セミテリオの仲間たち 番外編仁 81句
はげいとう燃ゆれば強く生きんとす
由比ケ浜閑散として初秋かな
亡き母の年となりけり秋の風
秋雨や誰をともなく待つ心
むしかれい母の手作りなつかしく
電灯を消して月光ほしいまま
秋祭りひやっとこ面を孫に買い
掃き寄せし落ち葉は又も風に舞
木の実落つ孫のみやげの山と出来
菊人形裾より水をそっとかけ
手ぎわよく柿の皮むく嫁なりし
老いても灯火したしむ時たのし
長瀞の水音高しうす紅葉
思ひ出は那須高原の秋の色
桐一葉電話のベルは友のふほう
秋の野に遊びし友は今いづこ
寂しさを耐えて独居秋深く
紫の袴懐かし文化の日
大盛りの美味な思い出蟹料理
在りし日のペチカ懐かし肌寂し
子達寝かせ母は毛糸を編み急ぐ
短日や長居の人の訪れし
冬の月遠く住む娘を思ひけり
はなれ行く人は追うまじ寒椿
かなしみをかみしめ仰ぐ冬の空
天神の森も枯木となりにけり
寝て居ても起きてもいたし寒に入る
思ひ出の布切集めてチャンチャンコ
持ち合わせ僅かなれども社会鍋
お飾り売り去年の父子が今年又
集まれば明治の話し晦日蕎麦
子の幸を祈りて雑煮の箸をとる
百までも生きてと孫の年賀状
年賀状今の倖書きそえて
百人首をよむも久しや若返り
初春や遠き娘の来る知らせ
初春や舞踊汐汲み亡母の声
初謡テープレコーダーにとられけり
それぞれに勝手な話春炬燵
昔日の夢よみがえり雛祭り
桃の花押し花にして娘にたより
雀よくさえづる朝や春たちぬ
春雷や老ひもてわれ命大切に
ありがたや今年又見る八重桜
トンネルを出づれば四谷花盛り
夫の忌迫りて花も散りそめぬ
忌を修す亡夫の好きな木の芽和ゑ
車椅子に押されて今日は花見頃
飛石にそうてたんぽぽ二つ三つ
草餅のうまさわすれず疎開の地
波すそに近き別荘春の海
起き臥しもその身そのまま老の春
老園は大木多し鳥交る
ポストまで行き帰の道や青葉風
障子みなはづせる部屋に風薫る
恙なき生活うれしく針まつる
手作りの柏餅うれし母の味
母の日はるけき父母の年数へ
許されて壱歩二歩三歩夏の朝
かすむ目に蛸の味をさぐりあて
桑の実に口びるそめし思ひ出を
心太ギヤマンの鉢に突き出され
亀甲山古墳孫達に両手をつながれて
芦の花めでつ小舟にクラス会
奥多摩の思出なつかし鮎料理
小雨ふる夜の静けさ蛙啼く
きゃら蕗の上手に煮えて老たのし
稲妻や隣の子犬啼き通す
虹立つとよばれて縁に走り出で
走り来る孫の汗をまづ拭い
久々に会う母子蚊帳に夜を更かし
老いても浴衣の柄に好みあり
胸せきる思ひはつよし終戦日
玉の音、とんび一羽空高く
劇場を出ずれば暑さなほ険し
デパートの風鈴売り場にぎやかに
星の名を孫に教えて銀河かな
ハンモックにねかせ母はしのびあし
笹の葉の触れ合う音の涼しさよ
踊りの輪ざわめき乱れにわか雨
朝顔やわれ清き人でおわりたし
第六話登場の絵都は、俳号繪津で戦後毎日のように詠んでいました。その内のごく一部、紙面に掲載されたり、句会で評価されたものを含む、81句です。