20俺がやる(ロベルト)
そしてその夜遅くにティートン侯爵家から遣いが来た。
男はボリと名乗った。
ルシアを無事に保護したと聞いて俺は安心して脚の力が抜けた。
「だったら取引はなしに?今日の午後ロドミール伯爵の使いが来て取引すると言ったんだが」と聞いた。
「ご安心ください。ルシア様は無事です。ルシア様が捕らえられていた場所には身代わりがいてロドミール伯爵にはルシアさんを助け出したことは知られていません。監察局長は、このまま取引をすると見せかけてロドミール伯爵を摘発したいとお考えです。ですので明日の朝一番に取引を持ち掛けてもらいたいと」
「それはいいが、俺はルシアに合わせろと言ってしまったが大丈夫なのか?」
「はい,ルシア様が救い出されたことはばれていませんので、ですがあまり時間をかけるわけには行かないかと」
「わかった。今夜にもロドミール伯爵に連絡を取って明日取引をするようにする。身代わりの女性も救わなくてはならないんだろう?だったら通行許可証と代わりにすればいいんじゃないのか?」
「まあ、話しの展開としてはその方が怪しまれないかと。では、時間が決まり次第知らせて下さい。見張りがいますので書斎の窓から白い布を出して頂ければこちらから伺います」
「見張り?」
思わず自分の疑われているのかと勘繰る。
「この屋敷の皆さんの安全確保のためです。危害はありません」
「わかった。そうだ。アンドレアはどうしているだろう?」
ルシアの無事が分かった途端アンドレアの顔が脳内に浮かんだ。
楽しそうに笑う顔は俺の心を癒してくれる。思い出せば胸がじわりと熱くなり、あれ?俺アンドレアにときめいてるんじゃ?と思った。
実際彼女との時間はすごく楽しくて別れるのが辛った。
女性にこんな気持ちになるのは初めてかも知れない。
俺はピクセンから治癒魔法をかけてもらった事を思い出す。
もしかして呪いが解けたのか?
だがレーラは呪いの事など言っていなかったな?やはり呪いは嘘かも知れない。
俺は何だかそう思った。
今までどんな女にも魅力を感じなかったのはただ単に俺の好みの女がいなかったと言うだけではと思い始めていた。
ふと振り返るとボリと言った男の顔が曇った。
一瞬悪い予感がした。
「もしかしてアンドレアに何かあったのか?」
「いえ、お嬢様は無事です。ご安心ください」
辺境で培った勘は伊達ではない。何かあったと思った。
「そんなごまかしが通用すると?本当のことを言え!」
「エークランド辺境伯。あなたには関係のない事です。これはティートン侯爵家、内内の事」
「俺は婚約者候補なんだぞ。もし結婚すればもう他人ではない!」
「ですが、結婚はまだ‥」
「もういい。とにかくアンドレアは無事なんだな?」
「はい、ご安心ください」
「わかった。今は取引が最優先だ。それが終わったら一度ティートン侯爵に話があると伝えてくれ!」
俺はせっかくルシアの無事を伝えに来てくれた従者に失礼なことをしたと思い直しその場を収めた。
執事のウルクが帰って来た。
ウルクはロドミール伯爵の経営する商会の倉庫を調べたらしい。倉庫の中までは確かめる事が出来なかったが荷物がたくさん山積みされているようで周りにはたくさんの馬車と傭兵のような奴がいたと報告があった。
どうやら通行許可証を手に入れたらすぐにでもメルリア国に向かうつもりらしい。
そんな事させてたまるか!
それにしてもルシアの身代わりになった女性に何もなければいいが‥
まんじりともせずに夜を明かすと俺は翌朝早くにロドミール伯爵家に使者を送り午後2時に取引をするやくそくをとりつけた。
前日こんな事もあろうかとウルクに腕の立つ奴を十人ほど揃えるように指示を出しておいてよかった。
ティートン侯爵にこれ以上迷惑はかけられない。
俺が責任をもって身代わりの女性を助けて見せる。
何、俺だって腕には自信がある。
ウルクも元は騎士隊にいて腕は確かだし俺が声を掛ければ十人くらいの手練れはすぐに用意できるからな。
悪いが知らせる気はない。




