出会い
文章量が多いのは初回、だからだよなぁああ?!(テンションおかしい)
こんな文章量での月一は約束できんからな?
二学期初めての朝のSHRが始まる数分前には全員座っていた。ただいつもはそこまで騒がしくはないのだが、今日に限ってはかなり騒がしくなっている。そりゃあ先生の隣に白髪の少女がいれば騒がしくもなる。
「今学期から来ることになった転校生を紹介するぞ~。じゃあ軽く自己紹介してくれ。」
「みなさんこんにちは。川上さくらです。好きなことはお花を見ることです。これからよろしくお願いします。」
転校生にしてはおかしい時期だ。まず、今学期は転校には向かない時期だと思う。行事が沢山あって馴染めていない状況では楽しめるものも楽しめなくなってしまう。第一、高校生になってすぐに転校することなんてそうそうない。転校して来るということはそれなりに理由があるはずだ。実際に目にしているのでこれが現実だということは疑わないが。
「席は一番右後ろだ。」
先生が川上さんの席を言う。自分の席は一番左後ろだ。異性の転校生が自分の席の隣に来るなんて言う物語的な展開はそうそうない。まず自分には主人公になる資質すらないかもしれない。自分が自分の立場を理解できていないような人には。自分か陽キャか陰キャかと言われると分からなくなる。僕は小さい頃から静かに生きてきたから陰キャに入るのだろうか。一般人程度のコミュ力はあるので陰キャではないが、学校一の陽キャグループと言われている人達のように騒いでいるかと言えばそうではない。まぁ、こんなことを考えても自分は変わらず死んでいく。
「川上のことも気になると思うが、もうそろそろ始業式だから静かにしろ。今日は雨だからオンラインでの実施だ。」
新学期早々気が滅入るような土砂降りだ。隣の子のペンケースについているてるてる坊主はまるで効果をなしていない。あと、転校初日からこんな雨の中登校してきた彼女にはご愁傷さまですとしか言いようがない。まぁ、手続きなどで、今日以外にも学校に来たことはあるかもしれないが。けれども夏休みの間に彼女が学校に来ていたという噂は聞いていない。夏休み中も部活はあったので目撃情報の一つぐらいあってもよいと思う。そんなどうでもいいことを考えていたら始業式が終わっていた。
「しっかりと今学期も全員の顔を見れてうれしく思う。特に何もなかったようで何よりだ。連絡だが、今週一杯は午前のみだ。残っている登校日は明日のみだがな。恨むなら木曜日に始業式を設定したお偉いさんを恨んでくれ。明日は学期初めのテストをみっちり四時間やってもらう。そんなに嬉しそうな顔をしないで欲しいね。もちろん赤点には補習が待っている。夏休み中に勉強をしなかった奴はもうすでに手遅れかもしれないが頑張ってくれ。あぁ。あと川本、今日の放課後手伝ってほしいことがある。」
呼ばれたということは何らかのパソコンのトラブルがあったのだろう。去年も担任だったのだが、機械関係で困っていたところを助けたらそれからというものずっと頼るようになってきた。時々これまでどうやって生活してきたんだろうと言うことを聞いてくる。例えばWi-Fiの繋げ方などだ。今まであまり機械に触れずに生きてきたのだろう。学校で電子機器に触らなければならない場面が出てきたから渋々使っているのだろう。学校にも近代化の波が来ているのだ。ちなみに今日は完全にフリーズしてしまった時にはどうすればよいかというものだった。位置から説明するのは面倒なのでさっさと終わらせてしまった。先生には説明するのは難しいので今後は機械に強い先生を頼ってくれといったようなことを伝えておいた。ほとんど起きるはずがないエラーが起きていた。存在自体は知っていたのだが、初めて見た。サイバー攻撃でも受けない限り出ることはないエラーを吐いていた。直すのに手間取ってしまって時間がかかった。
「雨、止まなかったか。」
朝からずっと降っているからもうそろそろ止んでもいいと思うのだが。雨を見るのは楽しいが、雨の中を歩かなければならないのは嫌だ。そんな僕の要望とは裏腹にどんどん雨足は強まって行く。スマホで確認もしたがこれからどんどん強くなるみたいだ。
もうそろそろ学校を出なければならない。こんな人の気配のない学校は初めてだ。僕以外に人はいない―――わけでもないようだ。転校生、川上さくらさんがまだいる。早朝は雨は降っていなかった。登校初日だから早く来たと言う所だろうか。もうそろそろ学校を出なければならないと言うことを伝えるだけと言うのは酷な話だろう。第一、それだけで帰ったと言うことを後から関係のない奴らに言われる方が嫌だ。
「――おーい。」
どうやら聞こえていなかったようだ。聞こえる距離だと思ったが、雨の音で聞こえなかったのだろうか。傘を差さずに行ってしまった。とりあえずダッシュで追いかけるが、向こうも駆け足なのか全然追いつけない。そういえば走って行く先にちょっとした段差があるはずだ。通学路なのでしっかりと覚えている。雨で視界が悪くても分かる。
「――危ない―――」
どうやら少し遅かったみたいだ。ここら辺は車が少ないから轢かれることはないだろう。車が少ないのはこの段差があるからなのだが。結局段差が無ければよかったのにと思ってしまう。
とりあえずもう既に意味はないと思うが、傘を彼女のいる方に傾けておく。これが水も滴るいい女的なやつなのだろうか?そんな気はないが。
「大丈夫?怪我はない?」
先程より大きな声、近い距離での会話だ。多分聞こえているだろう。それにしても派手なこけ方だった。多分顔からだろう。
「…ありがとうございます。心配してくださって。」
一応クラスメイトなのだが。敬語だと接し方をどうすればいいか迷ってしまう。結構顔に傷がついてしまっている。治るといいのだが…。他に傷はないかな?とりあえず周りから見える範囲で探してみる。…?今まで、髪が長いから気づいていなかったが今は雨で髪が濡れているのと、上を向いているのも相まってか、よく耳が見える。一瞬イヤホンかと思ったがこれが補聴器だったのならば先ほど聞こえなかったのにも頷ける。が、今は気にせずにけがを探してゆく。
「それにしても激しく転んだねぇ…。―――歩ける?」
「…はい。多分―――っ!?」
立とうとした瞬間にこけかける。力が入らなかったというよりかは痛みで立てなかったのだろう。力が入らないならまず立ち上がろうとすることも出来ない。全体的な擦り傷、打撲に加えて捻挫。どうすればよいのだろうか。負ぶっていくということも考えたが体格的に無理だと判断した。決して僕が小柄なわけではない…というと彼女に失礼かもしれない。そうだ。僕が小柄すぎて高校生の中でも小柄で多分華奢な彼女を運べる気がしないのだ。救急車を呼ぶほどでもない気がする。あくまで素人判断だが。こういう時は本人の意見を聞くべきだ。
「救急車呼ぶ?」
「…いや、大丈夫です。」
「ちなみに一人で置いていけないよ。僕も一応男だからね。ここで見捨てたら男が廃るよ。」
…その体形だから男も何もないのではという意見は一切受け付けておりません。男は男なの。彼女はまだだんまりを決め込んでいる。風邪を引かせる気ですかね。実際はそんなこと考えてないだろうけど。
「今考え着く案としては近くの病院に行くくらいかな。」
「――言いにくいんだけどお金を今持ってないんです。」
「あ…。」
完全に失念していた。医療機関を受診するなら保険証の類もあった方がいいし流石に無一文で行って後からどうこう出来るものではない。なんとも世知辛い世の中になったものだ。
「僕の家は電車に乗っていく必要がある。あれ?もしかして君の家に行くしかない…?…荷物とか全部持つからこの傘でも杖代わりにして歩いてくれない?」
「…はい。」
この雨の中じゃあ出歩く人なんてそうそういない。この場面をクラスメイトに見られない確率が高いのは不幸中の幸いなのだろうか。…やっぱり誰か助っ人が欲しいです。小雨ならだれか外で歩いててもおかしくはなかったのにな。嘆いても仕方がない。たとえ始業式だけだったとしても二人分となるとそれなりに重たい。もしかしたら水を吸っているのかもしれないが。中身の無事を願おう。
数十分歩き続けてようやくたどり着いたのは小さめの一軒家だった。
「じゃああとは親に適切な処置でも施してもらってね。」
「…いま一人暮らしなの。」
どうすればいいんだ…。この年で一人暮らしだなんて珍しい。親が単身赴任などでほとんど家にいない疑似一人暮らしの自分に言えた話ではないか。彼女をこのまま置いて行くのは夜の寝つきが悪くなりそうだ。
「医療用品ってある?救急箱とか。」
「多分あります。」
「どこ?」
場所を聞いてみるが聞いたら入らなきゃいけないんだよな。家の中に。できるだけ玄関に近いことを祈ろう。出来ればそこの靴箱の中とかがいい。開くだけで取れるし。だから早くそうと言ってほしい。そうと言ってくれ。早く。
「洗面所の方です…。」
洗面所なだけましか。大抵の家で洗面所は玄関の近くにある。その方が便利だからだ。帰ってきて直ぐに手を洗えるし。二階に作るよりかは配管工事もしやすいだろうし。…現実逃避はここら辺にしておこう。
「入ってもいい?」
「どうぞ…。洗面所はそこのドアです。」
「あと場所って覚えてる?」
「あ、覚えてないです…。」
覚えててくれたら心労も減ったのに。そんな愚痴もこぼしつつ、心の中でお邪魔しますと言って入る。言われたところのドアを開けて入って近くの棚から探して行く。救急箱は洗面器の下にあった。それを見つけるまでの段階で薬――痛み止め類も見つけた。あのこけ方なら痛みも結構あるだろう。
「はいこれ薬ね。鎮痛剤だよ。これ飲んだらお風呂入ってきてくれないかな?上がったら自分で消毒しておいてくれない?多分捻挫は左足だけみたいだしちょっと頑張ってね。その間にドラッグストアに行ってちょっと買ってこなきゃいけない物買ってくるね。鍵、あけっぱにしておくから。」
「え、あ。うん。」
結構傷が広いので包帯でぐるぐる巻きにしたいのだが包帯の量も足りないし、顔に張るために大きめの絆創膏も欲しい。さっと傘と財布だけ荷物の中から取って物品を買いに行く。外は相変わらずの大雨だ。これは明日学校休みになるかもしれないな。道順をスマホで調べたいが水没している可能性があるため、電源は付けれない。学校では電源を落としているし、生きているといいのだが。雨の中なのと道順がわからなかったせいでいつもよりも時間がかかった。彼女の家から行くのは初めてなので実際にそうなのかはわからないが。
今更だがかなりやばいことをしているのではないかと思えてきた。初対面の同年代の異性の家に行ってお風呂に入っておいてと言ってそのまま放置して買い物に行く。簡潔に表すとやばい気がしてきた。ただしちゃんとした理由があるので多分大丈夫だろう。たぶん。目の前でこけた人を無視する人と、僕とどちらがやばいだろうか。…僕な気がしてきた。せめてもの抵抗として放置する時間を短くしよう。帰りは走って帰る。インターホンは押さなくてもいいのか?どうせ帰ってくることも伝えてあるし、何よりも彼女が動くような原因を作るのはよくないと思う。あとものすごく雨が強いので早く入りたい。鍵を開けっ放なしにしておくことは言ってあるからインターホンだけでも意味は分かるか。
さっさと入って行くが玄関にはもういなかった。洗面所の方にも行くがいない。お風呂場から少しだけだけれども熱気は感じるので入ったには入ったのだろう。リビングと思われるドアをノックする。
「入るぞ~。」
数秒待つが返事はない。かなり大きな声を出したし洗面所をさっと見た感じは特にそれらしき影はなかった。返事がないのは自分の中ではこちらの判断に任せる言う意味を持っている。というわけで入らせてもらおう。え…?思いっきり寝てるじゃん。鎮痛剤って眠くならないはずなんだけどな。ちょっと後で箱でも見ておこう。まぁ今のうちにさっさと終わらせてしまおう。寝ている方がやりやすいかと言われたらそんなことはないと思う。あくまで自分の経験の中だけの話だが、施術者側からすると動いてくれた方がやりやすいと思う。こういう軽い処置なら。骨折などの場合は動かないほうがいいかもしれない。時と場合によるというやつだ。…この場面を一瞬だけ見たら完全にアウトなシーンになるだろう。美少女を襲っている男子高校生?…鯖呼んで中学生ぐらいだろうか。それでも事案なことに変わりはない。よーく見れば血がついているので医療行為ということに気づくが。―――いや、逆にやばいシーンに見えるか?
…自分の中で考える方がエロいんだという結論を付けて終わらせる。このままだと自分もその中に入ってしまう。時すでに遅し?そんなことはないと思う。多分。
処置も終わったことだし変えることにする。起こすのも気まずいし。自分の荷物だけ持って帰る。雨は少しだけ弱まった気がする。明日には晴れてるかな。
なんか甘くない?