25はっ?何で私が怒られるのよ!
タクト兄様が屋敷の外にいた。
私はロベルト様に抱きかかえられていた。
彼が来てくれた。
ほっと安堵して彼の胸に身を埋めたいと思った。
そっと木陰に下ろされて大丈夫かと聞かれうれしかった。
ルシア様は無事よ。安心してと言おうとすると。
「大丈夫か?」って言われた気がした。
でも、私は興奮していてそれどころじゃなくてあいつら卑怯よと息巻いていた。
やっと少し落ち着いてやっとロベルト様と視線があった。
「アンドレア、怪我はないか?」って言われてうれしかった。
どうしてロベルトがここにいるのと思って聞いた。
そしたら私がどうしてここにいるのかって聞くからルシアさんの身代わりになったと話した。
だって私はそれが出来るし私の仕事だし当然の事をしたはずなのに。
ロベルト様は”誰がそんな事をして欲しいと言った”って怒り始めた。
どうして?
ここは喜ぶところじゃないの?
だってルシアさんが無事なんだから。
まあ、ちょっと危険な事はあったけどそれも想定内でアイスがちゃんと助けてくれたし。
なのにますますロベルト様は怒って。
”余計なことをして”と。
それはこっちのセリフよ。余計なことをしてしゃしゃり出て来るからあんなことになったんじゃないの?
”誰も助けてくれなんて言ってない!”勝手なことをして”と。
はっ?どうしてそこまで言われなきゃならないわけ?
信じられない。
まあ、確かに。今までもやられた相手に逆切れされてひどいことを言われた事はあったわよ。
でも、私達はルシアさんを助けたのよ。どうしてあなたにそこまで‥これは侮辱じゃない!
渦巻く怒りに我を忘れそうになるが。
冷静になりなさい。
私は立ちあがって大きく息を吸い込んだ。
そうだ。これは任務。
ロベルト・エークランド辺境伯に近づいたのもロドミール伯爵を摘発するため。
ロドミールの悪事はこれですべて公に晒されることになるだろう。
妻への虐待。エークランド辺境伯に対する脅迫。そして密輸の品々。そして宰相ノーマン・シュベックとの癒着等々物凄い悪事が明らかになって行く事だろう。
うんうん。私達は正しい事をした。胸を張っていい。
こんな奴を相手にするなどばかばかしい事だ。
ほんのちょっといい人だって思った。
ほんのちょっとこの人ならと思った。
でも、そんなのただの気のせいだったんだから。
そこにメルディが走り寄って来た。
「お嬢様無事ですか?」
ああ、メルディ。
ほっと息をついた。
すでにタクト兄様がロドミール伯爵を捕らえることは分かった。もうここに用はないと判断した。
「じゃ、私もう帰ります。では、失礼」
ロベルト様に挨拶だけはとそう言った。そしてすぐにメルディに話しかけた。
もう、あなたに用はないわとばかりに顔を背けた。
アイスやグンネルやボリを呼ぶと”もちろん”と嬉しそうに駆け寄ってくれた。
そう、私にはたくさんの信頼できる仲間がいる。
ロベルト様はただの任務対象者に過ぎないのだから気にしなくていい。
そう思うけどなぜかものすごく寂しい気がした。
こんなのすぐに忘れる。
そうに決まっているわ。




