学んだことございましたが、日本に参ります前には、もう、字が読めませんでしょう。仏蘭西語と英語でしたら、文字は同じですもの。わたくし、日本の方も瑞西の方同様にたいへんだと思っておりますのよ。ひらがなにカタカナに漢字ですもの。武蔵さん、お小さい頃からどれもお読みになれお書きになられましたでしょう)

(いやいや、こいつのはそれほど)

(あっ、爺ちゃん、俺、国語だけは、本読んでたからそんなに成績悪くないっす、あっ、悪くなかったっす。七だったっすよ)

(七とは、五段階ではなかったのか。たしか小学校は五段階で)

(うっす。え〜と、二年ぐらいまでは三段階で、あと五段階で)

(ほう、五段階ですか。甲乙丙丁ではなく、七というのは)

(お兄ちゃん、十段階だから七ってのは、真ん中よりいいっす)

(あ〜、なるほど)

(退屈ですな)

(えっ、俺なんか、なんか学校に来てるみたいっす。言葉のこととか国のこととか。あっ、学校も退屈だったっすけど)

(どなたか、なにかおもしろいお話、お願いいたします)

(おもしろいかどうか、僕が以前警察に参った時のこと、まだお話ししておりませんね)

(怖いお話ですか)

(いや、別に怖いということはないですよ)

(俺、聞きたいっす。

(しかし、彦衛門殿がいらっしゃる時の方が喜ばれるのでは)

(たしかに。では、ロバートさん、ロバートさんこそ、こちらの世にいらっしゃった時の事をお聞かせください)

(いやぁ、あれは、怖い話ですからな。カテリーヌさんにはお気の毒)

(こちらの世にいらっしゃる時の事と言えば、武蔵君、何か隠してるだろう)

(あれは、まだだめっす。俺、まだめげてるっす)

(武蔵さんのお爺さまは何か)

(私の人生、時折語っておりますしね。これと言って特に)

(お爺ちゃんの話しなら、いいっす。俺、知ってるし)

(いや、武蔵が知らない話もあるかもしれないが、しかしね、これと言って特におもしろい話もないですしね。警察の話というのは面白そうですね。はぐれ刑事シリーズとか刑事コロンボシリーズとか太陽に吠えろというのもありましたね)

(古畑任三郎とか踊る大捜査線なら見た事あるっす)

(まぁ、それ、何でしょう)

(映画やテレビっす)

(まぁ、そういう刑事さんたちのお話なんですか。ご本ではなくて)

(実話ではないですよ、たぶん)

(俺、知りたかったっす。はくとカツ丼喰わせてくれるとか、嘘つくとスタンドで顔照らされるとか、本当かなって。で、ネギ矩に聞いたっすよ。けど教えてくんなかった)

(まぁ、武蔵さんのお友達に警察に入った方いらしたのですか)

(ってゆうか、補導ってのか、ほら、前話ししたっしょ。俺がこっちに来た時も俺のこといじめてたんじゃないかって調べられたってのが。あのネギ矩っすよ)

(あら、たしかに一度聞かせていただいたような。でも、そのネギ矩って、日本語に聞こえなくて。ネギの海苔巻きかしら)

(違うっす。根岸の矩雄で短くしてネギ矩)

(あっ、はい)

(で、お兄ちゃん、カツ丼とかスタンドってあったっすか)

(カツ丼は僕は見ていませんよ。それと、そのスタンドというのは、何でしょう)

(電気の、卓上灯のことですよ)

(ああ、しかし、電気は天井にしかなかったですね、たしか)

(じゃぁ、ネギ矩は教えてくんなかったんじゃなくて、無かっただけっすか。なんだ。あっそっか。無かったって言うと本当じゃなく聞こえるから、何も言えなかったのかなぁ。かっこ悪いし、へへへ)

(では、警察の話しをしましょうか。大丈夫ですよ。怖くはないと思います)

(彦衛門さんがもし戻ってらっしゃったらがっかりなさるでしょうね)

(戻って来られないかもしれませんよ)

(そんな、お寂しいですわ)

(まぁ、始めましょうか)

(でも、彦衛門さんが)

(その時はその時。虎之介殿が二度語ればよいのですよ)

(えっ。二度、ですか)

(退屈なセミテリオの日々、何度同じ話しを語ろうと構いませぬ)

(はぁ、まぁ、じゃぁ、まずは初回ということで。しかし、どこから話し始めましょうか)

(あの、亀歩きため息ばかり青年の所に、警察の方がいらしたのでしたわね。途中まではわたくしおりましたもの)

(カテリーヌさんだけではないですな。虎之介殿を除いて、あの時、残念な思いをいたしましたのは、彦衛門殿にマサ殿、ユリさんに我輩もでしたな。おっと、つまり、今ここにいるもので、あの亀歩きため息ばかり青年の時にもおりましたのは、我輩とカテリーヌさんのみですな)

<著者音天より読者のみなさまへ、第二話をお読みください>

(うっす。それ、俺、知らないっす。爺ちゃんも)

(わたくしも、あの時、最後までおりませんでした)

(我輩もですな。あの悲鳴で)

(カテリーヌおばさん、ロバートおじさん、あの時あの場にいらしたのは警察官が三名、内女性が一人、それと役所の女性でしたが、覚えてらっしゃいますか。警察署をみてみたいと思った僕は、どうも偉そうな男性よりも、女性の方が良いかと、あの女性に乗ったわけです。まぁ、みなさんがこちらにお戻りになってしまったゴキブリの家から一番離れていましたしね)

(あぁ、あのゴキブリの家)

(それって、ゴキブリがたくさんいたっすか)

(いや、ああ、いたといえばいたのだが、その、つまり、その家にたくさんいたという訳ではなく、いや、やはりたくさんいたからあのごきぶりの家にたくさん入っていたと申すべきか)

(ロバートおじさん、俺、全然理解んないっす)

(いやつまり、ごきぶりで混雑していたのは、このくらいの、紙でできている、おもちゃの家のような形のもので)

(あっ、ゴキブリホイホイのことっすか)

(なるほど。たしかに、ゴキブリホイホイの中にゴキブリがたくさんいたということは、その家、つまり、人間の住んでいる家にもゴキブリがたくさんいた、そういうことですね)

(然様)

(僕はあの女性に乗って、車にも乗ったわけです。あの青年とはそこで別れました。あっ、役所の女性はその場に残ってあの青年と話し込んでいました)

(そういえば、そんな事をおっしゃってましたな。生活の相談をしなさい、とか。我輩、思い出して参りました)

(あの青年、弟さんも妹さんもいらっしゃるのに、ご両親が捕まっていて、これからどう生活するのでしょう。今頃とてもたいへんでしょうね。御勉学はお続けになられてらっしゃるのでしょうか。弟さんや妹さんももうお勉強を続けられなくなっていらっしゃるのでしょうか。あそこのお家、お家賃もかかるでしょうし。お気の毒ですわ)

(うへっ、なんかすごい話っす)

(こどもたちだけですか。まぁ、今は生活保護もありますし、奨学金の制度もありますし)

(奨学金って、とても成績が優秀な方しか戴けないものでございましょう)

(いや、たぶん、そんなこともないとは思いますよ。私も詳しくはないのですが、私が大学の頃には、大学生でも奨学生などと冗談言っている連中がかなりおりました。皆、成績はともかく真面目でね。奨学金を返すためにと早々に就職先を決めてましたね。久しぶりに会った友人が、奨学金を全額返せたよ、などと嬉しそうに言ってましたしね)

(けど、爺ちゃん、奨学金って勉強の為だけに使うっしょ。ってことは、喰ったり住むのにも金かかるし。服だって要るし)

(まぁ、バイトすればいいわけで)

(バイト...俺、したかった)


お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。



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