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第八話 セミテリオに警察官 その五


(ああ、最初の二人も自転車に乗って行ってしまいましたね。お爺ちゃん、もとい彦衛門さんは機会を逃しましたね)

(それにしても、絵都さまとマサさまと彦衛門さまは、どちらにいらっしゃたのかしら。心配ですわ)

(心配しても始まりませんよ)

(ですわねぇ)

(以前は口をきかないのにも慣れておりましたが、最近はみなさまとのおしゃべりが楽しみでしたもの。セミテリオでの退屈な日々ですのに、ユリさまもいらっしゃらないですし、せっかくお招き頂いたのに途中でこちらに戻ってしまったこと、夢さまにも謝りそびれておりますし)

(僕はこの静けさが好きですね。夢さまには申し訳ないが、本当にあちらは騒々しかったですからね)

(いやはや何しろ鼠にはおどろかされましたな)

(ロバートおじさん、あれ、ねずみじゃないっす。ハムスターっす。どうしてカテリーヌおばさんもロバートおじさんもねずみっていうかハムスターが苦手っすか)

(苦手というよりは怖いのですわ)

(どうして怖いっすか)

(どうしてとおっしゃられても、怖いものは怖いんですもの)

(怖いものと教わった、いや、言葉で教わったのではなく、周りの人間が怖がっていましたからね。幼い頃から、母も乳母も悲鳴をあげておりましたからな)

(わたくしも。母や女中や先生がみなさま。ですから怖いものと)

(でも、可愛いっしょ、小さいし、どうしてあんなのが怖いっすか)

(いいえ、怖いですわ)

(我輩は、そう理詰めでこられると、怖い理由は見当たらないのですがね、反射的に怖いと感じてしまうのでして、これはもうどうしようもない)

(ふ〜ん)

(武蔵さんには怖いものはないのですか)

(俺っすか。そりゃ、怒った時の先生とか、爺ちゃんとか、父ちゃんも母ちゃんも、姉ちゃんだって怒った時には怖いっす。けど、他に怖いって。あっ、林間学校の時にスズメバチとかクマが出るって脅されて、もし出てたら怖かったかもしれないっす。けど、出なかったし)

(昔は、怖いものは地震雷火事親父と言われてましたね)

(今でも全部怖いといえば怖いものですね)

(そういうのはわかるっす。けどハムスターっしょ)

(武蔵君、僕もね、あれはネズミに見えましたよ。あんな生き物、僕の頃にはいませんでしたからね。どう見てもネズミですね)

(ふ〜ん)

(僕は怖くはなかったですが、たぶん、生きている頃にあれを見たら、殺していたでしょうね。ネズミは見つけたら殺す。蠅や蚊やゴキブリと一緒ですよ)

(ハムスター可哀想っす。ってか、俺も変っすか。蠅や蚊やゴキブリなら殺せるっす。父ちゃんや母ちゃんなんか目の色変えてたっすよ。ゴキブリが店で増えたら大変だって)

(なんだか、退屈ですわ)

(ですな。我輩、次に通りかかった御仁に乗せてもらいましょうか)

(えっ、ロバートおじさんまで消えちゃうっすか。俺も一緒に行ってもいいっすか)

(武蔵、お前はまだ帰ってきたばかりだろうが。少しは大人しくしていなさい)

(爺ちゃん、俺、大人じゃないから大人しくできないっす)

(大人しくするのが大人、なるほど。我輩は、否、ここに集いのみなさまは大人しくできないから大人ではないということになるのであろうか)

(へへへ、爺ちゃん、そうっす)

(こら、武蔵)

(しかし、目の前、いや、少し離れた所とはいえ、普段は無いことが起きると、一寸した刺激になりますね)

(でございますわね。でも、もうみなさま去っていらっしゃって)

(日々の退屈さが戻って参りましたなぁ。こりゃ参りました)

(どなたか何かおもしろいお話ございませんかしら)

(そうおっしゃるカテリーヌさんこそ、仏蘭西のお話でもいかがでしょうか。僕、仏蘭西語は初歩を学んだものの、仏蘭西語を使う国々のことはとんと知らず)

(フランス語って、フランスだけじゃないっすか)

(あら、あちらこちらで使われております、いえ、今はどうかしら、でも、あちらこちらで使われておりましたのよ)

(然様。外交官にはフランス語は欠かせないものでした。我が祖国でも、教養ある女性はフランス語はたしなみでしたな)

(へぇ〜、そうっすか。英語じゃなくて)

(武蔵君、英語は、フランス語より簡単ですな。また、我が祖国では我輩が英語で話すのは至極当然のことであり、日本人である武蔵君が日本語を上手にあやつるのと同様でありますな)

(あっ、さっきそう言ってたっすね)

(武蔵の日本語が上手とは、お世事ですね)

(お爺ちゃんっ。けど、日本人じゃなくたって、俺より日本語上手な子っているっす。中学にフィリピンとかペルーとかブラジルから来た子っているけど、国語、俺よりいい点取るし)

(まぁ、羨ましいですわ)

(こどもは適応が早いですからね)

(けど、中国から来た子が漢字難しって言うっすよ。わけわかんねぇ)

(武蔵、それは、今の中国の漢字は日本で使われている漢字よりさらに簡単になっているから)

(ほう、そうなんですか。僕も街中で、日本の漢字が簡単になってきているのには気付きましたが、本家本元中国でもそうなのですか)

(画数が多いと書く数が多いから時間がかかりますしね。数も多いから覚えるのも大変です。その点、アルファベットはいいですねぇ)

(英語にはアクセント記号もございませんでしょ。でも、仏蘭西語は瑞西や白耳義、阿弗利加や加奈陀でも使われておりますのよ)

(アフリカは国じゃないっしょ)

(それを言うなら武蔵君、カナダも国になったのは僕がこちらに来る少し前ですからね。それまではイギリスの植民地ではなかったでしょうか)

(えっ、どうしてフランス語を話すのに英語のイギリスの植民地だったっすか。わけわかんねぇっす)

(仏蘭西人の方が先におりましたのよ)

(いや、その前に原住民がおりましたな。我が祖国アメリカ合衆国同様。まぁ、しかしながら、どこの世界でも原住民は無視されますからな)

(へぇ〜。日本にも原住民っていたっすか)

(武蔵君、日本にはアイヌもいます。おっと、今もいると思いますが)

(あっ、アイヌは今もいます。けど、アイヌって原住民っすか。縄文人と弥生人はいたっしょ。でも今はいないっしょ)

(まぁ、その頃は、日本と言う名ではなかったかもしれないがね。それに、武蔵、縄文と弥生では随分時代が違う)

(うっす、けど、俺、知らないっす。弥生土器と縄文土器の違いぐらいは小学校でも教わったっすよ。飾り付けのごちゃごちゃしているのが縄文でってのは、教科書に写真があったし)

(何処の国であれ、人が集まり、その内、国ができ)

(そうそう、武蔵君、アフリカにある国はエチオピアと、あとありましたっけ。コンゴとエジプトはありましたね)

(公果は白耳義の、埃は英吉利の土地のようなものでしたわ)

(それだけっすか。今もっとたくさんあるっす。ロッテガーナチョコレートとか明治...あっ、あれはヨーグルトだし、それにアフリカじゃない。ともかく、ガーナとかぁ、ウガンダとかナイジェリアとか南アフリカとか、いっぱいあるっす)

(そうそう、今は多いですよ。僕が習った頃は少なかったのですが、あれは武蔵の親が小中学校の頃でしたかね。やつぎばやに独立して。毎月の様に新聞などに載ってましたね)

(そんなに増えたのですか。僕の頃は、アフリカ大陸というと、英領と仏領と色分けなどされていて、大日本帝国の近く、アジアにも英領仏領が多かったものですが。すると、今はアジアの国もそれぞれ独立しているのでしょうか)

(何処の国であれ、人が集まり、その内、国ができ、話されている言葉が決まって参る)


お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。


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