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さよなら、真夏のメランコリー  作者: 河野美姫
一 戻れない舞台①
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四 夏の足音➁

「あっ……」


「なに? 誰?」



 彼の隣にいた男子が、こちらを見てくる。

 たぶん彼も輝先輩と同じ三年生なんだろうと思った。



 夏服の今、輝先輩たちは白いシャツと黒いズボンというシンプルな井出立ちだけれど、なんとなく人目を引いていた。

 それは、輝先輩の金髪のせいか、彼の整った顔立ちのせいか。

 どちらにしても、私はどう反応すればいいのかわからない。



 隣にいる真菜は、驚いた顔で私を見ていた。



「えっ、あの人って夏川先輩だよね? どういう関係? 美波、知り合いだっけ?」



 彼女の質問に、なにをどう説明すればいいのか困ってしまう。



「こんにちは、美波の友達?」


「こ、こんにちは……!」



 真菜は緊張しているようで、声が少しだけ上ずっていた。



「ああ、この子……あれか、元水泳部の――ぶっ……!」



 輝先輩の隣にいた男子の顔に、先輩のスクールバッグが命中する。



「輝! お前、なにすんだよ!」


「余計なこと言うなって」



 きっと、私を傷つけないための配慮だったに違いない。



「せっかく美波と仲良くなれそうなんだから」



 そう思った直後、予期しない言葉が続いて目を丸くした。



「え、なにその顔? 俺ら、秘密の仲なのに」


「へっ? 秘密って……」


「ヘ、変な言い方しないで!」



 真菜に興味津々な視線を向けられ、私は慌てて輝先輩に抗議する。



「輝、今のはないだろ!」


「コンビニでアイス奢るから許せ」


「謝る態度じゃねーな」


「そんなに強くぶつけてないだろ」


「アイスとから揚げな」


「はいはい」



 軽快なリズムのようにポンポンと交わされていく会話。

 そこから、ふたりの仲のよさが窺える。



「っていうか、美波、うまそうなもん食ってるな」


「え?」


「俺、腹減ってるんだよね。一口ちょうだい」



 言い終わると同時に、輝先輩が私のクレープにかぶりついた。

 残り三分の一くらいだったクレープの半分近くが、彼の口の中に入っていく。



「ちょっ……!」



 驚いたのは私だけじゃないようで、隣にいる真菜も唖然としていた。



「あ、うま。これ、そこのクレープだろ? さすが人気なだけあるなー」


「わ、私の食べかけ……!」


「ん? 俺、そういうの気にしないから」



 輝先輩はにこにこと笑い、真菜はニヤニヤと口元を緩めている。



「ふーん」



 意味深な視線を寄越してきた輝先輩の友達は、私をじっと見てから微笑んだ。



「俺、こいつの友達の宮里圭太(みやざとけいた)。圭太先輩って呼んでね」



 どこか軽い雰囲気の圭太先輩に、真菜が「はーい」と返事をして自己紹介をする。

 私を余所に、三人は笑顔を向け合っていた。



「美波、それ食わないの?」


「だ、だって……」


(か、間接キス……!)


「お腹いっぱいで!」



 うっかり赤くなりそうだった頬をごまかすように、大声で返してしまう。



「じゃあ、残りもちょうだい。代わりに明日なんか奢るから」


「えっ……?」



 私が見上げようとするよりも早く、輝先輩がクレープをかじる。

 彼は、そのまますぐに食べ切ってしまった。



「ごちそうさん」



 輝先輩がにこっと白い歯を見せ、私の様子を窺うようにしたあとで瞳を緩める。

 次の瞬間、骨ばった手が頭の上に置かれ、ポンポンと撫でられた。



「な、なにっ!?」



 大袈裟なくらいの反応を見せる私に、彼は優しい眼差しを向けてくる。



「別に。……明日の放課後、昨日の場所に集合な」


「は……?」


「じゃあな」



 輝先輩は勝手に決めてしまうと、圭太先輩に「行こう」と言って歩き出した。



「昨日の場所ってなんだよ?」


「圭太には関係ないだろ」


「うわ、なんかやらしー」



 遠のいていく会話を聞きながら、呆然とすることしかできない。

 そんな私の視界が、不意に真菜の顔でいっぱいになった。



「わぁっ……!」



 彼女はにんまりと目と口元を緩めていて、なにを言いたいのかすぐにわかった。



「美波~」


「な、なに……?」


「夏川先輩といつから仲いいの? 昨日の場所ってどこ? あの頭ポンポンはいったいなに!?」


「知らない! なんでもない! 仲良くない!」


「知ってるでしょ? なにかあるんでしょ? 頭ポンポンは仲良しでしょー?」



 勢いだけで返事をした私に、真菜の攻撃は緩まない。



「おっ、いいタイミングでカラオケの部屋が空いたみたい。話はそこで聞こうっと」



 スマホの通知を確認した彼女は、クレープ屋で並んでいる間にアプリでカラオケルームの予約を入れてくれていた。



 ちょうど順番が回ってきたらしく、真菜に腕を引っ張られてしまう。

 スキップでもしそうな雰囲気の彼女の後ろ姿だけで、私に拒否権なんてないのは明白だった。



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