表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら、真夏のメランコリー  作者: 河野美姫
三章 夏の匂い
34/54

二 少しずつ癒えていく傷➁

 エアコンの稼働音。

 時折、家の前を通る人の足音や声。

 静かな部屋にはそんな音がよく聞こえる。



「美波? 全然進んでないぞ」


「えっ……? あっ……」



 ふと顔を上げると、輝先輩が苦笑していた。

 ローテーブルで向かい合う私たちの距離は、とても近い。



「なに? バイト疲れ?」


「そう、かも……」


「でも、今日はそこそこ頑張らないと、次のデートも課題になるだろ」


「デート……」



 ドキドキしている私の心臓が、〝デート〟という言葉に撃ち抜かれる。



(そっか……。デート、なんだ……)



 今まではただの勉強会だった時間が、恋人になった途端にデートになる。

 彼氏と彼女って、たぶんそういうこと。

 初恋の経験もろくにない私に反し、彼は余裕そうに笑った。



 二度目の輝先輩の部屋は、前に来た時よりもずっとドキドキした。

 匂い、物、雰囲気。

 男の子っぽい、モノトーンカラーの部屋。

 彼の気配が濃すぎて、勝手に鼓動が暴れてしまうのだ。



「そんなに緊張しなくてもなんもしないって」


「え? しないの?」


「は?」



 思わず食い気味に尋ねた直後、自分が発した質問の意味に気づいてハッとする。

 頬がボッと熱くなる私とは裏腹に、輝先輩が眉を下げた。



「美波のそれは天然? 計算?」


「ちがっ……! 今のは間違ったの!


「……だよな」



 彼のため息が響いて、ドキッとしてしまう。

 ふたりきりでいるだけで緊張しているなんて、呆れられてしまっただろうか。

 勝手にテンパっているなんて知られて、嫌われたかもしれない。



 内心アタフタしながら不安を感じていると、輝先輩が顔をクシャッとした。



「そこまで警戒しなくていいよ。まぁ俺は美波とイチャイチャしたいけど、美波はまだいっぱいいっぱいって感じだし?」


「う、うるさいな……。私は先輩みたいに遊んでないもん……。付き合うとかも初めて、だし……」



 言い返す口調に力が入らなかったのは、急に悲しくなったから。

 私は心臓が痛いほどドキドキしているのに、彼は楽しそうに笑っている。

 輝先輩は恋愛経験が豊富なんだと思えて、なんだか無性にモヤモヤした。



「俺だって遊んでないけど」


「うそつき」


「は? なんでうそなんだよ? マジだからな」


「……でも、彼女くらいいたでしょ?」


「……いないわ」


「え?」


「……え、なに? 俺、そんなにチャラい奴だと思われてる?」


「や、そうじゃなくて……。だって、先輩……モテるっぽいし……告白とか……」



 ぽつりぽつりと零せば、彼が気まずそうに眉を寄せる。



「一年の時は練習漬け、二年ではリハビリばっかりで、それどころじゃなかったし。告白は何度かされたけど、彼女にした子はいない」


「本当に?」


「俺の初めての彼女は美波だよ」



 目を真ん丸にする私に、輝先輩は不本意そうな顔をしている。



「クソッ……。かっこわりぃ……」


「なんで……?」


「好きな子の前でくらい、かっこつけたいだろ」



 拗ねたような顔をする彼が、なんだかとても可愛く見えてしまう。

 思わず噴き出せば、輝先輩に鼻をキュッと摘ままれた。



「うっ……」



 私が顔をしかめると、彼がケラケラと笑う。

 鼻を摘ままれていた手を押し返すようにして、これみよがしに唇を尖らせた。



「バカ」


「……先輩だって似たようなものでしょ」


「そんな生意気なこと言ってると、水族館に連れて行ってやらねーからな」


「それはずるい……!」



 課題が全部終わったら、水族館に行こうと約束している。

 私が今一番行きたい場所だった。



「じゃあ、真面目に課題やるぞ。夏休みもあとちょっとだし、サボって時間をムダにするのはもったいないからな」


「うん」



 水族館デートは、なんとしてでも叶えたい。

 そんな気持ちをぶつけるように、とにかく雑念を押し込めて課題と睨めっこをしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ