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さよなら、真夏のメランコリー  作者: 河野美姫
三章 夏の匂い
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四 焦燥感①

 九月を駆け抜け、十月も終わる頃。

 夏の匂いはすっかり消え、秋へと移り変わりつつあった。



 私はバイトにも慣れ、学校よりもずっと楽しんでいる。

 だけど、あれだけ憂鬱だった学校も、前ほど嫌だとは思わない。



 夏休み前に退部届を出したこと。

 真菜がいつも一緒にいてくれること。

 少しずつ少しずつ、時間が経ったこと。



 そういう理由もあるけれど、一番は輝先輩のおかげ。

 彼と重ねた日々が、私の傷をゆっくりと癒してくれつつあるのかもしれない。



 輝先輩は、前にも増して受験勉強に励んでいる。

 夏休みと同時にバイトを辞めたあとは、家庭教師の日を増やした。



 週三日だった家庭教師の訪問が週五日になり、この間受けた模試の結果は結構よかったのだとか。

 ただ、まだ志望校は決まっていないみたい。

 学校でも家庭教師にも急かされて、昨日の電話で話した時には辟易している様子だった。



(先輩も、陸上で学校を選ぶつもりだったんだもん。困るよね)



 彼の気持ちがわかるから、同情めいた感覚を抱いてしまう。

 私だって早く進路を決めなければいけないけれど、輝先輩に比べれば私はまだ一年の猶予がある。

 そう思うと、ずっと気はラクだった。



(とはいえ、三年の選択授業はもうすぐ決めないといけないんだけど)



「美波、理系と文系どっちにするか決めたの?」


「まだ……」


「提出、明日までだよ?」



 うちの学校は、三年で理系と文系にきっぱり分かれる。

 今まではまんべんなくしていた授業が、三年になると同時に受験対策がされ、理系か文系かでクラスも変わる。



 その希望調査書の提出が明日までだったりする。

 そして、私の調査書はまだ名前とクラスの蘭しか埋まっていない。



「そうなんだけど、進路が決まってないから書けなくて……」


「うーん、確かに……。でも、これは仮の希望調査だし、今はとりあえず書いておけばいいんじゃない?」



 先生は、『この調査は三学期にもする』と言っていた。

 今回はとりあえず希望を訊くという形。

 仮決めみたいなもので、これで決定じゃなくていい……と。

 三学期に提出する調査書が、最終決定の場なのだとか。



「真菜は文系でしょ?」


「うん。専門だしね」


「私も文系がいいなぁ」


「じゃあ、今はそうしておけばいいんじゃない? 他のクラスにもまだ決めてないって子がいたよ」



 焦ってばかりだった心に、救いの手が差し伸べられたような気持ちになる。

 彼女を始め、クラスメイトの大半は、もうどちらにするか決まっている様子で、私だけが取り残されている気がしていた。



 そのせいで、焦燥感でいっぱいだった。

 だけど、クラスが違うとはいえ、同学年にまだ進路どころか理系か文系化も決まっていない子がいると知って、安堵感が芽生えた。



(こんなことで安心してる場合じゃないってわかってるけど……)



 頭で考えているのとは裏腹に、不安と焦りでいっぱいだった心に少しばかりの余裕ができる。



「よし! こういう時は甘いものだ!」


「え?」


「バイト前になんか食べに行こ!」


「また?」


「いいじゃん! アイスでもクレープでも、フラペチーノでもいいよ!」


「私、ちょっと太ったから甘いものは……」


「美波はもともと細すぎただけ! まだ標準体重になったくらいじゃないの?」



 話したことがない体重をずばり当てられて、ドキッとする。



「なんでわかるの……」


「勘? インフルエンサーの投稿とか見まくってるし」


「それでもすごいんだけど」


「まぁね~」



 明るく笑った真菜が、「ほら行こ!」と促してくる。

 少しだけ悩んだけれど、フラペチーノなら……と承諾した。



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