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1. 夢と雪

「……寒いね。」


冬の夜はいつも寒いものだ。

しかも雪が降る日はなおさらだ。

傘をさしても足先が濡れて何か気分も悪くなる。

しかし、この傘さえなければ、そのまま風邪をひくところだった。


「はくしょん!」


もしかしたら、すでにかかっているかもしれないし。


風まで吹いていたら耐えられず、そのままカフェに入って体を温めたはずだ。

しかし、そのような状況は現れなかった。

激しい風が吹かなかったわけではなかったが、それ以上に見逃せなかった何かを見たからだ。


学校のヒロイン。 佐山夢(さやまゆめ)を指す言葉だった。

成績は校内最上位圏、社交性と性格まで良い学校の美少女。

文字通り「みんなのヒロイン」という言葉がふさわしい人だ。

みんなに優しい彼女を嫌う人は見たことがなく、男子学生ならみんな心に抱いているはずだった。


(私には関係ないことだけど。)


もちろん彼女が嫌いなわけではない。 私にもたまによくしてくれるから悪い感情はない。

ただ、何も考えないだけだった。

うまくやってみるつもりもなかったし、この子と絡むと何か面倒になりそうだったので、ただじっとしていた。

いくら隣の家に住んでいるとしても、たまに会えば挨拶をするだけだった。

それもいつもあっちから先に。

あの子がいる世界は別世界の話だ」と自分を肯定するだけだった。

そのような美少女がすぐ隣の家であっても、それは別世界に過ぎなかった。


そんな彼女が私の目に入った。

バス停に目を盗んで座っていた。

その時までは何も考えられなかった。 普通に帰るバスがこっちの方向なんだ··· 思うばかりだった。

強い風のせいなのか、それともよくない停留所の屋根のせいなのか。

佐山夢は座って、そのまま雪に打たれていた。

その姿があまりにも美しくて、どうしてみんな彼女が好きなのか分かる気がした。


目には目と涙、その境界にある何かが結ばれていた。

その姿を見守り続け、佐山夢は虚空に向かって手を伸ばした。

雪が彼女の手に落ち、すぐに溶け出した。

それでも彼女はずっと何かを望んでいた。

近くでそれを見守っている私に気づかないまま。

その姿はまるで漫画の中のヒロインが悲しい結末を迎えた時の姿のようだった。


「…大丈夫?」


関与しようとしなかったが、おのずと身が佐山夢に向かった。

そして一番先に出た言葉は他でもない「大丈夫?」だった。

もう少し素敵な言葉が出ることもできたようだが、このような状況が初めての私が憎かった。

しかし、近くで見た彼女の表情は今にも泣き出しそうだった。


そんな彼女に一応つけていた傘を渡した。

私はたとえ隣に住む、このヒロインに関わらなかった人でも、何かしなければならないような気がした。


「そうしていたら風邪ひくよ。 別に返さなくてもいい」


傘をそっと受け取った佐山夢の姿は本当に漫画の中のヒロインのようだった。

この場面を他の誰かに見つかれば、その日のうちに私は死刑執行だろう。

それで、誰かが見る前に急いで足を向けた。

そんな私の姿を、佐山は何も言わずに見つめた。


「…君も早く家に帰れ」


こうしてヒロインとの短い出会いは終わった。

頭がくらくらすることで、体の調子があまりよくないようだ。

やっぱり風邪に引いたのかな?


その時、私の服の袖を誰かが引っ張った。


「……?」

「…風邪をひくよ。」


正体は佐山夢だった。

バス停からまっすぐ飛び出したようだった。

あえいでいるところを見ると、ずいぶん急いでいたようだ。


「…傘はどうしたの?」

「…あ。」


どんなに急いでいたら傘をさすことも忘れたのだろうか。

ただ、彼女がこんなに走ってくる理由がなかなか分からなかった。

雪は依然として強く降っていた。

冬の風が私たちを怒鳴りつけた。


「…寒いね。」

「ひ, ひとまず帰ろう!」

「どこへ?」

「えっと··· 停留所へ!」


いつ悲しい顔をしたかのように、彼女の顔は再び普段の明るい姿に戻っていた。

どこか不器用に見える姿が少しは面白かった。


そうしてまた歩いて傘を置き忘れた停留所に戻った。

相変わらず傘はそこにそのままあった。

安堵のため息をつく佐山夢だった。


「どうしたの?」

「傘、誰かが持っていかなくてよかった」

「持って行っても構わないじゃないか。 新しく手に入れればいいし」

「でも、君がくれたんじゃないか。」


人違いなことを平気で言う彼女だった。

もちろん、この言葉に何の意味もないということを私はよく知っていた。

ただ礼儀上、知らない人に与える親切に過ぎなかった。


「誰にでもあげられるものだった。 別に意味は持たなくてもいい」

「…そうなんだ。」


そのようにお互いに何も言わずに停留場に座って目を避けた。

雪を避けるにはもっといい場所も多かっただろうが、なぜか停留所だった。

もちろん、このように全部濡れた形でカフェやコンビニに入るわけにはいきませんから。

幸い雪は徐々にやんでいった。


「じゃ、私はもう行くよ。 雪もやんだから。」

「ちょ、ちょっと···!」

「さっきも言ったけど、傘は返さなくていいよ。」


少しずつ降る雪を後にして停留場から出た。

そんな私をまた引き止める佐山だった。

何かあったのか、もう一度振り返ってみた。


「星空··· だよね?」


お城は知っていてそれでも幸いだと思った。


星空雪(ほしぞらゆき)

ユニークな名前ではあるが、校内で私の名前を知っている人はほとんどいなかった。

したって担任の先生に友達のアキとその彼女ぐらい?

クラスはもちろん、学校でも静かに歩き回るので、名前どころか正体すら知らない人が大半だった。


佐山夢は手を私の額に当てた。

とても冷たかった。

私の様子を見た佐山は、不機嫌そうな顔をした。


「…今、大丈夫じゃないよね?」

「…家に帰って薬を飲めばよくなるだろう。」

「看病してくれる人はいるの?」


自炊する人にそんな人がいるはずが···.

佐山は傘を広げて私に傘を差してくれた。

いつの間にか二人で傘をさすようになった。


「…これでも大丈夫?」

「うん?何が?」

「いや、あの··· 違う」


全く分からないという純粋な目つきに、どうしても何も言えなかった。

正体不明の男子生徒と学校のヒロインが一緒に傘をさしていたことがバレたら、ちょっと困ると思うんだけど。

佐山は特に気にしていないようだった。

それとも意識すらしていないか。


「はくしょん!」


訳もなく私だけ気にしているようで自然にくしゃみが出た。

それでもまあ··· 傘まではかぶせてあげることができるよ。

行く道も同じだから。

それでも、もうこれ以上絡むことはないだろう。


お互いに何も言わずに家に帰るだけだった。

私たちはそんな仲だ。

ただ隣の家··· それで終わりだ。


刹那の絆もこれで終了。

数奇だったが、一瞬でも面白いことだったと思う。

明日にはまた何事もなかった日常に戻るだろう。


…少なくともその時はそう思った。


何か反応でもつけてくれたら頑張るかも?

ご感想をお寄せいただければ、大変嬉しいです。

よろしくお願いします!

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