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13 運動会の種目

 舞踏会から2週間が経ち、私と上月くんはあれからメッセージアプリで少し会話するだけだったが、順調に交際契約は続いている。

 そして今日の午後のホームルームでは、1週間後に行われる運動会の出場種目が決められようとしていた。


「それでは、以上で決定したいと思います」


 学級委員長がそう宣言し、私は女子騎馬戦の騎手に決まった。

 私はあまり運動が出来る方ではないためリレーなどの選手には選ばれなかったが、しかし誰しもに活躍の機会を与えたいとの方針で、私は女子騎馬戦の騎手の一人に決まったのだ。


 正直言って余り自信はない。

 ないのだが、私の下で騎馬役になってくれる生徒次第で勝てるのではと安直に考えている。


 ホームルームが終わり、リレーの第2走者に選ばれた文音が「私にリレーなんてできるかなぁ」と心配を吐露した。


「文音なら大丈夫ですよ。体育の授業でも陸上部の佐々木さんに負けず劣らずだったではないですか」


 私がそう文音を勇気付けると、文音が「あのときはたまたま調子が良かっただけだってば……」と私の肩をぽんと叩いた。


「碧は騎馬戦でしょ? 頑張んなよ~後輩女子に負けないでね!」

「はい。できる限り頑張ります」


 運動会は1~3年生混合で赤と白に分かれて戦うのだ。

 だから後輩女子を相手に戦うこともあり得る。

 私の脳裏をいつものように下月都恋ちゃんが掠める。


「下月さんと戦うことにならないと良いのですが……」


 私はぽつりと呟いた。


 放課後となり、私は上月くんと連絡を取って会うことにした。

 交際契約はきっちり履行しなければならない。

 メッセージを送る。


「上月くん、今日よろしければお会いしませんか?」


 返事は早くも返ってきた。


「はい。僕もお会いしたいと思ってました。これから校門で構いませんか?」


 私はその誘いに「はい。構いません」とだけ返すと、校門へと急いだ。


 校門へ着くと、まだ上月くんは来ていないらしかった。

 私は校舎が見える位置に立つと、校門を背に寄りかかる。

 そうして10分ほど待つが、しかし上月くんが来ない。

 舞踏会後だからだろうか、交際しているであろう男女が連れ立って下校していく。

 そんな中、ひとりぽつんと待たされる私はさぞ不憫に見えるだろう。


「何かあったのでしょうか?」


 私がそう呟いてスマホを開いたときだった。


「ごめーん藤堂さん!」


 遠くからそんな声が聞こえて顔を上げると、下月都恋ちゃんを連れた上月くんが彼女を引っ張るようにこちらへとやってきた。

 私の前にたどり着いた上月くんが自身の額の汗を拭うと言った。


「ごめん藤堂さん遅くなって。都恋がどうしても行かせないって駄々をこねるものだから……」

「駄々をこねるだなんて……! 私は当然のことを言っているまでです。舞踏会では単位の為だからと零一さんを涙をのんでお貸ししましたが、私、藤堂さんとの交際を認めた覚えはありません!」

「こう言っててさ……。都恋、僕たちはほら、コンキン! アプリ上でもきちんと結ばれてて交際関係にあるんだよ」


 そう言ってスマホ画面を提示する上月くん。

 その画面には確かに私、藤堂碧と上月零一くんとがパートナーであることが表示されている。


「それはですから、単位のためでしょう? 私、藤堂碧さんが単位のためにと多数の男子生徒に交際を迫っていたって話を聞きましてよ!」


 ばっと右手を切るように胸のあたりから右方向へ移動させる下月さんは、自信満々で私を睨みつけた。


「それは……藤堂さんも単位が取れそうになくて焦っていただけさ。現にほら藤堂さんはプロフィールにこうして、結婚を前提としたお付き合いであることとか、婚前交渉否定派なことまで書いてあるじゃないか。真っ当なお付き合いを望んでいたからこそ断られ続けていたんだよ! 単に単位が欲しいだけならこんなこと書かないだろう?」


 上月くんが私を擁護すると、「ぐ……それは、そうかもしれませんが……」と都恋ちゃんが勢いを減じる。

 上月くんがそこへ畳み掛ける。


「それに僕らは舞踏会の日にこれからも交際を続けていこうって話をしたんだ。

 都恋もいい加減に僕のことは諦めて、他の男子を探してくれよ……!」


 言い切る上月くん。都恋ちゃんは恐ろしいものでも見るかのような目つきになると、


「そんな……! 酷いですわ零一さん」


 とだけ言った。

 上月くんは話は終わったとばかりに私に向き直ると、


「さぁ、行こうか藤堂さん」


 と私の肩を押した。


「はい。お話が済んだようでしたら……」

「もう話は終わりさ……さぁ」


 と私が歩くのを促したので、私はそれに従うことにした。

 都恋ちゃんを残し、私達は前回と同じハンバーガーショップへと向かった。

 私達が校門をでて5秒ほど後、


「許しませんわ……!」


 背後でそんな叫び声が聞こえた。


 私と上月くんの二人は都恋ちゃんをまいた後、ハンバーガーショップで近況や運動会のお互いの担当種目について話したのみで、他に特に話すこともなく、30分ほどでバーガーショップを出た。

 デートとも言えないような事務的会話に、私達は本当に交際しているのだろうかと若干の疑問を感じなくもなかったが、私達二人にとってはこれが良いペースに思えた。


「上月くんも私も結婚を前提としたお付き合いを希望しているのですし、これはあくまで交際契約なのですから、なにも急ぐことはありません……!」


 帰り道でそう独り言を漏らす私。

 交際契約は順調だ。

 都恋ちゃんは上月くんが上手く窘めてくれている。


 私は上月くんが少し頼もしく思えて、なんだか軽い足取りで自宅への帰路を歩いた。

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