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第八話 セミテリオに警察官 その一



(クワッ、クワッ、カー、ギャー、ギャー、ギャッ、クロー、ギャッ)

(今朝はカラスが多いですわね)

(にぎやか過ぎですのっ)

(朝から烏がこんなに鳴くなんて、珍しいですわね)

(おはようございます。まさか僕達が帰ってきたからと言う訳ではないでしょう。それにしても五月蝿い)

(あちらに集っておりますな)

(烏の集会というわけでもないだろうし)

(ロバート殿、虎之介殿、おはよう)

(ロバート殿、虎之介殿、おはようございます。で、夢さまのお嬢様のお宅、いかがでした)

(ええと......)

(鼠がおりましてな)

(ロバート殿、貴殿は少し先に戻られておりましたのっ)

(はい、鼠が目の前に現れたので、いやはや)

(ロバート殿、鼠でしたらどこにでもおりますでしょ、いえおりましたわ)

(でも、わたくしも、やはり苦手ですわ)

(カテリーヌさまも。仏蘭西には鼠はいなかったのでしょうか)

(いえ、そんなこと、でも.....)

(ですな。アメリカにもおりましたな。しかし、先日は我輩など鼠に見つめられたのですぞ)

(鼠にみつめられるとは、これ如何に)

(目の前に鼠ですか。

(まぁ、ロバート殿、横になってらしたのですか)

(否。え〜と、その、つまり、マック君、ほら、ここに夢さんと一緒に来る白黒の犬の内の黒い方ですが、我輩、マック君に乗っておりまして。マック君が動物達に鼻先で挨拶する折のことでしてな)

(わたくし、目の前ではなかったのですが。あの鮮やかな大きな鳥にも驚いて、でも大丈夫だったのですが、鼠は苦手ですの。で、気を失いまして、気付いたらこちらに戻っておりました)

(我輩も然り)

(あれ、鼠じゃないっす。ハムスターっす)

(鼠の仲間でございましょ)

(そうっすかぁ)

(鼠はともかくも、まったくあちらは動物園の如き騒々しさでして)

(騒々しいというよりも、我輩にはにぎやかな所でしたな)

(つまり、ロバート殿とカテリーヌさんは、こちらにご自分で戻られたのですね)

(否、戻ってしまった、というのが正しいのですな、恥ずかしながら)

(虎之介殿と武蔵君も気を失われたのですかな)

(違うっす。お爺ちゃんが、あっ、ややこしい、お爺ちゃんだらけだ。えっと、俺の爺ちゃんでも、彦衛門お爺ちゃんでもなくて、ご隠居さんっすか。虎之介お兄ちゃんと僕を連れて帰ってきてくれたっす。真夜中に。あっそうか、ユリおばさんはまだ戻ってきていないんだ)

(武蔵、まったく。みなさまに御迷惑をおかけしていなければよいのですが。孫が申し訳ございません)

(いえいえ、楽しかったですよ。武蔵君は僕達に比べて最近のあちらの世をご存知なので、いろいろ教えて頂きました)

(この孫がですか。お世辞をありがとうございます)

(で、ご隠居さんはまだお休みでしょうか)

(ご隠居さん、ご隠居さん)

(あら、いらっしゃらないのかしら。またお出かけなさってらっしゃるようですわ)

(ご隠居さんはこの界隈で一番身軽ですもの。どこにでもさっとお出かけになられる)

(僕も見習いたいものです。まだまだどなたかに憑かないと、乗せていただかないと)

(すると、今こちらにいらっしゃるのは、虎之介殿とロバート殿とカテリーヌさんと、武蔵君、武蔵君のお爺さま、だんなさ〜と絵都とわたくしですわね)

(私もお仲間に加えていただきありがとうございます)

(こちらのお仲間は、来るもの拒まず、去るもの追わずですもの。あら、失礼でしたかしら、いえ、あの、申し訳ございません。え〜と、ですから、お気を遣わないでくださいませ)

(来るものを拒めませぬし。ここの人口は増えるばかり。人は死ぬ運命にありますからのっ。ここから消えて空気に混じり宇宙に散るのを追うことも出来ませぬのっ。ここの一同の中では、私が一番先に消える運命でしょうのっ)

(だんなさ〜、だんなさ〜がいらっしゃる時には今度こそお供させてくださいませ。だんなさ〜亡き後のあちらの世の長かったこと長かったこと)

(お母上、私も父上母上と共に消えましょう)

(絵都、あなたはその前に一度、あちらのセミテリオにいらっしゃる碧さんのところへお戻りなさいな)

(碧さん、会いとうございます)

(でございましょう)

(あの遠い短い日々、大連の日々が懐かしゅうございます)

(おっ、カラスが一斉に舞い上がりましたのっ)

(そろそろ朝ご飯のお時間なのかしら)

(この辺のカラスってどこで餌取るっすか)

(都心の芥漁りらしいですな。江戸の昔から然様でしたな)

(ロバート殿は、京に都があった頃からこの国におられたのでしたかのっ)

(否。然様な絵を目にいたしたことがございましてな)

(烏が飛び去り、元の静けさになりました。しかし、ロバートさん、マサさん、彦衛門さん、明治の世にも烏はいたのですか。騒々しかったことでしょうね)

(虎さま、ほんと、静寂がお好きなのですね)

(なんだか、カテリーヌおばさん、ユリちゃんと同じようなことを)

(あら、そうなのですか。申し訳ございません。あら、それではユリさまに申し訳ございません。どういたしましょう)

「今朝、犬の散歩をしていた方が管理事務所の方に連絡くださいまして。早朝から申し訳ないのですが」

「こちらは二十四時間ですから構いません。で、第一発見者の方は」

「あっ、通勤途中だったので、もう。でも、住所氏名連絡先はちゃんと伺っておりますので、後ほど事務所の方で」

(おおおっ、あの制服は陸軍かのっ、海軍かのっ)

(おじいちゃん、もう今のあちらの世には、陸軍も海軍もありませんよ)

(虎之介殿、お主におじいちゃん呼ばわりはされたくありませんのっ)

(はいはい。武蔵君にはおじいちゃん呼ばわりされても気にしないのに)

(何か申されたかのっ)

(いえいえ)

「どういう扱いになりますか。数年に一度、こういう事があって」

「いや、まだ何とも。私達が確認してみてからでないと。で、どこに」

「もうすぐそこです」

(ふだんお見かけしない方ですわね)

(ですのっ)

(おじいいちゃん、あそこまで見えるっすか。俺、ちょっと見えないっす。おまわりさんが二人いるってのはわかるっす。けど、顔まで見えないっす)

(ははは、昔は山の向こうまで見えたものですのっ)

(だんなさ〜、それは無理というもの)

(ですのっ。山の向こうは遠眼鏡でも無理ですのっ。で、武蔵君、あのお二方は、おまわりさん、つまり警察官なのですかのっ)

(うっす)


お読み頂きありがとうございました。

霊園セミテリオの気の世界を、お楽しみ頂けましたなら幸いです。

お読みになられたあなたと、書き手の私が共に生きておりましたら、来週水曜日に再会いたしませう。


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