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温室

 馬車の荷台がバラの花でいっぱいになると、今日はいちばん好きな作業の日だわとケルマは嬉しくなりました。

「さぁ、バラ香水を仕込むよ」

バーチは美しく咲いているバラの花弁をどんどんむしって、ビンに詰めていきます。

 あたたかい日差しの中で、バラの香りが濃密に溜まって、渦巻いて、首から下がないので眺めるだけのケルマは自分もバラの花で、バーチの手に取られるのを待っているような心地になります。

大きな五つのビンにみちみちに詰まったバラの花弁たちの上に、ウォッカが注がれていきます。バラの香りを塗り潰すようなアルコールを吸い込むと、毎回意識がくらっとゆれて、ケルマは今馬車の上なのか、温室にいるのか、箱の中にいるのか、分からなくなってくるのです。

温室にバラは植えなかったはずだけど。

毎回そう思うのです。温室のある家なんて、私ってそんなにお嬢様だったのかしら。それとも使用人の方かしら。

うっとりとバラ酒に酔ううちに目蓋が重たくなって、そのうち箱に詰められたケルマを夢見るのです。ずいぶん長い間、暗くて寒かった気がします。あまりの孤独に、箱を開けてくれた人の恋人になろうと決意した気もします。

「ケルマ、またウォッカの香りで寝ちゃったのかい? ケルマ、僕のお姫様」

バーチのやさしい声で目が覚めます。

「バーチ、バーチ、あなたは私の王子様、そうでしょう?」

「そのとおりだよ、お姫様」

爪の中までバラの香りが染みた手で、やさしくなでてくれました。

はじめてなでてくれた時も、同じようにバラの香りが染みていました。

大好きな私の恋人。

首だけの私をなでて愛してくれる、唯一の人。

何度でも幸せな出会いを思い出せるから、ケルマはバラの香水づくりを眺めるのが大好きなのです。

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