28こんなのずるい
「アンドレア!!」
大きな叫び声がして振り返る。
タクト兄様が見えた。
「アンドレア~!!」
続いて見えたのはロベルト様。
どうしてロベルト様が?
「俺も今行く!」
後ろで叫んでいるのはバッカロ騎士隊長だ。
どうして騎士隊長まで?
その間もアイスが氷魔法で仕掛けてくる。
「ちょ!アイスやめて。みんなどうしちゃったのよ~」
アイスは自分の放つ攻撃を抑え込もうとしているのか、ぐいっと顔を歪ませて差し出す腕はぐわ~んと湾曲した。
「アンドレア逃げてくれ!」
私は必死でその攻撃をよけると今度はボリの攻撃が来た。
身体中が痒くてたまらなくて身動きできずに身体をよじる。
「すまんアンドレア。俺にもどうにも出来ないんだ。身体が勝手にお前を攻撃して‥」
ボリやアイスは苦しそうな顔をして私を追い詰める。
どういう事?
「アンドレアいいから逃げろ!」
私の前に突っ込むように躍り出たのはロベルト様だった。
「ちょ、なんであなたが?」
「こいつらはレーラが連れて来た魔術師の魔術にかかってるんだ。だから!」
ざっと状況を聞くがまだ信じれない。
屋敷で狂ったように攻撃して来た男達も操られていたって事?レーラって誰?
もぉ!全く意味わかんない!
それでロベルト様はどうして平気?あっ、彼に暗示は効かないって事はそう言う事?
そんな事を思っている間にアイスたちは邪魔が入ったと認識したらしく。
「おい、ちょっと待て!お前ら‥なぁ」
ロベルト様は反撃も出来ないまま。
あっという間にアイスの氷で足元を固められ、ボリの攻撃で身体じゅうが痒くなったらしく背中や首周りを掻きむしる。
そこにグンネルが地面の土を頭から浴びせられメルディが睡眠魔法を。
さすがに睡眠魔法は効かなかったらしいががんじがらめになったロベルト様。
「お前らなぁ」
タクト兄様が呆れたように声を上げると詠唱を唱えた。
辺りの空気が一瞬煌めく。
しばらくするとみんなが正気に戻った。
「俺?‥」
グンネルがきょろきょろしている。
もうどうする気?ロベルト様の口の中まで泥まみれよ。
「タクト様?」
もぉぉ!彼を狂わすほど痒がらせたの?
「うわぁ、それって俺が?」
アイスなにやってんのよ!彼を最初に動けなくするなんて。
「アンドレア様?」
メルディの魔法は効かなかったみたい。良かったわ。
そこにバッカロ騎士隊長が来て彼の執事のウルク様も走り寄って来た。
「大丈夫か?」
「旦那様ご無事ですか?」
「まあな。おいそれよりアンドレアは?」
そんな状態なのに彼ったら動けなくなった身体をひねって辺りを探している。
私の為にこんなになってもまだ私の心配をしている彼に胸の奥がぎゅぅと締め付けられる。
「ロベルト様すみません。みんな悪気があったわけでは‥「わかってる。それより怪我はないか?」はい、ありがとうございます。私は大丈夫ですから‥ぷっ!」
なのに。
私は申し訳なさそうにしたが俺の姿を見て噴き出した。
「こんなカッコ悪い所見せるつもりはなかったんだが‥」
「そんな。ロベルト様のせいじゃありません。ぷっ!」
私は手を伸ばして彼の髪についていた泥を払い落とす。
やだ、笑う気はないのよ。
一時はどうなるかと思った。ロベルト様が私をかばってくれてみんなが彼を攻撃し始めて。
タクト兄様が魔術を無効化してくれたのね。
だからもう大丈夫。
なのにあなたはこんなになってまで私を助けてくれて。
ほんとにあなたって人は。
一生懸命で裏表がなくて飾らなくて‥
こんなのずるい。
ますますあなたが好きになってしまう。
彼はこんな姿をさらしているのが恥ずかしくなったのか。
耳が赤いまま叫んだ。
「おい、ウルク!何とかしろ!」
「はい、すぐに旦那様」
ウルク様が走って来て急いで身体中に着いた土を払うので私は後ろに下がった。
足元の氷をアイスたちが砕いて動けるようにしてくれて彼はやっと動けるようになった。
タクト兄様が近付いて来て詫びを言った。
「エークランド辺境伯すまなかったな。我が家に帰ったらすぐに風呂の準備をしよう」
私達は岐路に着いた。




