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湖
渡し守のおじいさんは、眉のひとつも動かすことなく舟を漕いでいます。
「前乗せたのは髑髏だったか」
「まあすてきな先輩ね」
「永遠の命を得る魔術を完成させたんだと。ただ欠陥があったんだ」
「肉体には効かなかったのかしら」
「魔術を完成させたのは、八十を過ぎた頃だった。魔術が発動したのは、それから七年も後だった。その間に先の戦で焼け死んだのよ。ただ骨は欠けずに砂に埋まっていたもんで、命もそこに在ったんだ。永遠の命に変わるまで。そう言っていたよ」
「私達、その方に逢えるかもしれないわね。バーチ」
「楽しみだね、ケルマ」
湖の浮き島に舟が着くと、渡し守のおじいさんは、さっきバーチがあげた煙草を吸いはじめました。日が沈んだばかりの薄闇に、火魔法の小さな明かりが浮かびます。
「では、星の花を採集したら戻ります」
バーチはケルマの入った鳥籠を舟に置いて、小島に出掛けていきました。
「渡し守さん、もっとあなたとお話がしたいわ」
「俺ぁ、あんたの話も聞きたいな。生首のお姫様」
「あいにく、私はなんにも覚えていないのだけど、こないだ王都で聞いた話でも……」