26タクト現れる(ロベルト)
「いやっ!ちょっとなにするのよ!その手を放しなさいよ!なんで!」
女の叫び声がした。
俺は(ロベルト)やっと正気を取り戻して顔を上げた。
庭には信じられない光景があった。
レーラが漆黒色のマントの男に捕らえられている。
その隣にはさっき何かの魔力を行使した男が倒れていた。
それを取り囲んだ黒色のマントの集団。
きっとあの漆黒色のマントの男がリーダーだろう。
何があったんだ?
すると漆黒色のマントを羽織った男が俺に声をかけた。
「おい、お前がエークランド辺境伯か?」
「は、はい。これは一体?」
「この男は禁忌魔法を使った犯罪者。魔法は無効化にした。もう心配ない。それよりお前は大丈夫か?」
「ああ、俺は魔力に耐性があるみたいで‥そうだった。確かこいつが何やらおかしな魔法を使って俺の仲間はおかしくなった。そうだ!あいつらは?って言うかあんたは誰なんだ?」
仲間も心配だがいきなり現れた男に驚く。
間違っても敵ではなさそうだが‥
「俺はタクト・ティートンだ」
「あっ、アンドレアの?」お兄さんですよね?そこは声にならず。
「そうだ。ロドミールの悪事はすべて明るみになった。もう心配ないぞ」
「えっ?ロドミール伯爵の?」
俺も驚いたがレーラの方がそれ以上に驚いたらしい。
「うそ~!ロドミールが捕まったってどういう事?私はロベルトとロドミールをまとめて地獄に送ろうと思ってたのに~」
タクトにしっかりと腕を掴まれ逃げ出しようもない状態でそんな事を言うなんて。
お前相当やばいぞ。
「ああ、お前がロドミールを陥れるためにそろえた証拠が役に立つ。それにお前も共犯者として罪を裁かれるからな」
「どうして私が?私はあいつに脅されて仕方なく‥!」
レーラは悔しそうに顔を歪ませて唇をぎりぎりさせた。
「だったらこいつに聞こうか?こいつはお前が雇った魔術師だろう?こいつには禁忌魔法の使用で牢に入ると知ったらお前のことなんかべらべらしゃべると思うぞ」
「ち、違うわ。こいつはロドミールが!!」
「お前たちには密偵がずっと張り付いていたんだ。何を話しどんな行動をしたか証拠は揃っているんだ。もう諦めるんだな」
「うそ!いやよ。私はただもっと幸せになりたかっただけで‥そうよ。こいつが悪いのよ!こいつが私を追い出さなかったら私は‥」
レーラは俺を指さして必死で訴えた。
いい加減にしろよ。散々振り回されたのはこっちなんだ。それにルシアの事もお前のせいじゃないか。
それにアンドレアを危険な目にまで合わせやがって!!
そうこうしていると屋敷の中から仲間がぞろぞろ出て来た。
どうやらタクトの言った通り術が解けて意識がもどったようだ。
バッカロもウルクもまだ朦朧としているらしく何があったときょろきょろしている。
「こいつらは?」
「俺の仲間です。お前ら大丈夫か?」
「ああ‥一体何があった?」バッカロが尋ねる。
「禁忌魔術にかかったらしい」
「俺達が?クッソ!」
バッカロは悔しそうに拳を宙に振り落とした。
「心配するな。もう術は解除した。そう言えばアンドレア達はどうした」タクトが聞いた。
「アンドレア達は先に帰ると言って‥」
まさか、俺が怒らせたとも言えないだろう。それにしてもどうしてあんなに怒ったんだ?
「グンネルやアイスやボリ達も一緒にか?」
「はい、ティートン家の奴らが一緒に」
「しまった!ビリビリ!ピチュ急いで後を追うぞ」
余裕だったタクトが慌てて後を追おうとする。
「どうしてそんなに急ぐんです?アンドレアもあいつらも変わった様子はなかったはずですよ」
俺の脳内にはどうしてととクエスチョンマークが浮かぶ。
追いかけるなら俺も一緒に行ってアンドレアともう一度きちんと話をさせてもらいたいんですけど。
「ばか!禁忌魔法は魔力持ちにも効果があるんだ。ただ普通の人間より効果が表れるのが遅いだけで‥今頃まじに争い合っているかもしれん。おい、急ぐぞ!」
「そんな、知ってたら止めたのに。あの魔法は屋敷にいたアンドレアを狙ってました。でも、俺はアンドレアがいたとは知らなくて」
「では、アンドレアが標的になる可能性が大きいな。とにかく急ごう!」
「俺も行きます!」
「ああ、一人でも多い方がいいだろう。その前に」
タクトはそう言うと銀色のマントの男とレーラに拘束魔法をかけて仲間二人に託して急いで出発した。
俺も馬にまたがりタクトと仲間たちとアンドレア達を追う。
アンドレア、どうか無事でいてくれ。
俺は、さっきまでの腹立たしさとは打って変わりアンドレアを失うかもしれない恐怖に襲われた。
「おい、待ってくれ。俺も行く!」
そう言って慌てて後を付いて来たのはバッカロだった。




