24ルシアの身代わりがアンドレア?俺は聞いてないぞ(ロベルト)
俺が今にも屋敷に飛び込もうとした時騎乗した男と馬車が見えた。
「エークランド辺境伯!人が来た。おい、みんな隠れろ!」
そう指示を出したのはもちろん騎士隊長のバッカロだった。
俺はつんのめりそうになりながら急いで庭の木の陰に走り込んだ。
砂煙を上げて走って来た男は素早く馬から下りて屋敷の周りを取り込んだ。
そこに馬車から下りて来たのはレーラだった。
「わかってるわね?」
レーラは意味深な笑みを浮かべている。
男は銀色のマントを羽織っていた。
俺はギシリと奥歯を噛みしめた。
クッソ!もっと早く踏み込んでおけば良かった。
きっとレーラの奴、何かする気だ?
屋敷の周りには俺の雇った仲間が隠れていてバッカロも反対側の木の陰に隠れていた。
どうする?今出て行くのが得策か迷う。
すると銀色のマントをつけた男が詠唱をし始めた。
咄嗟に身の危険を感じて身を伏せる。
辺りに白い霧が立ち込めて行く。
仲間が一人また一人倒れて行く。バッカロでさえ。
俺は近くの仲間に駆け寄って様子を見る。
よく見ると眠っている。
すると今度は黒い霧が沸き上がって来た。
銀色のマントの男が何やら呟いているがはっきりとは聞き取れなかった。
俺の身体はこういう魔力に耐性があるらしくほとんど眠気を感じない。それでも何だか身体が気だるく感じる。
これは相当強い魔力を持った奴の仕業に違いない。
俺達を眠らせてどうする気だ?そう思っていると今度は眠っていた仲間がいきなり起き上がり歩き始めた。
男たちは屋敷に向かって進んでいく。
俺は焦った。思わず声を上げる。
「おい、どうした?止まれ!どこに行くんだ?」
俺は男たちを力ずくで止めようとするが掴んだ腕を振り払うとまた前に進もうとする。
そして男たちは屋敷になだれ込んでいく。もちろんバッカロもウルクもだ。
中にはロドミール伯爵の手のものがいるのに?
俺はどうしたものかと立ち尽くしていると中で大きな音がし始めた。
俺は急いで屋敷の中に飛び込んだ。
中では数人の男達が剣を振り回し戦っている。
「おい、女はどこだ?」
俺はあの女性を救い出すのが先決だと女の居場所を聞く。
「ロベルトか?女は心配ない。こいつらはなんだ?」
ボリが声を張り上げた。
「わからん。いきなり白い霧に包まれて眠ってその後黒い霧で覚醒した」
「多分催眠暗示にかかっている。こいつらはお前の仲間か?」
また別の男が聞いた。かなり大きな男だ。
「ああ、そうだ!」
「俺達も仲間だ。ルシアを救出した後男たちはやっつけた」
「じゃあ、身代わりになった女性は無事なんだな?」
「ああ、心配ない。取りあえずこいつらを」
がたいのでかい男とやけに顔のいい男が声をかけて来た。
仲間のはずの男達が逆に仲間を襲うと言う全く予想もしなかった展開になっている。
「ルシアがいたぞ」
1人の野郎が叫んだ。
その声に反応して暗示にかかっている男たちが声のした方に一斉に押し寄せる。
「きゃぁ~こんなに来られたら‥いや、やめて‥アイス助けて!」
女性の声がしたと思ったら。
現れたのはアンドレアだった。
「アンドレア!?どうして君が?」
驚いて声が裏返る。
「‥ロベルト?‥やっ!放して!もぉ!」
アンドレアは一斉に野郎に取り囲まれる。
「お嬢様~早く外に」
別の女性がアンドレアを助けようとしている。
俺は踏み込んでアンドレアを助けようとした瞬間。
「「「アンドレア。任せろ!」」」
男たちの身体に異変が起きた。
数人が凍り付いた。
数人がかゆがって悶え始めた。
数人が床から板が目り上がって男と取り囲んだ。
アイスが。ボリが。グンネルがいた。
「アンドレア!」
その隙に俺はアンドレアを抱き上げて屋敷の外に飛び出た。
「大丈夫か?」
「もう、あんな一度に来るなんて卑怯よ。私の暗示だって限界があるんだから!!」
アンドレアはまだ興奮していて息巻いている。
そんな事より彼女が無事かどうか心配でたまらない。
そっと屋敷の木の陰に下ろすと一番に聞いた。
「アンドレア?怪我はないか?」
やっとアンドレアがハッと俺を見た。
「ロベルト‥様?どうしてここに?」
「アンドレアこそどうしてここに?」
「どうしてって私がルシアさんの身代わりに‥」
何せ興奮しているらしくつらつら本当のことを話しているらしい。
「アンドレアが身代わりだったのか?どうしてそんな危険なことをしたんだ?」
「だって、私なら敵にルシアさんって思わせれるじゃない。あいつらが現れるまで完璧だったのよ。そりゃあいつらの慰み者になりそうになったけど」
俺はそれを聞いて怒りが猛烈に湧き起こった。
アンドレアの肩を掴んで身体を揺すった。
「慰み者?まさかアンドレアあいつらに?」
「もう、そんなわけないじゃない。アイスもいたしちゃんと守ってくれたわ。アイスったらそりゃもう恐いくらい怒ってあいつら全身氷漬けになったの。ふふっ‥」
「まったく!君のお転婆にもほどがある。ルシアの身代わりになるなんて‥」
「だって、私が一番適任「俺がそんな危険なことをして欲しいって言ったか?」どうしてロベルトが言うのよ!」
「ルシアは俺の異母妹だ。助けるのは俺だ。それなのに余計なことをして俺の殺す気か?」
俺はたまらずアンドレアが心配だった。それに腹立たしい。
心臓はバクバク脈打ち心拍数は急上昇した。だが、どうして?
肩を掴まれていたアンドレアはぐっと起き上がってその手をどかせた。そして真正面から俺を見据える。
「ロベルト様。これは私の仕事なの。それをあなたにとやかく言われる筋合いはないと思うわ。だってお父様だって許している事なのよ!」
「誰も助けてくれと言ってないだろう?心配しなくてもルシアはちゃんと俺が助けるつもりだった。なのに勝手なことをして!」
危険な目に合わせたと思う反面勝手なことをしてと腹が立った。
アンドレアはすっと立ち上がった。
「悪かったわね。勝手なことをして」
さっきの女性が走って来た。
「お嬢様無事ですか?」
「ええ、メルディ」
アンドレアはほっと息を吐いたように見えた。
「さあ、ルシアさんは無事だし取引もする必要もないと思うわ。これですべて解決。後タクト兄様がロドミール伯爵を捕らえるたはずだから」
彼女にそう話す。そして俺の方を向いて礼をした。
「じゃ、私もう帰ります。では失礼」
その顔は少し強張っていて儀礼的な挨拶だと感じた。
アンドレはその場をさっと立ち去って行きながらその女性の方に顔を向けた。
どんな顔をしたのかはわからなかった。
「メルディありがとう。私は大丈夫よ。さあ、帰りましょうか」
「ですね。すでにタクト様がお見えですので私達は帰ってもいいかと」
アンドレアの声は俺に浴びせた声とは全く違いものすごく柔らかかった。
「ええ、グンネル。アイス。ボリ行けそう?」
視線を走らせれば屋敷から数人がアンドレアの元に走って来た。
「「「もちろん!」」」
アンドレア達は走り去っていった。
去って行くアンドレアから立ち上る冷たい気配に俺の背すじを凍らせた。
待て。俺はとんでもないことを言ったんじゃ?
アンドレアを相当怒らせたんじゃ?
いや、違うんだ。俺はただ君が心配で。
心臓が止まりそうなほど恐かった。
君に何かあったらと思ったら。
「違うんだ!アンドレア待ってくれ!」
俺の言葉は空しく掻き消えた。




