EPISODEⅢ 未来への可能性
蒼月の足元から風が吹き上げているような錯覚。
もちろん、風圧なんて感じない。
身体に纏わりついている紫色の雲が、その無重力さを印象付ける。
「悪しき霊魂が、天に召すその時まで…」
その神秘的で、超越的な姿は、まるで天女のように。
「な、んだ…。」
人間とはかけ離れた姿なのに恐怖すら感じない。
美しくて、麗しくて、紅輝はそれに釘付けになっていた。
「ボクの、雲で…浄化する…!」
苦しみに耐えながらふわふわと漂う雲は或空の体内に侵入していく。
身体に入っている液体を外に引きずり出した。
「…っぐ、かはっ!!」
取り込んだどろどろの黒い液体を吐き出させても、
或空の意識は戻らない。
「こいつ…霊魂強すぎ…っ!!」
取り込んだ獣の魂が強くて。
まだ、力を制御しきれていない蒼月には収めることができなかった。
吐き出した液体は、再度或空の口に向かって蠢く。
そして、蒼月は願ってしまった。喚んでしまった。
「ζήτα!Βοήθησέ τον…!!」
蒼月は喚ぶ。未来という概念を。
そして、現れる。その願いに応える為に。
「わっ!みーも人間界来れたの…!?」
「は?!お前、どこから出て…!」
突如として目の前に出現した少女に驚く紅輝。
その声に、他の人間たちも少女に視線を向ける。
「みーは未来を視るもの!」
注目を集めた少女は満面の笑みで、人間たちにそう告げた。
突然、何も無い場所に現れた少女にかける声も無く、
少女は、溜息を吐いて倒れている或空に向き直った。
「おーいー!起きてよ或空ー!」
そう言いながら或空の胸倉を掴んで唇を重ねた。
ちゅるりと音を立てて、口から出ていた黒い液体を飲み込む。
「…ん!この霊魂くっそ不味いなぁ?!」
悪態を吐いていても、ずっと少女は笑顔のままで。
不穏な空気がその場を流れた。誰も話さなかった。
少しして意識の戻った或空の目が開く。
元の赤色の瞳が覗かせてから、ゆっくりと立ち上がった。
赤い瞳は目の前の少女を捉えて、不満げな声を漏らす。
「…未来空を、喚んだのか…。」
「なにその反応?!てか制御出来ないクセに力使うなっ!!」
頬を膨らませて言い寄る未来空を適当に配う或空。
全ての光景を目の当たりにしていた紅輝は放心状態でその場にへたり込む。
「…ごめん、ボクだけじゃ助けられなくて…っ!」
或空は泣きそうになった蒼月に耳打ちをする。
「…あの獣ら、多分この世界の生命体じゃない。」
人間たちの不安を煽らないように、小さな声で放たれた言葉の意味は、
きっとこの星のどんな言葉よりも大きな意味を齎す危機の始まりに過ぎない。




