EPISODEⅣ ケラウノスの侵攻
その頃の天星世界では、母なる星が人間界を見下ろしていた。
双星の幸せが、自分の幸せのように感じて嬉しさを覚える。
「嬉しい…だなんて。私はただの歯車に過ぎないのに…。」
感情に違和感を抱き、ぽつりとそう呟いても今この場所には他に何も居ない。
彼女はアカシックレコードを眺めてエウロパの氷殻を口で溶かす。
「はぁ、あの双星の影響で随分と人間臭くなったものだな…。」
独りぼっちの空間で、くすくす笑みを浮かべて文句を垂れる。
いつもはエンケラドゥスの水蒸気を嗜んでいたけれど氷殻も悪くない。
母なる星と呼ばれる星姫は上機嫌で双星に想いを馳せていた。
「っ!?」
そんな安寧の時間は、突如として終わりを告げる。
少し離れた後方に異様な気配を感じた。
ふたつの強大な気配は、一瞬にして背後まで近付いてくる。
「よぉ、星姫。」
「…駆飛と、流楠…か。」
「へぇ?こっち見ずに当てるなんて流石だねぇ?」
星姫を揶揄うようにディオスクロイが空間に侵入してきた。
その兄弟は天星世界では名の知れた戦闘狂者たちだ。
彼らの星では争いが絶えず、管理者階級も、処遇でさえも戦いで決まる。
「全天神を侮るなよ、天空神の息子の分際で…。」
この世界の管理者である星姫には、挑発的な兄弟の態度も響かない。
「して、高名なディオスクロイが、ここに何用だ…?」
星姫の問い掛けに駆飛は答える。
「お前が生み出した双星の世界を頂戴しに来たんだ。」
「軽く視たけど、ほんとに良い星だねぇ!欲しくなっちゃったんだぁ!」
それに続くように口を開いた流楠は嬉々として天狼星を思い浮かべた。
ふたりに視線を向けると、呆れた様子で頭を振るう星姫。
「お前らに賜る星など無い、天空神の元へ帰れ。」
そう冷たく言い放った。
彼らは互いの視線を交えて、小さく頷く。
「まあ、貰えないなら奪うだけだねぇ!」
依然嬉々とした態度の流楠。
「ははは!精々ケラウノスの攻勢に脅えるがいいさ!」
駆飛も同じよう嗤いながら雷霆を掲げた。
天空神の雷霆は、天高くから雷を喚ぶ。
それは天狼星を襲うように、アカシックレコードを直撃した。
衝撃波が、この空間をも襲う。
エウロパの氷殻が滑り落ちてクラック音が甲高く鳴り響いた。
「双星が作った星だから、天狼星に拘るのか…。」
そんな小さな星姫の呟きに、彼らはニヤリと嗤った。
恐らくそれが、彼らの肯定となるのだろう。
「ケラウノスの雷で異径の類を喚び続けよう。」
「…これで"ニンゲン"…も、終焉わりだなぁ?!」
捨て台詞のように吐き捨てて彼らは去っていった。
彼ら、ディオスクロイの目的は"ニンゲン"を1人残らず殺すこと。




