13ロベルト様は悪い人なの?
私は気晴らしにさっきのおじさんたちを相手にカードゲームをした。
何しろ暗示にかけているので連勝だったがロベルト様の事をちらちら気にしながらカードをした。
だってもしかしたらロベルト様が悪い人でロドミール伯爵と繋がっていて一緒に後ろめたい相談でもしているかもしれないのだ。
今回の調査でそれがはっきりするはず。
もしもロベルト様がロドミール伯爵と繋がっていたら‥そう思うと訳の分からない恐怖を感じた。
もう、どうかしてる。
彼はあくまでも調査対象であって私はあんな人に気を寄せたりするはずがないじゃない。
彼が悪いことをしてたならそれなりの処罰になって私とは関係なくなって‥
ああ、もう!
イライラしながらロベルト様が出てくるのを待つ。
散々おじさんたちは負けが込んで大文句を言われてとうとうお開きになった。
チップを換金するとかなりの額になった。
席に着くとボーイが近付いてきた。
アイスだ。
彼は変装してクラブのボーイとして潜り込んだらしい。
私はワインを注文する。
「どう?調子は」
「お嬢がアントニーに暗示をかけたんです?あいつ必死で話を聞いてますけど‥ククッ、全部覚えるの無理だと思いますよ」
部屋の盗聴をしているらしい。ボリがその話を録音しているので安心してと教えてくれた。
「もう、そろそろ話しは終わるはずです。お嬢はもう帰った方がいい。もし、あいつが引き留めたるようなら一人でここを出て下さい。いいですね」
「ええ、わかった」
私はアイスの指示に従う。それで結果は?聞きたいけど我慢した。
しばらくするとロベルト様が奥の部屋から出て来た。かなり込み入った話だったのか眉間に皺を寄せていた。
私は彼を見つけて手を上げた。
「やあ、おまたせ」
難しそうな顔がすっと笑顔になる。
ああ、もう。何なのよ!
「いいえ、何か困った事でも?」
私はわざと心配そうなふりをする。
「いや、妹の具合が悪いと聞いたからだ」
「まあ、それで具合はどうなんです?」
「ああ、そこまで心配ないそうだ。安心してアンドレア。待たせて悪かったな。どうするまだ飲むか?」
「いえ、そろそろ帰りたいと‥待ってる間に」
私ははち切れそうになった革の小さなバッグを見せた。
「いいかもだったんだな?そんなに勝ったなら何か言われなかったか?」
ロベルト様はきょろきょろ周りを見回した。
カウンター席にさっきのおじさんが座ってちびちびウイスキーを飲んでいる。
「ここは高級会員クラブですから皆さん紳士ばかりですわ」
ロベルト様がそこでふっと笑みをこぼして「ああ、そうだな。みんな紳士的な奴らばかりだ。さあ、帰ろうかアンドレア」
「ええ、楽しかったですわ。帰る前にちょっとお花摘みに」
私はそう言ってアントニーから話を聞きだした。
アイスの予想通りアンソニーはロベルトの妹が病気でどこかの診療所に入っているがロドミール伯爵は妹を助けたければ通行証を使わせろと言っていると話をした。
だが、話しのつじつまが合わず通行証が何のためか妹が危険なのかちっともわからなかった。
ただ、わかったのはロドミール伯爵が何か悪だくみをしているらしいと言う事。
「役立たず!もう、頼んだことは忘れていいわ。仕事頑張って」
私はアンソニーにそれだけ言うと急いでロベルト様の所に戻った。
きっとロベルト様は内心穏やかでないはずだがきちんと私をタウンハウスまで送り届けてくれた。
もちろんボリとアイスも帰りの警護も怠ってはいなかった。
馬車の中で彼はやっぱり妹さんの事が心配なのか何もしゃべらなかった。私も話をする気になれなかった。
私の不安は想像以上に加速して帰った時にはかなり胃がキリキリしていた。
私は自宅に帰るとすぐにアイスとボリにロベルト様とロドミール伯爵の会話を聞かせて欲しいと言った。
この会話を聞けばロベルト様とロドミール伯爵が繋がっているかはっきりわかるのだ。
録音された内容はこうだった。
ロベルト様の妹ルシア様は数か月前にロドミール伯爵と結婚しているが、ロドミール伯爵が彼女と結婚した目的は辺境伯が発行できる国境通行許可証だった。
辺境伯領はメルリア国とは陸続き、あちらの辺境伯とは親しい間柄で交易もあるのでそういう許可証の発行が許されている。
どうやら彼はメルリア国に違法薬物や禁止されている酒を持ち込むつもりらしい。
メルリア国はもちろん違法薬物は禁止しているが特にお酒に厳しい国だ。
10年ほど前に国王が変わって酒は国の販売許可がない限り取り扱いは禁止になった。
何でもアルコール依存症の人がたくさんいて問題が起き酒の販売を国が管理するようになったらしい。
そんな国に酒を持ち込めば高額で売れるに決まっている。但し闇ルートになるだろうが‥
それにそんな事をこの国の貴族したと分かれば国際問題にもなりかねない。下手をすると戦争にもなりうる。
ロドミール伯爵許せない。
おまけにルシアさんが薬物を投与されて動けなくされている事もわかった。
自分の妻にそんなひどいことをするなんて!!
こうなったら一刻も早くルシアさんを救い出さなければならない。
「アイス急がないと!ルシア様が危険よ」
私は驚きと心配でそう言った。
アイスは慎重な人だった。
「お嬢。いいですか。今のところロベルト様はロドミール伯爵と関係を持っていないと思われますがまだ確定ではありませんよ。ここは慎重に行動しないと‥」
だけど、私は彼がそんな人ではないと感じた。
「何言ってるのよ!彼が関係を持っていればルシア様を拘束して脅す必要はないじゃない!」
「ですが、ひょっとしたら私たちの動きが読まれていて反対に私達をおびき出すためかも知れません」と言った。
「例えそうだとしても彼女を助けなきゃ!」
私は事の状況を父にすぐに報告した。
父は私をアイスの言い分を聞いていたがすぐにグンネルに指示を出した。
きっとすぐにルシア様の救出に動いてくれるはずロベルト様に私の素性がばれるのは仕方がないけど大切なルシア様の命には替えられない。
これで任務は終了ね。
そう思うと急に胸の奥の一部が締め付けられた。
捜査対象にこんな気持ちになってはいけないのに。あいつとは出会いからおかしい。
まったく!




